灰燼に帰す前に
翼が折れて道端で泣いていたら、こわい顔をした鬼がぞろぞろやってきた。
私は鬼からツバを掛けられたり、蹴られたり、汚い言葉を浴びせられる。
「コ〇すぞ」
「〇ね」
「オカ〇ぞ」
「ウ〇コ」
「キモイ」
道行くヒトたちは、ちらちらと私たちを眺めながら足早に去っていくだけ。
私も関係ない立場だったら、きっとそうしただろう。
「やめなさい! 鬼ども! わたしの手のひらから出る聖なる光で、お前たちが灰燼に帰す前に!」
そう叫ぶ人が突然現れて私はあっけにとられていたが、カイジンニキスという言葉をスマホで調べてみると、跡形もなく消え去るという意味だ。
「あ、なんか面倒くさい奴が来たからもういいや」
そんなことを呟きながら鬼たちはぞろぞろと去ろうとするが、例の聖なる光がビームのように放たれた瞬間、鬼たちは叫びながら塵のように消え去った。
「鬼どもが土下座して許しを乞えば見逃してやったのですが、面倒くさいとか言ってわたしを馬鹿にしてきたので実力行使を」
はあ、なんだかよくわかりませんが助かりました。
「わたしもあなたと同族で翼を持っているのです」
そう言うと聖なる光の人は背中にある大きな翼を広げて、急にカッコいいポーズをした。
道行く人たちはスマホを取り出して、われ先に写真を撮っていて、まるで芸能人みたいだ。
「あ、折れた翼を治したいならこの保護施設へ行くといい」
聖なる光の人は、私に一枚のパンフレットをくれた。
「もう十年ぐらい帰っていないけど、その保護施設はわたしの実家なのさ」
私には他に頼るあてもなく、パンフレットに描かれた地図を見ながら三日ほど歩き続けてようやく保護施設へたどり着いた。
「あなた、もう死にかけてるじゃない! でもよく来てくれましたね!」
私はその言葉を聞いたあと気を失って三日ほど眠り続けたようで、目が覚めたときは治療室のベッドの上にいた。
「ああよかった。気分はどうですか? すぐに先生を呼びますからね」
声のするほうへ視線を向けると看護師の姿をした鬼が顔が見え、私の体は緊張して震えた。
しかし、しばらく施設の中で過ごしていると、ここでは翼族も鬼族もヒト属もいてみんな普通に生活しているのがわかった。
「あなたにここのパンフレットを渡したのは自分の弟だと思うのですが、弟は元気でしたか? きっと今でも、鬼を馬鹿みたいに殺しまくっているのでしょうね……。たまには実家に帰ってくればいいのにねえ」