断絶の予兆
初夏の風が吹き抜け、王都ヴァラスト城の大広間に飾られた白銀の甲冑が陽光を反射していた。
だがその眩しさとは裏腹に、広間には重苦しい沈黙が漂っている。
「申し上げにくいことながら……」
大使館付外交官アキレス・マルソーが低く頭を垂れる。
「プレジールとアルバントの同盟関係は、もはや瓦解の一歩手前にあります」
玉座の傍ら、若き国王レオンハルトは眉根を寄せた。
「具体的に申せ。原因は何だ?」
「先月の国境紛争が切っ掛けです」
アキレスは唇を噛む。
「国境警備隊の些細な越境問題に端を発し、アルバント側が突如『不可侵条約違反』を主張しました。しかも今日になって、彼らは我が国の小麦輸出船を無断拿捕したのです」
王弟ヴィクトールが立ち上がり、大理石の床に拳を打ちつけた。
「許せぬ!明らかな挑発行為だ!」
「問題はそれだけではありません」
アキレスは顔色を変えた。
「アルバントの密使によれば、ユーリ皇帝はすでに参謀本部を招集。来月にも『国際秩序維持』を名目に挙兵すると噂されております」
広間にざわめきが走る。
プレジールは東大陸最西端、資源乏しく小規模な国だった。
対するアルバントは中央平原全域を支配する軍事大国。正面衝突となれば勝算は皆無だ。
レオンハルトが静かに口を開く。
「……民を守る責任がある。和睦の道を探れ」
「ですが陛下!」
宰相カールが声を荒げる。
「ここで退けば百年後の屈辱ですぞ!」
「どちらにしても、我々の選択肢は二つに一つです」
老将軍ロベルトが腰の長剣を抜き放った。
「戦うか、服従か。いずれにせよ、剣を持てば敵となります」
刃渡り二メートルの鋼が虚空に揺れ、反射光が天井を切り裂く。誰も言葉を継げなかった。
「……武器庫を開けろ」
レオンハルトの命令が響く。
「明日までに各領主に動員令を発布する」
窓の外では、早朝の薄曇りの中、遠征部隊の鉄馬車が続々と城門を潜っていた。蹄の音が街路を震わせ、街の人々は不安げに見送る。




