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ノヴァ・クロニクル  作者: 稲葉藍譜
第一章
8/18

よぉ〜し、ひと暴れしますか!を目撃

 編入後からニ年の歳月が経った。

 リンの年齢は六歳となった。

 リンはあれから毎日学校に通いながら、小遣い稼ぎとして仕事に携わっている。

 それは植物エリアにある仕留めた魔物の解体施設。

 学校に通い始めてすぐにここに訪れるようになった。

 最初のころは魔物の血や胃や腸の内容物の匂いでグロッキーになっていたが、ニ年もたてばその匂いに怯むこともなくなった。


 そんな過酷な環境で働いているのは理由があった。 それは目的である魔物の血。

 エクストラスキル『亜空間』を二年の間で使いこなし、自由にものの出し入れをすることができるようにしたのだ。自分の周囲に半径一メートルほどであれば簡単に展開することができる。それよりも距離を延ばして展開することもできなくはないが、コントロールが一段と難しくなるのだ。

 この能力を使えば、多くのものを一度に運搬することも可能となるので遠出の際には荷物を背負うこともせずに快適な旅をすることができるのだが、リンはこの能力に可能性を感じていた。


 大量に運ぶことを可能とする能力。

 生きているものは収納すると魔素などの悪影響を受けるため、食べ物などを入れることはできない。

 だが、逆手に取れば金属や道具は可能であるということ。

 それに、口に入れるものや生命でなければ特に気にする必要がないということだ。

 であれば、魔物の血はこの能力と非常に相性がいい。

 厳密にいれば、リンの誕生魔法『操血』によりリン自身の血液にされた元魔物の血だが。

 解体作業中に否応でも出てくる魔物の血。

 本来であれば、そんな使い道のないものは廃棄されるだけの代物であるが、リンであればそれを有効活用できるのだ。

 そこで働いている人たちも血の処理には頭を悩ませていたので、リンが働くことは僥倖であったのだ。

 彼らはリンを快く歓迎してしてくれた。

 働けば働くだけ、自分の血を増やすことができる。

 そして、増えた血をエクストラスキル『亜空間』で収納してしまえば、いざというときに取り出す事態になっても体内の血液を外に出す必要がなくなるので貧血を引き起こすこともなければ運動能力の低下を防ぐことができるわけだ。


 一応、確認のために亜空間に格納された血を取り出してみたが、その血はそのままリンの思惑通りに動き、リンの手足のように自由自在に動きだした。

 リンはそういった狙いがあって働いていたのだ。

 仕事の内容としてははっきり言って重労働だ。

 刃物を使って何百キロもある魔物をひたすらさばいていく。

 魔物の外皮は外敵から身を守るため生半可な者では傷一つさえつけることができないほどの頑丈さだ。


 リンも最初のころは一体さばくのも何時間もかけてやっとのことだったが、今ではニ十分程度でこなせることができるようにまで上達したのだ。

 そして今ではリンも一人前の解体師として活躍しているのだ。

 刃物を使うこともあるが、最近は大型の魔物を細かく解体するときには『操血』を使って作業することが多くなった。

 理由としては魔法の練習と単純にそっちの方がやりやすいからだ。


――――

 魔法にはいくつかのルールがあるとリンは考える。

 もちろん、その魔法によってそれぞれ異なるとは思うのだが、例として『操血』を挙げるとコントロール(動かしやすさ)とパワー(勢い)そして硬度(頑丈さ)があり、それぞれを調整できる。

 使う魔力の大半をコントロールに割けば細かい造形をも可能となる。

 パワーに重視すれば、対象に到着する時間を短縮することや威力を挙げることができる。

 硬度を上げれば文字通り硬くなり、得物のように対象を切り裂くことができる。

 この三つの要素を状況に合わせて使いこなす。

 当然魔力量が多ければ、それぞれの要素に割くことができる魔力も多くなるので、できることも可能となるのだ。

 細かく解体するときはコントロールと硬度に重きを置いて作業するといった具合だ。


――――

 リンは仕事が終わればすぐさま家に帰って夕食にありつくのだが、この日は用事があって別方向へと向かう。

 場所は繁華街にある一際大きな飲み屋。

 ゴブマサとヴォラフルムたちがそこで宴会をしているらしいのでみんなで楽しく飲み食いしているのだ。

 リンも宴会に誘われたので遠慮なく参加する。

 リンとしては前世でもかなりの酒好きだったので異世界の酒に大変興味があるのだが、六歳のリンに酒を飲ませてくれる人はいない。

 それに魔界にある酒すべてが尋常じゃないくらい強い酒なのだという。

 それを彼らは水のように平然と飲んでいるので、自分でも飲めるのではないかとリンは思うのだが、そこはきっちりとした大人たち。勧めることもしなければ、リンの近くに置いておく人もいない。

 諦めてジュースと目の前に置かれている料理を堪能して大人たちの話に耳を傾けたりしている。

 たまに「学校の調子はどうか?」とか「学校は楽しいか?」と話しかけてくれる人と談笑して過ごす。


 すると、店の外が慌ただしく、店にいる人たちがそれに注目しだした。

 しばらくして原因の張本人であろう人が探し人がどこにいるか知っているかのようにこちらに近づいてくる。

 仰々しく店に駆け込んできた傷だらけの毒鬼族(ゴブリン)たちが瀕死の仲間一人を連れて、助けを求めるかのように酒を呷るゴブマサに向けて声を上げる。


「助けてください親分! 今日の討伐の途中で運悪くドュメイの群れに遭遇しちまった……。コイツはまともに毒喰らちまって……。コイツ連れて急いで逃げてきたんだけど、俺たちを追ってドュメイがこっちに来ているんだ。頼みます! 助けてください!!」


 そう言って毒鬼族ゴブリンは深く頭を下げている。

 ゴブマサは座ったまま彼を見ていた。

 そして……


「急いで、治療するぞ! ゴブヒロ、回復薬と包帯やらなんやら用意してくれ。それから戦闘準備だ! 今動ける奴らかき集めてあのデカブツ仕留めるぞ! ヴォラフルムそっちは頼めるか」

「すぐに準備していきます」

「言われるまでもない。他の幹部たちにも連絡しておこう」


 そう言ってゴブマサが的確に指示を出し、ゴブヒロとヴォラフルムがそれにそれぞれ返答する。

 そしてその場にいた人たちも各々が行動を移しだした。

 辺りは騒々しくなるが先ほどのものとは異なり、彼らの発する音に真剣さが表れている。

 ゴブマサは目の前に倒れている重傷の毒鬼族ゴブリンの手当てを始めていく。

 彼の体は毒で侵され、全身が爛れてしまっている。 呼吸が荒く、爛れた顔では認識しずらいが苦悶の表情を見せ、悲鳴を上げている。

 ゴブマサは気にした様子もなく彼に触れていく。

 ゴブマサの手に淡い紫光の光が出るとともに魔力が集まっていく。

 そして、彼は言葉を紡ぐ。


投薬(メディック)


 すると、毒鬼族ゴブリンの表情が和らぎ、呼吸が落ち着いていく。

 その後もゴブマサは同じ言葉を発し次々と処置を施していった。

 言葉が紡がれるたびに彼の様態が安定していくのが見て分かった。

 ある程度の処置が終わったであろうときにちょうどゴブヒロが回復薬や包帯などの医療機器を持ってきた。

 二人で毒鬼族ゴブリンの怪我の箇所に回復薬をかけ、包帯を巻いていった。

 彼らは水が流れるように次々と施していく。

 そして処置が終了した毒鬼族ゴブリンは担架で運ばれていった。


「よし、リン。ついてこい。魔物の倒し方というものを教えてやる」


 ゴブマサがリンに促してきたため、リンは返事をする。


――――

 場所は毒鬼族ゴブリンたちが住む住宅街エリアの最も端にある門付近の広場。

 そこには七十人ほどいるが、まったく窮屈さを感じさせないほどの広さであった。

 集まった人たちの約半数が毒鬼族ゴブリン。さらにその四分の三が糧鬼族(オーク)、残りの四分の一が悪魔族(デーモン)炸鬼族(オーガ)と言ったところだ。

 種族ごとに集まられていてさらにそこから数人ごとにまとめられている。

 そんな彼らの視線を浴びている全身黒装束の眼鏡をかけた人物が門の前に立っていた。

 ゴブマサがその人物のもとへと向かう。そしてそこには既にヴォラフルムがいて、ゴブマサの到着を待っているようだった。


「やっと来たか。あいつの容態には問題なかったか」


 ヴォラフルムがゴブマサに声をかける。それに軽く返答して、眼鏡の人物に声をかけた。


「待たせたなエイドス。それで? 今回はどういった作戦でいく?」

「あなたに説明して理解できる頭がおありで? きちんと説明してもあなたたちは真っ直ぐ馬鹿みたいに突っ込んでいくのが目に見えています。ですので、あなたたちはいつも通り好きに暴れてください。私はそれを考慮して作戦の立案とバックアップをしますので」


 ゴブマサは怒りをあらわにして大きな声を上げるが軽くあしらわれ、ヴォラフルムは「ゴブマサが突っ走るのを止めるためだ」と抗議していたがエイドスはヴォラフルムを横目に見ただけで話を流した。


「全員で七十と少し。先ほど六人ほどの小隊を臨時的に構成しました。毒鬼族ゴブリンは第一小隊から第六小隊。糧鬼族オークは第七小隊から第十小隊。あとは悪魔族デーモン炸鬼族(オーガ)の混成小隊として第十一小隊といっところです。今回集まってくれた大半が実戦経験の乏しい若い戦士。ですが、あなたたちであれば、こんな人数集めなくてもあの程度の五粒、二人で十分でしょう。若い連中に経験を積ませたいという思惑でもおありで?」

 エイドスは淡々と彼ら二人に状況の説明をして、どういった思惑があるのか気になるようだった。

「あーそれはな、コイツがリンにいいところ見せたいっていうものだと思うぞ」

「リン? ああ、少し前にこっちに来た先生のお子さんですか。なるほど。彼らしい単純な考えですね」


 ヴォラフルムが応答し、エイドスが微笑み、その答えに納得した様子だった。

 話題に上がったゴブマサは彼らの話など一切聞かず、やる気十分といった感じで腕をブンブン振っている。


「では、準備が完了次第、作戦開始をいうことでよろしいですね」

「おう!」

「了解した」


 エイドスの言葉にゴブマサとヴォラフルムがそれぞれに返事した。



――――

 門を出てしばらくの間、荒野を歩いていく。町に被害がでないほどの距離まで進んだ後は、それぞれが自由に待機していた。

 すると、目の前で砂煙を上げながら大きな影が五つ見えてくる。

 完璧に姿が見えるようになるまでそう時間がかからなかった。

 長い首三つがそれぞれ動きながら大きな足音を上げてこちらに走ってくる。

 足から首までの高さおよそ十二メートル、尻尾からの首までの全長およそ二十五メートルの濃い紺色の鱗で覆われている。

 鋭利な歯が並んでおり、その一本だけで並大抵の生物を瞬殺するであろう。

 鋭い目つきをしてこちらを睨んでいる。

 しかし、こちらで待機している者はだれ一人怯んではいなかった。


「よぉ〜し、ひと暴れしますか!」

「目標、ドュメイ五体。殲滅行動開始!」

「「「「「おおおお!!」」」」」


 何事もないようにゴブマサが言うと、それが戦闘開始の合図であるかのようにエイドスが発言する。

 すると全員が雄たけびを上げた。

 戦闘開始である。

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