第19話 種の中身
キョウの放った【転移】の三音が完全に聞こえた頃には、アルバの視界を構築していた光は歪みながら中心の一点に収束して、真っ暗に。
残ったのは音と匂い、そして空気や温度の感触だけが場所の移動を感じさせる。
ドサッと落ちた感覚。痛みに呻きを漏らす自分とリンの声。何も見えず具体的な位置は分からないが、それでも互いに近くにいるはずだ。
(痛ってぇー、鼻ぶつけたわ。てか外だよな? 風もあるし……ん? なんだこれ? 段差か何かの上に落ちたのか?)
暗闇の視界で、アルバは手の感覚を頼りに周囲を認識しようとする。
転移前のキョウの話からして、ここは恐らくガーネットを攫った敵の近く。だからこそ声はなるべく抑えた方がいい。
と、そこまでは素晴らしい推察であった。
実際三人のいる場所は敵がいると思われる学校から数百メートル程しか離れていない。だが直後、アルバが視界に光を取り戻すとどうか。左手に感じる細かな砂と硬さは石畳の地面だ。ならば今右手で触れている、先程自分の鼻がぶつかったこの仄かに甘く香る温かな段差の正体は……
「ッ~~~~!!!!」
「あっ、」
そう、リンの胸だった。
「【境界・開閉】」
「んむッ!? ンンンンッ!!」
恥じらいながらも必死に声を殺すリンと、触れてしまった右手を退けようと慌てすぎて後ろにひっくり返るアルバ。
瞬間キョウは彼が謝罪に叫ぶと感じ、口の開閉を界法で禁ずる。
案の定、アルバは何かを必死に訴えかけていたが、リンの低い「黙らないと殴るわよ」の一言で子犬のように静かになった。
「冷静で助かるよ、おねーさん」
「……一応ほら、敵前、ですから」
キョウの冷やかしに、冷静なフリをしてみせるリン。
しかしアルバとキョウの二人は当然の如く彼女がクールな大人を演じていると知っている。笑ってはいけない。むしろ下手な緊張は消え去った。
「それじゃあ、全員命を大事に。最善を」
リンの号令に各々動き出す。
三人に言葉はない。だが、キョウの【強制共有】は続いている。
作戦はこうだ。
キョウとアルバが周囲でガーネットを捜索しながら民間人を避難させる。その間にリンは近くの学校へ、待ち構えているであろう敵の前に姿を晒して取引に応じ、なるべく時間を稼ぐ。
そして避難の完了とガーネットの生死確認・救出。
これらが完了した報告がリンに届いた瞬間、全力を以って敵を制圧する。
(避難指示に関してはリリーさんが避難用の結界でなんとかしてくれるらしいし、一番の難関はガーネットさんを見つけること……。キョウさんには隠密のアドバイスはしたけど……大丈夫かな)
正直心配だ。不安もある。
人払いの結界も『代表者』による界法も、すぐには効果を発揮しない。実際どれだけリンが時間を稼げるかが勝負。
と、そこでリンはふと思う。
ならば自分が出向かなければいいのでは。相手は自分待ちで、タイムリミットは明日まで。
しかし直後、記憶に新しいあの耳障りな声が聞こえてきた。
「あはー! お姉様ぁ~! 隠れてないで早くぅ~!」
「…………ッ!」
新鮮な怒りの炎が再度燃え、無意識に唇を噛むリン。
甘ったるい言葉遣いと、媚びるような高い声。間違いない、校門近くの壁に隠れた自分を認識できる敵だ。同じ生命を創造できる『セカイ』に選ばれた『代行者』だ。
「ねぇー! ねぇーってばぁー! 早くしないとぉ~? 殺しちゃうよぉー!」
向こうの脅迫。応じるしかない。
ただ理性がリンを諭すより先に、彼女は既に行動していた。もちろん計画は頭に入っている。時間を稼ぐ。端的に言えばそうだ。
それを分かっていてなお、許せない感情がリンの足を進ませる。
別に今姿を見せても変わらない。変わらないなら少しでも早く敵の顔を、その憎しみの対象を見ておきたかった。
「あはっ! やぁ~っと初めましてだね。こんにちはお姉様。今日はとっても良い日ね」
「…………」
こちらを『お姉様』と呼ぶ少女の、不愉快な笑顔にリンは目を細める。
手を振り喜ぶ、いわゆる地雷系ファッションの少女だ。上はレースやフリルがあしらわれたピンクのブラウスに、下もフリルの付いた黒のミニスカート。艶のある黒髪のツインテールに、真っ黒な瞳がこちらを嬉々として見つめる。しかし髪や瞳が『黒』ではあるが、キョウやメリュラントのような混沌とした印象はない。
推測するならば、恐らく界法師とバレない為の装い。
髪と瞳が黒であれば、まず界法師とは思われないし、フラワでは奇抜で珍しいあの服装にも異国の者ならばと納得してしまうはず。
だがそれ以上に彼女の顔と胸は目立つというか、印象的だ。
小さな体躯に対して異様に大きな胸と、幼さの残る顔。それらの要素がアンバランスであるはずなのに、時折表情や仕草・態度や言葉に滲む妖艶さか何か、または魔性と呼ぶべき雰囲気が彼女の存在を完成させている。
「んふっ。あ、もしかして挨拶はお嫌い?」
「いいから、ガーネットさんを返してください」
返事の無いリンの意図を汲もうと話しかける敵。
グラウンドの真ん中で、まるでこちらの意図が分かっていないかのように話し、身をよじって胸を強調する少女の言動にリンの脳がまた一つピクリと苛立ち痛む。
もしかすると脳血管の一部が切れたかもしれない。
だが、そんなのはどうでもいい。こっちに向かってニタニタへらへらと、一々神経を逆なでる眼前の敵をどうするか。それが重要だ。
「もちろん! お姉様がアイン教に入ってくれるならね」
微笑みを絶やさぬ彼女に、リンは態度でノーを突き付ける。
すると彼女は分かっていたとばかりに目を細めて悪戯に笑い、自身の後ろにあるものを見せつける為に横へ移動する。
「あはっ! お姉様は強いのね! 別にワタシ達はどっちでもいいのよ? だって……」
怒りによる過剰集中からくる視野狭窄。
広いグラウンドにいながらリンは眼前の敵しか見えていなかった。だからこそ彼女が横にズレた時に初めて、そこにおぞましい罠があると気付く。
「……神様はワタシ達の味方だから!」
優雅にくるりと回って片足を引き、腰を曲げて可愛らしいポーズをとる少女の後ろ。
そこにあったのは無数の人間で創られた不気味で生理的嫌悪を覚えるオブジェだ。恐らく、遠くから見れば肌色の混ざった樹木のオブジェに見えただろう。だがリン今いる場所はそれが善意からくる悪事だと分かるほどに近い。
「なっ……」
あまりの醜悪な造形に言葉を失う。
リンにはそれが樹木や花束をモチーフにしたのが一瞬にして見て取れた。そう、理解できてしまったのだ。
土台は木の根と同じく、放射状に広がる人間達。
手を地面に差し込もうと伸ばし、全裸の背面、そのピンと幹へ向けて伸びた足先や股下の空間、加えて映る背骨の直線・曲線が幹と樹皮に現れる模様を思わせる。
連なる人体。組み合わせ、溶け合わせ。融合。合体。融解。
一体『人間』という物質的な『形』をどのように認識していれば。もしくはどのように想像して創造すればこんな……。幹の上には当然広がる枝葉、もしくはブーケ。長く伸びた髪が重力で下に流れ、それが柳にも包み紙にも見える。中身は言うまでもない。人体を花に思わせるならばどうするか。
手足を大きく広げて一輪。
手足をもがれた先の筋肉・血管で一輪。
髪の癖で一輪。首を刎ねられた血飛沫で一輪。人体を縦に裂かれて一輪。横に割かれて一輪。それら白と黒と黄色の肌色とアクセントの鮮血色。人の命を冒涜する為だけに創ったような、少女の感性。
見せつけた理由は分からない。だが、あの人の束の中心に、一段高く突き出た十字架に気絶しているガーネットが磔になっていた。
「どうかなお姉様! 結構自信作なのよ? フラワの人は花を大事に、贈る時にも花言葉や意味を込めるって聞いたから、カエルムに聞いて赤い薔薇の群れに囲まれた白い薔薇のブーケをイメージしたのだけれど……どうかしら?」
「……は? カエルム?」
生命を創造できる『代行者』でありながら、屍を積み上げる少女の言葉。
当然リンは応じず、質問に疑問を呈する。確かに聞こえた『カエルム』の四文字。瞬間、繋がっているキョウの意識から追加情報が流れてくる。
『うわ、一歩遅かったっぽい』
『どうしたんです?』
『教会内のカエルムの部屋が爆発した。それとフランって子からカエルム司教がおかしいって通報があった』
『……そうですか。こっちもガーネットさんと思われる人を見つけました。隙は作りますので、作戦は後程』
『オッケー』
繋がりは残しつつ、意識内の声だけが消える。
黙って立ち尽くすリンに対し敵の少女はどうやら驚いていると思ってくれたようだ。
「……あら、お姉様はコレよりカエルムの方が気になる?」
そう言って少女はオブジェの裏に隠れていた内通者を手で招く。
対してカエルムは少女の呼びかけにやれやれといった表情でリンの前に現れるが、当のリンは別のことを考えていた。
マリアの【未来視】や、国内を監視する界法。
テロの当日、アイン教の侵入が分からなかった理由。
それがただの内通者ではなく、マリアと最も近い者の犯行であれば納得がいく。キョウから先程聞いたフランからの通報も、今にして思えばずっと彼女は危険信号を発していたのだ。
「……『黒い人』。あれってフランちゃんの世界観で『悪い』とか『危険』って意味だったんですね。残念です、カエルムさん」
「そうか。君に残念がられる筋合いは無いがな」
睨みつけるリンに対し、彼は口角の片方を上げて不愉快そうに鼻で笑う。
まるで、自分の側に正義があるような、そんな態度だ。しかしリンにとって悪人の語る正義など、どうでもいい。対立している現状を変えるほどの理想や真実があるとは到底思えなかった。
むしろ、問題なのはガーネットの方。
無詠唱で発動した【生命探知】の結果、周囲の人間オブジェと皮膚の一部が癒着しているが生死に問題は無く、自己の肉体世界も歪んでおらず、オブジェそのものが自分だとは思っていないようだ。
ただし、それは前提が正しい場合に限る。数時間前までガーネットだと思わされた少女の界法。完全模倣の人体創造が、リンの判断の邪魔をする。あそこに戒められているガーネットは、本当に自分の知るガーネット本人なのか。
(私じゃ生死や肉体構造の判断はできても真偽は分からない。マリアさんは恐らく爆破やカエルムの裏切りで大変だろうし、キョウさんは……)
不安と焦り。
もしここにガーネットと思われる人が居なければ、リンはカエルムもろとも毒などによる不可視の範囲攻撃ができた。
『無理だね。めっちゃ近付けば分かるけど、そしたら敵にもバレるし。てか、カエルムがいるならアタシも考慮されてるんじゃない?』
これで次の手も封じられた。
残すはこちらでガーネット本人の場所を特定……いや、それか敵がガーネットに手を下せなければ問題ないか。だとすればリンが目指す結果は、あの『代行者』に【華凛】を打ち込み、意識と『セカイ』に亀裂を与え、発動中の全界法を解除させる。
「……随分と沈黙が長いな。まぁ? どうせあの罪人の小娘と通じているんだろう?」
「罪人?」
「なんだ、聞いていないのか? 聡明なマリア様のことだ、君を気遣って『いずれ芽吹く者達』については詳しく言わなかったのだろう」
迂闊な沈黙に、すぐさま確率の高い推測を言うカエルム。
リンの反応から彼は更に推測を深め、信頼関係に亀裂を入れようと自身の不快感を隠すことなく纏めてリンへと投げかける。
「そもそも『あそこ』は全員が罪を犯した若い界法師で構成されている。だが慈悲深いマリア様は人生を諦めている怠惰な奴らに救いと更生の道を与えて下さったのだ。分かるか? 本来は重い処罰を受けるべき、力も碌に知らない分際で暴力を頂点とする頭の悪いガキ共に……これほどの温情を……分かるか! 魔女の娘!」
正直、意図は分かる。だが裏切る理由は分からなかった。
頭の中は多少の共感と、多大な理解。恐らく、彼の中では理屈理論が通っていて、こちらはそれを知らないだけ。
だからといって、カエルムの行いが正しい訳ではない。
「知りませんよ、あなたの頭の中の設定なんて。むしろマリアさんをそれだけ慕っていながら、裏切るんですね」
「違う。私は彼女を救いたいのだ。一度あの卑劣な魔女に救われたからと、あの方はその優しさゆえに心を寄せ。……本来の救いである楽園への道を、楽園に対する私の問いを否定したのだ! これが魔女の仕業でないと何故言える!」
自己満足的な彼の叫びに、「あぁそうか」とリンはカエルムから放たれる一切を虚無感に塗り潰す。
もはや彼への興味は完全に失せ、敵というより愚かな悪人なのだと認識を改める。
結局カエルムは自分の中の『マリア』が『災厄の魔女』たるメリュラント・ラングルス・クトゥブーリカを、他の人と同じく憎み忌避し、そして自分の思う理想に共感を示すはずだと思いたいのだ。だからこそ違う結果を出した現実は間違いで、間違うはずの無い『マリア』は絶対に『魔女』に騙されているのだと。そうでなければ自分かマリアのどちらかが間違っていて、歪んでいる証明になってしまう。
その余りに短絡的で、自身の一番手前にあった答えを正解とする愚かしさ。
正しさは驚くほど多様で、愚かさは殆ど一つ。自分の答えがイコール正解とは限らないのに……。
「もぉ~! カエルムばっかりズルいわ。ワタシもお姉様とお話ししたいのにぃー」
「もちろんですよ。大司教様」
「あら、思ってもないことを口にして……もしかして生きるのに飽きちゃった?」
もちろんそれはリン自身にも言えることだ。
現在の自分の選択が正しいのか。可能性だけなら、別解はいくらでもある。
「まさか。失礼を致しました、アインソフ様」
「同じことよ? カエルム。名前の無いワタシを階級で呼ぶか、役職で呼ぶかの違いより、あなたが最も嫌いで感情を込められる、ワタシにだけ使える呼び方があるでしょう?」
「…………分かりましたよ、アインソフお嬢様」
「ふふつ。素直な子は好きよ」
けれど、回答が正しいかは終わってみなければ分からない。
そして現実は一度きり。過去に戻ることなど出来ず、振り返った時になるべく納得できる方を選ぶべきだとリンは思う。
「さぁてお姉様ぁ、時間稼ぎは十分かしら?」
「分かっててワザと?」
「えへへ。だってワタシはお姉様と仲良くしたいもの。それにぃ、直で見て分かったのぉ~。お姉様はぁ、ぜぇ~ったいに最後、ワタシと同じ結論に至るってね」
今回の場合、必要なのは人々の中から選別する能力で、リンには持ち得ない力だ。
『お姉さーん? こっちは完了~。周囲に敵も味方も店長さんもいないから、いるんなら全部そっちだねー。あ、それとお兄さんも張り切ってそっちに向かってるから、早めに動いた方がいいよ』
あとはただ選択するだけ。
何を信じ、何を傷つけるか。自分にとっての『良い』と『嫌だ』を見定め思考し、自他に善悪を説かれても、納得して進める方を行く。
「そうですか」
答えは決まった。笑顔で近付いてくるアインソフ嬢に、リンもまた近付く。
向こうがこちらの意図を知ってての行動だとすれば、かなりの自信家だ。しかし、あの少女に何か、策や考えがあっての行動とは思えない。
あるとすればただ、こちらへの好意だろうか。
「今のはワタシ? それともここへ走ってくる子?」
「さぁ、世界に対する感想です」
愛を知らぬ子供に『愛』を教えようと、両手を広げて抱き締めようとする。
子供は当然、それが敵対行為だと錯覚する。捕らえ、掴み、逃がさない。そういうものだと、むしろそれにしか見えない。子供の認識世界に、愛は無いからだ。
だが不思議なことに『愛』を知っていても、両手を広げて近付く者を受け入れるかは別問題なのだ。彼らの世界に『愛』があっても、近付く者の意図が『愛』であるかどうかは、当人にしか分からない。
今、リンと彼女もそう。
抱き締めようと両手を広げる少女。仮にアインソフ嬢が心を『真実の愛』で満たしていたとしても、あのオブジェを創った彼女の愛がリンの知る『愛』とは限らない。ただ一つ正確な事は、リンがアインソフ嬢の想いを知ったとて、行動は既に決まっている。
「――――!」
「……ヒヒッ!?」
二人の距離、残り三メートル。
まだ間合いではない。そう思ってくれれば嬉しい限りだ。リンの爆発的な一歩に、アインソフ嬢は目を見開いて笑う。
稼いだ時間、リンはただキョウの報告を待っていたわけではない。
無詠唱での身体改造。主に脚。肉体の変化は、自己認識に歪みをもたらす可能性が高く、出来る限り使うつもりは無かった界法だ。けれど敵もまたリンと似た『セカイ』の界法師ならば、状態を上げる【身体強化】よりも前提となる肉体を弄った方が気付かれ難いはず。
特に、今こちらへ向かっているアルバをキョウかと思っていそうな辺り、自分より男女の判定や構造に対する認識は苦手と判断した。
「――【華凛】」
結果、リンの掌底がアインソフ嬢の顔面に直撃し、即座に効果を発揮する。
霧散するオブジェ。驚きながらも懐から何かを取り出そうとするカエルム。それら人物を点とした場合に生まれる平面図形の中心に、またはそれぞれの境界に、確率や時間で動く点Pの如くキョウは現れる。
「【転移】後の周囲で一番大きな生物に【完全遮断】~。うんうん、雑な定義で『セカイ』に委ねる界法……キツかったけど中々いいね」
「なっ!? クソッ!」
「ふーん、それがお姉さんの思ってた界法より魔法みたいな科学の力?」
焦るカエルムの、何度も指で腕の機械時計に触れる姿にキョウは冷たい目で問う。
答えは要らない。すべては確認だ。オブジェのあった場所には既に、すべてを遮断する混沌とした黒の立方体が存在している。
「お姉さん、こいつはどうす――」
「【突け】」
「うゴッぐ!?」
「――るって言おうと思ったけど、まぁいっか」
キョウが手を下すよりも先に、地面から突然生えた竹がカエルムを沈黙させる。
今は一分一秒が肝心だ。リンは酸欠の可能性もあるとキョウに【完全遮断】の界法を部分解除させ、中に残った女性が本物のガーネットかを調べさせた。
その間、リンはアインソフ嬢に馬乗りになって、いつ意識が戻ってもいいようにと敵の頭部を鷲掴み、【華凛】を準備する。
「焦んなくてもよくない? 全員倒したんだし」
「機械は私じゃ検知出来ないですし、構造ごとに分けての分解や解析も含めてキョウさんだけが頼りなんです。共有も切っていいですから、少しでも早くガーネットさんを――」
「へいへい。本人だから、落ち着いてよお姉さん。顔怖いよ?」
「…………」
「わー。次はアタシの番?」
冗談じゃないと無言の圧力を放つリンに、早々に屈したキョウはすぐさま次の指示を聞いて実行に移す。まずは意識の無いガーネットの傍に落ちていた箱の解体。恐らくカエルムが自身の部屋を爆破したのと同じ爆弾だと思われ、リンの不安そうな顔に反しキョウは楽な仕事だと境界で囲って安全に爆破させた。
「で、次は?」
「ガーネットさんを安全な場所へ。カエルムはここでいいですから」
「オッケー。あ、てかお兄さん来たよ」
「はぁ、はぁ……なんだ、終わったのか?」
「終わってない。むしろこれから。『代行者』の収監は難しいし、爆弾なんて……とにかく、ここはいいからアルバも報告に行って」
そう言いながらリンは界法でカエルムの身体を植物で編んだ縄を操って拘束し、キョウはガーネットと共に【転移】で消えた。
残されたのは敵味方それぞれ二人ずつ。
アルバは正直、門前払いを受けたような気持になったが、重要なのは栄誉でも活躍でもないと己を律して振り返り、来た道を走りだそうとする――瞬間。
「アハ、いいなぁ」
声が、聞こえた。
「【華凛】!」
「あがッ!? ガ……は、きゅぅぅ。お、姉様ぁ、と、仲……いいん、だぁ~」
振り返るとそこには、少女が目を見開いて笑っていた。




