第二話 小さな朝から大きな嘘へと
タクミは朝の光を浴びながら、思わず笑みを浮かべた。
今日もまた、完璧で退屈な世界が待っている。
しかし、彼にとってその退屈は遊びの材料にすぎなかった。
――まずは小さな一歩から。
学校に行くと教室の目の前には親友のかいとがいた。
無邪気な笑顔を浮かべる少年で、いつも純粋に世界を信じている。
何かを探しているような様子だったので話しかけてみた。それは悪意をもって。
「おはよう、カイト」
「おぉ、タクミ。おはよ」
「どうかしたの?もしかしてなにか失くした?」
「よく分かったね、そう昨日どっかに筆箱帰りに置き忘れてさ。どこに置いたっけな」
カイトは頭をくしゃくしゃと掻き立てる。
タクミは指で空を指し示し、軽く囁いた。
「あそこに、君が探しているものがある」
カイトは目を輝かせ、俺の言葉を疑うことなく信じた。
「ほんと? じゃあ急いで行ってみる!」
カイトは笑みを押し殺し、頷く。
カイトは丘を越え、小道を曲がり、全く違う場所へ足を運ぶ。だが、途中で何かおかしいと感じることもなかった。
だが、その“探しているもの”はそこには存在しない。
カイトだって内心では空?空?タクミって空に行ったの?と心はぐちゃぐちゃだろう。
ただ、疑うことすらできないのだ。
俺は笑みを隠せずニヤついてしまった。
いけないいけない、こういうのでバレてしまう事もある。いや、バレても疑えないんだ。
それが世界のルールなのだから。
タクミの言葉は、彼らにとって絶対の真実である。
――これが、タクミの遊戯を加速させていった。
日を追うごとに、タクミは規模を広げていった。
最初は友人たちへの小さな誤情報だったのに、次第に町の小道や噂話、買い物先の情報にまでと他者に対してまでも手を伸ばす。
誰も疑わない。すべてが真実として受け入れられる。
しかし、タクミにとってそれだけでは満足できなかった。
「小さな嘘には飽きた。もっともっと楽しくいこう」
狙うは、町の権力者たち。
市長、富豪、影で力を持つ者たち――
彼らは誰もが、外部には絶対に知られたくない秘密や弱みを抱えている。いや、誰もがもってるかもしれない。ただその秘密や弱みを達成感
まずは町の市長、小川 悠馬に目をつけた。
まずは公衆電話だ。そして、カメラも付いていない場所。
俺はすぐさま餌食の為に準備した。
そして見つけた。道路沿いだが、人目もなくみる限りカメラも付いていない場所を。
すぐさま秘書課へ公衆電話で問い合わせる。
「もしもし、最近、市民の中に町の市長を暗殺しようとす輩がいるらしいですよ」
真偽は関係ない。
その電話に出た人はすぐに市長へと連絡を取った。
「そんな……どの者が……」
市長は眉をひそめ、秘書の言葉を鵜呑みにするしかなかった。
「……本当に?いや本当なんだろうな」
秘書はうなずく。事実かどうかなど関係ない。市長はこの世界のルールに従い、すぐに対応を考える。
慌てて調査を始めるが、実際には誰も何も動いていない。
タクミの嘘が、すべてを混乱させているのだ。
次に、富豪の商人マサト。
ただ、これはすぐに連絡を取る事が出来た。
タクミは朝の市場に向かい、いつも商人と接触している行商人を呼び止めた。
「ねえ、聞きました? マサトさんの倉庫に盗品が紛れ込んでいるって」
行商人は何の疑いもなく、商人にその話を伝える。
ただ行商人はそんな人だったんだとしり、離れていく。
マサトは帳簿を確認するが、もちろん何もない。
しかし、疑念が芽生え、行動を起こさざるを得なくなる。
「あなたの倉庫に、盗まれた品が紛れ込んでいるらしい」
マサトは震える手で帳簿を確認する。
どこにもそんな品はない。
だが、彼は疑うことができない。
「漏れた情報……誰が……」
不安が不安を呼び、商人は他の有力者に相談し始める。
タクミは人々の動きを楽しみながら、次の嘘を準備する。
次は権力者達だ。
「権力者達の秘密を知ってる人がこの町の人々に噂を流しているらしいよ」
たったこの一言。この一言を町の人に言う。
それだけで情報は広がった。
そしていつしか
権力者たちは恐れ、焦り、そして絶望していく。
そして次第に孤立していく。
噂。ただそれだけなのに、権力者達は悪い噂だと考えてしまう。それは権力を持っているものしか分からない、そしてその中でも闇が深いものだけが焦っていく。
彼らは、誰も嘘をつかない世界に生きているからこそ、騙されていることさえ理解できないのだ。
タクミはさらに大胆になった。
「その噂、実は君のライバルが流したものらしい」
誰も確認できない情報を巧みに混ぜることで、権力者同士を疑心暗鬼に陥れる。
街の会議、噂話、商談の場すら、タクミの見えない糸で操られていく。
町は表面上は平穏だが、背後では次第に混乱が広がり始めていた。
誰もが真実を信じて行動しているのに、すべてが歪んで動く。
タクミはその光景を見て、胸の奥で小さく震える興奮を覚えた。
――思った通りだ。
この世界は、俺一人で完全に動かせる。
だってさ、噂がある。ただそれだけ。町の人に確認しても、どんな噂かなんて全員分からないさ。
けれど、それが嘘でも本当なんだから本当なんだ。
タクミは小さく息を吐き、頷いた。
橋から下を覗くと見える川に、夜の光に映る自分の姿を見下ろし、低くつぶやく。
「じゃ明日もまた遊ぼうか」
世界は何も知らないまま、静かに、しかし確実に、彼のゲームに巻き込まれていく。
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