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第27話 祝勝会

 花屋に着き、一頻りガーネットと喜びを分かち合ったリン。

 もっとも危惧していたガーネットへの精神的な傷は浅く、むしろ必死にリンやアルバが救ってくれた事実が彼女をより早く回復に向かわせていた。


「あ、ガーネットさん。こんどマリアさんが祝勝会? みたいなの開いてくれるんですけど、一緒に行きませんか?」

「あらそうなの? ん~……どうしようかしらね」

「もっ、もちろん『桜祭り』の準備は終わらせますよ。ちゃんと全部片付けてからの、お祝いです」


 食卓で向かい合う二人。

 静かな夜の空気がリンに変な緊張をもたらす。遠くで強く吹いた風の音より、今はガーネットの悩む小さな声や横を見る仕草、食卓を鍵盤のように触れる指の音の方がリンの心に深く響く。


 なんて、言われるだろう。

 疲れていないはずがない。あれだけの事件に巻き込まれて、軽傷で済んだからと無傷のように話しかけてしまっただろうか。


(私、また相手の気持ちも考えずに自分勝手な事……)


 それは日頃、自らの気持ちや感情を隠すリンだからこその失敗。

 話さず。伝えず。故に話せて伝えたいと思う人には感情が先行する。


「……あっでもガーネットさんも大変でしたし、全然、無理とかは」

「そうね、今回は遠慮しようかしら。ちょっと……色々と整理できるまでは一人でいたいの」

「分かりました」

「ありがとうリン。気を遣わせちゃったわね」


 初めて見る、ガーネットの少し苦しそうな笑顔。

 事件の重さが彼女の強さや明るさに影を落としたのだ。


 完全勝利と、そう思っていた。

 実際リンたちは勝利した。相手の思惑通りにさせず、人質を取り返し計画を打ち砕き裏切り者を確保した。……した、が。それでも傷は残る。リンはその日、自身の勝利した高揚感とガーネットの表情に板挟みになりながら寝た。


 そして数日後の四月一日。


「おじゃましまーす」

「お、来たなリン」


 緊張した面持ちでリンは扉を開くと、既に中にいたアルバが気付いて微笑みかける。

 初めてのパーティー。それも友人と。喜びの興奮が半分、こんなことしていいのかと後ろめたさが半分。しかしリンの登場に中で準備を進めていたリリー達は笑顔を向けてくる。


「リン様!? もうそんな時間……ちょっとキョウさんも手伝ってください」

「え~仕方ないなぁ。じゃ、お姉さんこっち座ってよ」

「エスコートじゃなくて飾りつけの方を……」


 前回とは違い明るい時間だからか、あの日に感じた怖さやボロボロ感はない。

 というかよく見れば純粋に修復されている。なんだ、ちゃんと教会らしく明るくていい場所だ。そうリンは思いながら、キョウに手招きされ長机の用意された室内の一番奥の席に座った。


「え、ここってマリアさんの席じゃないんですか?」

「ん~? そんなの無いけど。むしろ、今日はお姉さんが主役だし?」

「でも年長者や役職の高い方が出入り口の一番奥に……」

「ふひっ、年長者……くっ、ふふ。大丈夫、心配しなくてもマリアは来ないから」


 忙しそうに飾りつけや料理を外から運んでくるアルバとリリーを尻目に、自分も座っていていいのかとソワソワしだすリン。

 対してキョウは自然な形でリンの横に座ると、既に置かれている料理に手を伸ばしながら「気にせずゆったりしてなよ」とリンを座らせたままにする。もちろん、キョウの目的は単純で、客であるリンまで手伝いだしては居心地が悪いからだ。


「ほい。お姉さんもサンドイッチ食べる?」

「いえ、みんなが来てからにします」

「ふーん。……あ、一応伝えとくとカエルムが吐いたおかげで、国内に潜伏してたアイン教の拠点や他の内通者はほとんど捕まってる。だからマリアも、テロの可能性は限りなく減ったんじゃないかってさ」

「それは未来視の結果ですか?」

「いや単に予想。ていうかマリアの目はまだ先の未来を観測できないみたい。まだ真っ暗だってさ」

「なら……」


 どういう意図か、急に事件の後日談をキョウにリンは改めて自分の現在位置を確認する。あの事件は終わった。だが、未来で待ち受けているテロが消えたわけではない。


「大丈夫じゃない? だってお姉さんが倒したの、敵の最高戦力だよ?」

「そういう問題ですか?」


 しかしキョウは相変わらずの軽さで淡々と続ける。


「そういう問題でしょ。今回の件でフラワは騎士団含めてテロの対策と対応にあたる。でも国内は潰し切り、向こうの種も月の国製の盗聴器やらだと分かった。それにカエルムがマリア対策の邪眼除け? だかなんだかを使うよう指示したって。ね? 全部繋がるでしょ?」

「……要するにマリアさんが未来を観測できなかったのはアイン教の対策のせいで。仮にテロが起きても騎士団と連携して制圧できると?」

「めっちゃ良く言えばね」

「悪く言うと?」

「騎士団と議会にお姉さんの話の一部がバレた。でも今回のアインソフだっけ? あいつを倒した功績とかでチャラだとは思うけど」


 どこまでが知れ渡ったのだろう。

 現状の待遇を考えるに、間違いなくメリュラントの話までは伝わってないはずだ。

 とすれば力のある代行者で、アイン教が引き入れようとしていた。なんて憶測を話したのだろうか。


「で、質問ある?」

「いえ……王国側の意見は分かりました。でもやっぱり気が引けますね」

「えー!? 今更? ここまで来て!? 噓でしょお姉さん。なんのためにアタシが先に話したと思ってんの?」

「え? 単に報告じゃ……」

「違うから。楽しい会であれこれ不安そうな顔されると面倒だからだよ。むしろなんでそこまで不安なの?」


 キョウの言葉に少し俯き、考える。

 理由はいくらでもある。一番の理由は、自分のせいで人が死ぬかもしれない。これに尽きる。


 だがキョウはそんなリンの考えを先回りするように捲し立てた。


「いい? 向こうの狙いはお姉さんだけじゃなくて、宝物庫の『アトプルマウの棺』も狙ってる。要するにお姉さんが居ても居なくてもテロは起きた。で、現状お姉さんが敵の最高戦力を倒してくれたから、アタシ達でも対処できるようになったの」

「それはそうですけど……」

「主役なんだから笑顔でいて。めんどくさい。お姉さんもバカじゃないんだから、犯罪は起きるまで対処できないって知ってるでしょ? それとも何? お姉さんお得意の直感パンチで民間人と区別できないアイン教ボコってく?」


 彼女の言い分はもっともだ。

 もっともすぎて、自分の感じているモヤモヤの理由が分からない。


 いや、分からないのだから、彼女の言う通り笑顔でいるべきか。

 リンは一先ず自分を暴力装置みたく言ったキョウの頭を撫でるように優しくチョップし、大前提年上として訂正する。


「分かりました。当日何があっても、一緒に戦います。だから人をなんでもすぐに殴って解決するみたいに言わないでください」

「…………今のチョップは暴力に入らないの?」

「ぐっ、」


 冷静にジッと見つめるキョウの言葉に何も言い返せなくなるリン。

 直後キョウは固まって動けないリンを見て大笑い。しかも、丁度リリーとアルバが最後の料理を持ってきたタイミングでだ。


「ん? お前ら何やってんだ?」

「やめて。今すごく恥ずかしいから」

「キョウ、お前リンまでからかい始めたのか?」

「まっさか~。こ~んな、ね、怒らせたらすぐパンチが飛んできそうなお姉さんを小馬鹿にだなんて。ね~?」

「わー! 私が悪かったから止めてくださいキョウさん!」

「じゃあキョウちゃんって呼んで」

「えっ?」

「それとリリーのこともリリーって呼び捨てね」


 突然話を振られて固まるリリーと、同じく突然の提案に反応が遅れるリン。

 教会という広い空間には異様な空気が流れ、四人のうち二人はソワソワと何を話せばと思案し、もう二人は挙動不審な彼女らを見てニヤついている。


「だって年上なのにいつまでも敬語って面倒じゃん? それにアタシ、お姉さんとリリーは似た者同士仲良くなれると思うんだよね」

「そう、ですか?」

「えと……リン様さえよければ」


 恥ずかしがる二人を見て、気を遣って席をリリーに譲るキョウ。

 けれどアルバは見た。二人が隣で仲良くなるきっかけを模索し、意識が向いていない隙にキョウはこっそりとテーブルに置かれた肉をつまみ食いする瞬間を。


「ん。アル兄も共犯ね」

「……オッケー。ただし一個だけな」


 渡された骨付きチキンを手に、こっそりと密談する。

 これで交渉成立。真面目な二人の目を掻い潜ってこそ、つまみ食いはより美味となるのだ。


「よーし。とりあえず祝勝会、始めるか」

「うぇーい。最初の挨拶はお姉さんね」

「いいですけど……。まぁひとまず? 乾杯!」


 リンの掛け声に他の三人もグラスを掲げる。

 これで何を食べても怒られない。こっそりと先に食べた事実は消え去った。


 そして四日後、運命の時が訪れる。

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