第25話 摘み取る芽、掴み取る手
リンが過去の自分を肯定し今の自分を許す中、同じ景色を別の意識が覗いていた。
(なんだこれ。ずっと……いや、あん時の続きなんだろうけどさ、え? 俺死んだんじゃないのか?)
覚えている限り、最後の記憶は突然現れた敵の少女の不気味な笑み。
咄嗟にリンを押し飛ばして……そこから先はあまり覚えていない。
(ん~……走馬灯ぉ~にしては俺の記憶じゃないしなぁ。あ、これリンママが前に約束してくれたヤツか。……あれ、じゃあ俺の生死分からんくない!?)
記憶の混乱に加え『死んだのかも』という感覚が抜けないアルバは、現在の状況が飲み込めずに混乱を極める。メリュラントであれば、たとえ自分が死んでいたとしても約束通りリンの過去を見せられるはずだ。なんて、リンの言うメリュラントの偉大さを実体験した今ならそう思える。
「師匠。約束、覚えてますよね?」
「いいのか? たかが二年で。私に一撃入れられるとでも?」
それにしても、リンは本当にどうやってあの『災厄の魔女』メリュラント・ラングルス・クトゥブーリカに勝ったのだろうか。
別にリンを疑っている訳ではない。
彼女が安易な嘘を言うはずもない。けれど、あの無法っぷりを前にして、過去の神話時代に描かれた内容や話がすべて現実なのではと思わせられたのだ。
「はい。これが最初で最後の勝機なんです」
「分かった。……始めよう」
灰色の大地で、二人が向かい合う。
アルバの推測では全力を尽くしたリンが辛くも一撃加える。勝利条件から考えて、もはやこれしかない。
だが次の瞬間、アルバは自分の推測が甘過ぎだったと理解させられる。
「っ!」
「……無詠唱での攻撃。速度もよく、殺傷性も高い。上達したね」
「【身体強化】」
無詠唱での界法。
突如地面から生えた竹。その界法自体はアルバも見たことがある。しかし現実の成長したリンが使うのとは速度も鋭さも格段に違い、確実に殺す気で放っている。
対して、メリュラントはリンの攻撃を分かっていたかのように目で竹槍を追って、それでいて動かずの静観。弟子と同じく無詠唱での界法発動。アルバにはなんの境界を弄ったのか分からないが、とにかく竹槍はメリュラントの肉体をすり抜けている。まるで、煙を相手にしているようだ。
「はぁあー!」
「フッ。そうだな。君にはそうする他に無い。私の界法を封じる為にも、近付いてなんとか【華凛】を当てなくてはな」
幼きリンが、その小さな体躯を躍動させる。
界法による強化もそうだが、周囲に無詠唱で竹や蔓植物、樹木を生やして足場や加速に使い、上下左右に高速移動しながらメリュラントへと迫る。
正面からはリンの猛攻。背面からは無詠唱で繰り出される多種多様な攻撃。
それをメリュラントは軽い足取りで後方に移動しつつ薙ぎ払い、打ち、潰し、引き千切り、躱し、時には虚空に生み出した境界の隙間に手を入れ、新たに虚空を複数周囲に展開すると、そこから腕を複数本出して迎撃した。
(なん、だ……これ。こんなの勝てる訳ない。無理だ)
界法に詳しくないアルバが見ても、実力差は明らか。
そもそも物理攻撃は境界の界法によってすり抜けられる。もちろんリンの【華凛】であればそういった効果も無視して当たるのかも知れないが、それを考慮しても体格差があり過ぎる。
加えて『セカイ』の違い。
確か境界の界法は世界のあらゆる『物質』『概念』『認識』の三界に干渉できる反面、同じくあらゆる三界に干渉されるとリンが言っていた。けれど、それが弱点だとして、この状況。幼いリンの界法は凄まじいが、メリュラントを追い詰めるに至るとは感じられない。
「ガっ!? ……っ、【弾けろ。スナバコノキ!】」
「拡散攻撃に加えて毒……他にも空気中に有効成分を混ぜて単純な境界の反転では対処させない。ふふっ、発想は素晴らしいが君の攻撃は全部『自然界』でまとめられる」
突っ込むリンにメリュラントの反撃。
親と子でなはなく、師匠と弟子であっても厳しい痛烈な回し蹴りがリンの腹に直撃し吹き飛ばす。しかしリンもすかさず界法を発動し、メリュラントの追撃を免れる。
目に見えぬ毒。
爆発する、アルバには名前すら聞いたことの無い果実。
有効打になってほしい。そうアルバが祈るのは純粋にリンの勝利を願ってのこと。もちろん結果は分かっている。だが目の前の光景に「勝って欲しい」と、その一心で汗滲む手を拳に変えて願う。不安が、拭えないのだ。
「まぁせずとも対処できるがね。【境面よ、薙ぎ払え】」
詠唱の後、不可視の壁が周囲を薙ぎ払う。
周囲に生えていた植物達は根こそぎ『セカイ』に還され、リンも不可視の攻撃に再度吹き飛ばされた。
もはやここまで。それでも幼い彼女は立ち上がる。
口の端から血が出ているが、気にする様子は無い。肉体の損傷など界法でいくらでも回復できるのだろう。ただ、アルバにはそれが少し恐ろしく思えた。執念だけではない。戦い方。戦法。自らの命を軽視して戦う幼きリンの姿は、純粋に同じ人間として怖かった。
(リン……。頑張れ……)
手が、震える。そこまでしても勝てるかどうかの相手。
意識体でありながら手が震えるだなんてのも変な話だが、間違いなくアルバの脳は、認識は恐怖と不安に震えていると発していた。
何故なら彼は知っている。
メリュラントはまだ手加減している。むしろ肉体面での降伏を期待できないからこそ、リンの心を折りにいっている。界法師の戦いは如何に相手の意識を削れるか。精神攻撃はある意味、常套手段と言えるだろう。加えてアルバが危惧しているのは、自らも体験した界法の極致だ。
「さて、そろそろ負けを認めてくれないかな?」
「嫌です!」
「そうか――【開放・自己解放】」
完結せし理想の体現。
因果を自己完結。理想を創造。『セカイ』を体現。
いつかリンは言った。界法はあくまで『セカイ』にある要素や力の組み合わせであり、魔法のようになんでも出来る訳ではない。そこには当然『セカイ』と世界によるルールが存在するのだと。
だが目の前の光景はどうだ。
メリュラントが発動した界法が、この小さな二人だけの世界を一瞬で塗り潰していく。
自身と『セカイ』の一体化。心の現れ。
足元を駆ける黒、あるいは白の液体は同じく黒か白の空を湖面に映し、その天と地の境にある空間に心配を含んだ赤と厳格を含んだ青が混ざって生まれた紫が満ちている。まるで、リンに分かってもらおうと訴えかけているようだ。いや、実際にそうなのだろう。直接言えない言葉を、空気で訴えかけている。もしくは、そういった雰囲気も含めて話すつもりなのだろうか。
「リン、諦めなさい。あなたに自由を教えたのは私だ。その点については謝罪しよう。自由の中で不自由を与え強要するのは、私が最も嫌う一つだ。だが、不自由の中で自由を見つけるのも素晴らしい人生だ。分かってくれ。私は、お前が道を違えるのを止めたいだけなんだ」
語られた言葉は、何かアルバには強者故の独善や傲慢に聞こえてしまった。
もちろん、決めるのはリンだ。そして自分が彼女と出会えているのだから、答えは当然決まっている。
「なら、行かせてください。外に自由な世界があるのに、ここだけで我慢しろなんて嫌なんです!」
「それは……すまないと思っている。だが拘束も永遠じゃない。すぐにとは言わないが、リンがもっと強くなった暁には必ず――」
「嫌です! 今がいいんです! 忘れたんですか!? 私の挑戦は一生に一度。今日ここで負けたら籠の鳥です。綺麗でも、穢くても、私は頭の中の世界じゃなくて! 本物の世界に触れたいんです!」
メリュラントの言葉を遮り、涙を堪えて少女は世界に叫ぶ。
拳を振り上げ力を籠め、眼前の人のエゴを打ち砕こうと地面に叩きつけた。
「【華凛!】」
「…………」
恐らくは『自己解放』への対策だったのだろう。
しかしリンの攻撃虚しく、空間が少し削れただけで、すぐさま削れた個所も元に戻った。
「まだ、続けるのかい?」
完全に打つ手なし……に見える現状。
これ以上どう戦うのか想像すらできない。特にアルバは『勝った』という事実を知っているが故に、ここからの大逆転を信じ切れずにいた。
「勝つなら、いつでもどうぞ。師匠が私を倒すだけなら簡単でしょう? でも、倒したいのは私じゃなくて私の憧れ」
「そうか。……いい揺さ振りだ」
「言いましたよね? 不自由の中で自由を見つけて進むのが楽しいって。なら、たとえ外の世界が険しい茨の道であっても、道があるなら進みたいんです!」
対して幼き日のリンは自らを信じている。
師を前に凛と立ち、輝く薔薇の瞳は真っ直ぐ前へ。
そこに射抜くような鋭さは無く、親と慕う人に自らの夢を語る。純粋無垢な想いの丈。
「ぁぁ。もういい。十分だ……終わらせよう」
しかし返答は鋭く。吐いた溜息は温情を捨てる為か。
冷たく厳しい眼差しが、大きな三角帽子の陰からリンを射殺すとばかりに向けられる。言葉は尽くした。もう容赦はしない。終わらせるだけなら、事実簡単だ。
「ええ。勝つのは私です!」
「……?」
だがリンは笑った。
勝ちを確信している。あり得ない感情だ。
そうメリュラントとアルバが感じた直後「ゴゴゴゴゴ」と地鳴りのような音が響く。
「【世界よ怒れ。私を阻む旧世界を滅ぼし、私を受け入れる新たな世界へ!】」
笑顔での詠唱。少女の口から放たれる、物騒な言葉。
どのような効果かは、アルバには分からない。単語が表す内容が壮大過ぎて、結果を推測できないのだ。
ただ、音は間違いなく近付いている。
何かは既に起きているのだ。恐らく、全容を知るのは行使者であるリンのみ。そう思ってアルバが彼女の顔を確認すると、酷く困惑した表情で前を見ていた。
「……これで全部か?」
「ッ!?」
前にいるのは、メリュラントしかいない。
彼女は片手で帽子を押さえながら、返答の無いリンを見て上を向く。その沈んだ暗き瞳には、天より地を葬るべく迫る巨大な隕石が映っていた。
「限界までの無詠唱。それと条件起動か。加えて私が『自己解放』を使うだろうという読み。惜しいが残念だ。ここは私の完結した世界ではなく、理想の世界だ」
「【身体強化!】」
「許さん。【動くもの皆止まれ】」
一瞥するまでも無く言葉が紡がれ、世界が止まる。
動き出そうとしたリンは踏み出す寸前のまま停止。天の隕石も、完全に動きを止めて巨大な影となり、ただ一人メリュラントだけが自由に振る舞う。
「自爆覚悟の攻撃。もし私が完結で発動していれば、時間差での隕石衝突で現実世界の肉体に有効打を与えられただろう。ここであれば結界で何があっても外の世界に影響が出ることはないからな」
今にして思えばこの状況、迎え撃つはかつて世界を分断した張本人だ。
降る星を砕くなど、メリュラントには容易いことだったのかもしれない。そして彼女は余裕からか推測を口にしながら、開いた手を天へと伸ばす。
「【境界の使い手。我が瞳に映る星。今、湖面の月を捉えよう】」
伸ばした手を、更にピンと強張らせて開く。
紫の靄に覆われた灰色の世界で、メリュラントの暗く黒い瞳に映る星は夜空での在り方と変わらず。故にかの偉大なる界法師は求めるまま、開いた手で星を掴む。
まだ、星は空を破って顔を覗かせたばかり。
それでも十分な大きさだが、遥か遠くの巨星より目の前を覆う手の平の方が何倍も大きいのだ。もちろん物理的な事実かどうかではなく、あくまで主観。ただし、ここでは彼女の主観が何よりも優先される。ここはメリュラントの世界なのだから。
「……昔、飛んでいる虫を捕まえようと躍起になって、握り潰してしまったことがある。私は確かに虫を捕まえたが、手の中で原形を留めぬソレが求めていた物だったとは感じられなかった。……リン、お前の全力の一撃も、潰して砕けばただの砂だ」
感情の感じられぬ声で話しながら、掴んだ星の残骸をリンに見えるよう地面へ落とす。
希望の星は砕かれた。メリュラントにとってそれは小さな砂団子に過ぎず、少し握っただけで崩れるような脆い夢。
「【解除】」
「っ! まだ!」
だからこそ大切に仕舞っていて欲しかった。
他人に触れられなければ崩れることのない尊い夢。たとえ本人には輝いて見えるそれが砂を塗した泥団子であろうとも。
許容し、肯定し、頭を撫でてあげたかった。
「【境の淡いより来い】――」
自身が母だけであれば、叶ったかもしれない。
もしくは父としてだけであれば、別の方法でリンの背を押せたかもしれない。
血の繋がり。過去の過ち。
自分でもリンとどう接していいのか、答えは出なかった。
あの日の神も、そうだったのかもしれない。
しかし気付くには遅すぎた。許すのも、許されようとするのも。
少女は既に駆けだして、まだ希望はあるのだとこちらに拳を振るう。だが行動を許したのは自分だ。拳の握りや戦い方を教えたのも自分だ。ただ一つ、自分を倒さんが為に創られた美しき界法だけは、彼女だけの尊いものだ。
「【華凛!!】
「――さようなら、リン」
虚空より現れた大太刀の柄を掴む。
既に振るわれた拳は徐々にこちらの腹へ迫るが、僅かでも境があるのならば問題ない。それは分断する境界そのもの。境界がもつ一側面の具現化。
「【抜刀:アカクラノ太刀】」
「ッ!?」
そして、すべてが分かたれた。
過去と今。生と死。因果ですら。
アルバは確信していた。
リンが勝った。否、メリュラントが勝ちを譲ったのだと。
突然理想と現実について語ったかと思えば、行動制限の界法どころか『自己解放』まで解除しだす意図など、根負けしたとしか思えなかった。
(は? はぁあっ!? なんでっ!? え、だってリンの方が先に……えっ!?)
メリュラントが虚空から武器の柄を握ったのは覚えている。
だが武器が取り出されるより早くリンは拳を、【華凛】を繰り出していた。アルバ自身「当たる! 勝った!」ではなく「当たった。これで勝ったのか」と思っていたほどに。
しかし倒れたのはリンで。首を切られたのもリン。
原因と結果の境には何故か、メリュラントが抜いた大太刀を振るう姿が鮮明に残っている。
「これは……二度と味わいたくないな」
影の中では光輝く白。光の中では明暗分かつ黒。
アルバの見たメリュラントの大太刀は、まるで紙に書いた線のようで、横から見ていたのにずっと刃がこちらを向いていた。
(あれが境界の界法……ハハッ、嘘だろ。じゃあリンが攻撃したあとで剣を振った事実を挟んだのか?)
あまりの光景に、リンが斬られた衝撃にたどり着けないアルバ。
しかしメリュラントは違う。リンを斬った感触と、殺した感覚が確かにある。ただ生死の境界ごと斬った為、彼女の首は繋がったまま。その命が死に傾くことも無い。
状態としては生きてもいないし、死んでもいない。
そんな曖昧な生命の淡いとなった我が子を、元凶の手が優しく抱き抱える。
「帰ろうリン。一生私を許さなくていい。今まで通りになんて望まない。けれど、それでも二人でぃッ!? ヴぁッ!?」
それは、一瞬の出来事だった。
抱き締めた我が子から放たれる衝撃波。それは電流のように肉体を進みながらも、決して道を違えずメリュラントの脳へと伝わり、花開く。
結果メリュラントの体勢は崩れ、頭から前方に倒れてしまう。
刹那、このままではリンを地面にぶつける。そう直感して咄嗟に身を捻りながら界法を行使しようとしたが、自身と『セカイ』が断裂していて激しい頭痛だけが返ってきた。
「だッ、リン! 大丈夫か!?」
「…………」
なんとか背から倒れたメリュラントはすぐにリンを抱えたまま立ち上がり、彼女の無事を確認する。
あれは間違いなく【華凛】だった。もしリンの生死の境界や首の切断面を治すのが遅れていれば……
「……はは。母様、凄く焦ってる」
「笑い事じゃない! もし少しでも遅れていたら――」
「はい。信じてました」
少しぐったりとした様子で優しく微笑むリンに思わず叱責するメリュラントだったが、続く言葉を聞いて自身の方が言葉を失う。
「……発動条件は?」
「無意識状態で他者に抱き締められた時です」
「効果範囲は?」
「決めると境界でバレるかもと思って、とにかく全部です」
「自分の『セカイ』まで傷つくんだぞ?」
「母様なら治せると思って」
一つ一つ確認する度、話す言葉よりも涙の方が多く零れ落ちてリンを汚す。
優しい少女は手を伸ばし、涙を拭ってやるが止まる気配は無く。それでも笑顔で泣く母の顔を何度でも拭う。
なんて強く、優しくなったのだろう。
嬉しさと同時に自らの傲慢さを痛感した。自分に勝てたらだとか、いつか強くなったらだとか。自分が気付けなかっただけで、とっくにリンは強く成長していたというのに。
「完敗だ。……本当に、リンは私の誇りだよ」
瞬間、リンも強くメリュラントを抱き締め返す。
溢れ出す感情。言葉。ここまでの想いがいっぺんに押し寄せてくる。もう、我慢する必要なんてない。
「ごめっ、ごめっなざい。か、かぁ様っ、がぁ、優しいのっ、知っでで」
「うん。大丈夫。大丈夫だから」
怖くて厳しかった手が、今は優しく背をさする。
どちらも本当で、どちらも嘘じゃない。世界でたった一人の大切な人だ。
「わっ、わたっ。うぐっ……私っ、かぢたく、てぇ。でも、本当は……わだぢ、ちゃんどっ……」
「そっか。騙し討ちじゃなくて、正々堂々勝ちたかったんだ」
「悪い子でごめんなさい! 約束、守れなぐでっ!」
強く、言い過ぎただろうか。
こんなにも重く受け止めさせて。
間違いはあった。だが真実でもあった。
リンが外へ行くには早すぎる。そして、この世界は間違いなく過酷な運命を強いる。せめて傍にいれば……それか、彼女が運命すら覆せるほど強くなれば……。
なんて、外の世界は危険が多く、優しさに付け入る人間もいるなどと講釈を垂れていた側が、自分の優しさを信頼されて負けたのだ。
もはや自分に外の世界を語る資格は無い。彼女の力を信じられなかった自分が、彼女に信じられて負けた。次は自分の番だ。きっと大丈夫。絶対に。
「でも勝ちは勝ちだから、今日はお祝いだ」
「えっ! あっ……本当ですか?」
「本当だよ。あ、もしかして約束思い出して寂しくなっちゃった?」
「はい……」
「大丈夫。リンは私より強いし、それにしばらくはまだ一緒だから。ね? ほら、母様と美味しいご飯食べよ」
「えっ?」
「行く日までの特別。一生に一度のお願いだからね」
「はい! 私、母様のこと! 世界で一番! 大大大大だぁーい好きです!」
笑顔の二人が家へと帰る。
互いの内心など分かるはずもない。だからこそ、言葉と行動が重要となる。
過去のリンの素直さに感動するアルバ。かつては通じていた心が今ではと、複雑な感情をこの記憶と共に強く心に焼き付けるリン。
二人の意識は、ゆっくりと浮上を始めた。




