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キライな幼馴染の距離感がバグっている  作者: おおりく


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5/10

5 境界線の向こう側、初めての違和感

翌日も、汐音は俺に話しかけてこなかった。


朝の通学路は静まり返り、教室に入っても、彼女は俺とは目を合わせようとしない。昨日までのあの、うざいほどの距離の近さが嘘みたいだ。


彼女は友達に囲まれて笑っている。その笑顔は明るいけれど、俺に向けられていた、わざとらしい甘さや、バグった親密さは欠片もない。ただの、クラスメイトの「可愛い汐音」だ。


その様子を見て、俺は奇妙な喪失感を覚えていた。


昼休み。


いつもなら、「ねー、海斗!パン半分こしよ!」と、俺の席に図々しく座ってくる汐音がいない。俺の机の引き出しには、まだ彼女のラブレターが入ったままだ。


俺はたまらず席を立ち、購買で買ったクリームパンを片手に、屋上へ続く階段を上がった。


コンクリートの壁に背中を預け、パンを齧る。潮風が、昨日よりもずっと冷たく感じられた。


俺が引いた境界線。


俺が突き放したことで、彼女は無理をしてまで俺を追いかけてきた。そのバグった行動が、俺にとっては彼女が「まだ俺の幼馴染でいる」という依存的な安心感になっていた。


なのに、今。彼女は自分でそのバグをリセットし、正しい「他人との距離」を取り始めた。


それはつまり、俺が、本当に彼女を失ったということだった。


「…なんでだよ」


誰にも聞こえないように呟く。


なんで、あんなに嫌いだと思っていたくせに、今になってこんなに胸がざわつくんだ。


手紙の内容を思い出す。


「小学校の頃、みんなで海で遊んでいたとき、私、貝殻で足を切っちゃったこと覚えてる?」


あの時、俺が彼女を抱き上げて運んだときの、彼女の身体の軽さと、俺のシャツにしがみつく指の力を思い出した。あの瞬間から、俺は彼女を「守るべきもの」として認識し始めたのかもしれない。


そして、その感情が「恋愛」という形に変わるのが怖くて、俺は突き放した。


俺は、今まで汐音に対して、一度も正面から向き合っていなかった。いつも、突き放すか、うざがるか。


俺はクリームパンを飲み込み、立ち上がった。


もう逃げない。このバグを直せるのは、俺しかいない。


その日、放課後。


俺は昇降口を出て、彼女のクラスの近くで待った。汐音が友達と出てくる。彼女は俺に気づいて、一瞬立ち止まったが、すぐに視線を外し、友達と笑いながら海とは反対方向へ歩き出した。


逃げてる。


俺は意を決して、大声で叫んだ。


「汐音!」


彼女はびくりと肩を震わせ、振り返った。友達が不思議そうにこちらを見ている。


俺は早足で彼女のそばまで歩み寄った。


「…海斗、何?」


「ちょっと来い」


俺は返事も待たず、彼女の腕を掴んだ。


汐音の身体が、完全に硬直したのがわかった。


昨日まで、あれほど俺の身体にくっついてきた彼女が、今、俺が自ら触れたことで、一番遠い場所にあるように感じられた。


彼女の腕は細くて、そして、ひどく温かかった。


俺は、彼女を強引に引きずり、慣れ親しんだ海沿いの道へと向かった。


この瞬間、俺と汐音の間の境界線は、音を立てて崩れ去った気がした。

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