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嘘の王  作者: 葛西 


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第一話 嘘をつける少年

この世界では、人は誰もが「真実の言葉」を口にする。


 何かを喋る時、嘘をつくことは出来ない。だから騙すような冗談も無理だ。意図的に飾ることも、隠すこともできない。

 だからこそ、人々は争わない。


 「あなたを嫌いだ」と言えば、それは本当で嘘じゃなく、相手に伝わる。

 逆に「あなたが好きだ」と言えば、それもまた嘘偽りなく表に出る。


 互いに理解し、互いを尊重し合うことで、世界は丸く収まっていた。

 ――完璧な世界。


 嘘も、欺きも、裏切りも存在しない。

 誰もが安心して暮らせる、幸福の箱庭。


 だが、そこにただ一人だけ、この調和を「退屈」と 感じる少年がいた。

 少年の名はタクミ。

 年の頃は十六。黒い髪を少し長めに伸ばし、目元に 常に笑みを宿している。

 彼の瞳には、周囲の人間にはない奇妙な光が潜んでいた。


 なぜなら、タクミだけが――この世界に存在しないはずの力を持っていたからだ。

 それは、「嘘をつく力」。


 彼が口にする言葉は、必ずしも心の真実ではない。

 「好きだ」と思っていなくても「好き」と言える。

 「嫌いだ」と思っていなくても「嫌い」と言える。

 彼だけは、自分の意思で言葉を操れるのだ。


 最初にそれに気づいたのは、小さな出来事だった。

 五歳のころ、母親に問いかけられた。

 「タクミ、お菓子を食べた?」と。

 本当は食べてしまっていた。けれど、タクミは咄嗟に口にした。

 「食べてないよ」

 母は一瞬、驚いたように目を見開き、それから頷いた。

 「そう……ならいいの」

 それは、ありえない反応だった。


 この世界の人間にとって「嘘を聞かされる」という経験は存在しない。

 母はその時、初めて「矛盾」を知りながらも、それを理解できなかった。


 ただ「タクミの言葉」を事実として受け入れるしかなかったのだ。

 タクミは悟った。

 ――自分は、特別だ。


 年月が経つにつれ、彼の力は明確な形を取り始めた。

 例えば、友人にこう言ってみる。

 「この先の森には、宝物が埋まっている」

 信じた友人は目を輝かせて走り出す。宝などあるはずがないのに。


 あるいは、少女に囁いてみる。

 「君のことが好きだよ」

 本当は何とも思っていなくても、少女の頬は熱を帯びる。


 嘘。


 それはこの世界にとって毒であり、同時に絶対的な武器だった。

 タクミは笑った。


 この完璧で退屈な楽園は、自分にとって最高の遊び場だ。

 真実しか語れぬ人々は、彼の言葉に簡単に踊らされる。

 「退屈しのぎには、ちょうどいいな」


 その日からタクミの「ゲーム」が始まった。

 それは、この世界の誰もが想像できない事の始まりだった。


読んでくださりありがとうございます!

どうでしょうか?感想を聞かせてくれると私としても嬉しいです!


全12話構成のつもりです!

(一話自体が短いのはすいません、!)

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