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20/22

【再度】

 ◆◆◆



「お前なんか、死んじゃえ!!」




 背後からガシャんと金属の嵌った皮のようなもので首を絞められたアリシア。


 ——え? 何? 


 いつの間に背後に回ったのか。

 マリサが、ケーキを切り分けるためにテーブルに置いてあった、そんなナイフを手にして。

 アリシアの背中にそのナイフを深く突き刺す。


 ——わたくし、失敗、しちゃった?——


 薄れゆく意識。


 世界が、反転するのがわかった。









 ◆◇◆



 わたくし、失敗しちゃったのね? っていうか、もしかして今までのことは全部あなたが見せてくれた。夢?


 いや。そうじゃないよ。あれもちゃんと現実。一つの世界だから。でも。


 でも?


 たとえ時間軸を改変して、別の世界でお前が幸せになったとしても。それはこの世界のお前が報われるわけじゃない。


 この、世界?


 ああ。ここは、元のお前がいた世界。最後の瞬間、あの世界でお前の魂が大霊(グレートレイス)に飲まれてしまうのを阻止するために、俺がここまで攫ってきた。


 ここは、もとの時間、なの?


 そうだ。この世界で結局そのまま死ぬか、それとも魔力を解放しこの世界を滅ぼし、復讐を果たすか。お前はどうしたい?


 わたくし、は。

 可能性の世界は確かに魅力的、だった。

 わたくしはあの世界で初めて生きている喜びを感じたのかもしれない。

 だけど。それでも。

 そうね。

 わたくしっていう人間は、わたくししかいないのだもの。

 ねえ、ウィルヘルム。

 わたくしはあなたと一緒に居たい。未来永劫、共に過ごしていきたい。

 だめ、かな?


 俺と、一緒に?

 もう、この世界には未練がないのか?


 きっと、わたくしが望めばあなたはまたわたくしを過去に跳ばしてくれるんでしょう?

 きっと、あなたにはそれだけの力があるのだもの。

 だけどね。

 もう、いいわ。

 それよりも。


 もっと別の世界を見てみたい。

 あなたと一緒に。


 退屈、だぞ?


 退屈?


 ああ。

 ただ見ているだけの世界だなんて、退屈極まりない。


 じゃぁ。

 わたくしがあなたに退屈じゃない日々をあげる。

 それじゃ、だめ?


 ふふ。

 やっぱりお前は面白いな。

 いいよ。お前と二人なら。どこに行っても楽しそうだ。


 そうね。

 好きよ。ウィルヘルム。


 ああ。俺も、だよ。




 漆黒が二人を包み込んだ。

 外の世界は、ただただ白く。雪に覆われていく。



 そのまま、アリシアの世界は再び反転したのだった。





 ◇◆◇


「アリシア!」


 目の前のルイスがそう、叫ぶ。


「ごめんなさい、ルイス殿下。でも……」


 大粒の涙が溢れて止まらない。

 なんて答えていいのかわからない。けれど、ダメだった。心の慟哭が止まない。涙が溢れて溢れて、止まる気配がない。


「恐れながら、殿下。お嬢様はお気持ちが昂ってしまっております。今日のところはこのまま静かに見守ってくださいませんでしょうか」


「ミーナ、だったな。大丈夫なのか……? アリシアは、その……」


「ええ。どうやら悪い夢を見たようなのです。心を落ち着かせるのに少しお時間がかかるだけで、ご心配には及びませんから」


「なら、いいが……。そうなのか? アリシア。大丈夫、なのか?」


「ええ、ごめんなさい、殿下。心を落ち着かせるのに今少しお時間をくださいませ」


「私は、何か力になれないか? なんでもいい、言ってくれ」


「ありがとうございます。嬉しいです。殿下。でも、ほんと、心配しないで……。夢見が悪くて心がざわついてしまっているだけですから……」


「そうか……」


 黙り込むルイス。それでもこちらを心配そうな目で見ている。


 何も言えない。それを申し訳なく思うけれど、しょうがない。そう思いつつ馬車が屋敷に着くのをただただ待った。


 アリシアの心の慟哭も治ってきて、溢れていた涙もほぼ止まった。

 ハンカチを目元にあて、残った涙を拭う。

(わたくし、ひどい顔してるのかな)

 お化粧もはげてしまっているだろう。いや、とれてしまっているだけならまだマシだ。崩れてボロボロで見られないほどひどい顔をしているんじゃないかと、恥ずかしくなる。



 ブランドー公爵家の馬車まわしにつけ、先におろしてもらったアリシアとミーア。


「殿下、送っていただいてありがとうございました。途中泣き出してしまい申し訳ありません」


 ドアの外からカーテシーをしてそう謝罪する。


「お見苦しいところをお見せしてしまいました。ご不快にさせてしまったと反省しています。どうか、お気をつけてお帰りくださいませ」


 そこまで一気に捲し立て、一礼した。


「いや、不快だなんて思っていないよ。アリシア。君を送ってあげれてよかった。ではこれで」


 ルイスがそう紳士的に応えると、扉が閉まり馬車が走り出した。

 今まで「おまえ」呼びばっかりだったルイスが、今日は「君」と言ったことに、アリシアはルイスとの関係が一段変わったように感じて。


 これまで通りではいられないかもしれない、そんな予感めいたものを感じていた。

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