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ノヴァ・クロニクル  作者: 稲葉藍譜
第一章
7/18

魔法について

 気が済むまで植物エリアを観光して満足したリンを連れゴブマサとヴォラフルムは時間帯が昼頃であったため飲食店が多く並ぶ繁華街へと向かう。

 そこには数えきれないほどの調味料の匂いに加えて、至る所で聞こえる煮る、焼くなどといった調理音や口にした料理に舌鼓を打ち満足そうな声を上げる人で溢れていた。


 今いるのは二つの住宅エリアの間にあるインフラが充実しているエリアの一部であり、この時間であれば最も人通りが多い場所でもある。

 そんな賑わっている中、リンはある文字を見て驚愕していた。

 そこに書かれているのはこの世界で見慣れ始めてきた異世界の言語は当然だが、二十年以上慣れ親しんだ日本語が書かれた看板やメニューを筆頭に、英語そして、彼が読むことはできないがフランス語やイタリア語といった文字が溢れていた。

 そんな現実に開いた口が塞がらないリンに気にしていない素振りを見せるゴブマサが声をかけてきた。


「何が食いたい? なんでもあるぞ。和食に洋食、中華にイタリアンあとはそっちにタイ料理だったりあるが。おい、ヴォラフルム。そっちは焼き肉店だぞ。焼肉は一昨日食ったろ。それにリンに選ばせてやろうぜ。だから、そんなに涎を垂らすな」

「おっと、すまん。口元が緩んでいたか。ついな」

「ったく。ん? どうしたリン?」

「料亭『たらふく』……」

「お、ここ……か、日本語読めるのか。」

「え……ええ。まあ、一応……」


 気がつかないうちに口から言葉を漏らしていたことに気がつき、慌てて体勢を正して返答に濁したリン。


「母ちゃんに教えてもらったのか。さすが先生。抜かりないな」


 そう言ってゴブマサが感慨に浸っている。それに続いてヴォラフルムも頷いている。

 二人には悪いが転生したことは黙っておいた方がよさそうだと判断したリン。

 問題になるとは思わないがこれから関係を築いていく相手と微妙な雰囲気を作り出すことは好ましくないからだ。これからずっと隠していくことになるが、余計な心配もかけたくないのだ。


 三人はそのまま料亭『たらふく』の中へと入っていく。店の内装は和を基調とし、竹のようなものを使った竹籠や竹毬、盆栽が部屋にある。また、橙色に淡く光る光源もあり来る者の心を落ち着かせる雰囲気であった。

 それぞれが注文して、何気ない会話をしている間に料理が届いた。

 ゴブマサはかつ丼モドキ、ヴォラフルムは日替わりランチ(鮎みたいなやつの串焼き定食)、リンがお子様ランチ(何をミンチされたのかわからないハンバーグにエビっぽいフライ、ナポリタンモドキ、旗のついたケチャップライス?)がそれぞれの目の前に置かれていく。

 三人は食事を楽しみながら、リンの学校についての話題となった。


「予定通りにいけば、編入は一週間後だな。用意するものは……なんだ」

「筆記用具にノート、それから……あー教科書は配布されるはずだから。案外それぐらいか、強いて言えば、服だな」


 ゴブマサに続いてヴォラフルムも必要な物を確認している。


「思ったより早いですね」

「学校が始まったばかりだからな。対応しやすいこともあるだろうが、授業に早く参加させたいのもあるんだろ」


 そう言ってゴブマサは食後のデザートであるあんみつを食べている。

 前から思っていたがゴブマサは食べる速度が異常に早い。

 リンが三分の一を食べ終えるころにはすべて完食しているのだ。特段、リンのペースが遅いのではない。ヴォラフルムもリンと同じくらいの速さであるからだ。


 ここが異世界だと考えると元の材料が何だったのか気になるが食感も味も美味であったので、リンは満足したのだった。

 まさか精神年齢が二十代後半になってお子様ランチを食べることになるとは思わなかったが、いずれまた食べることができなくなることを考えると今のうちに堪能しようと考えたのだ。

 三人の食事を終えた後、リンの服を買うため一同はアパレルショップへ向かう。

 子ども用店でいくつかの服を選び始めた。

 オレンジのパーカーをはじめとして黒い服など、靴や帽子などもまとめて購入し終えたころにはすっかり夜の六時を回っていた。

 リンたちは大量の荷物で前が見えなくなるほどに抱えてそこを後にした。

 そして、家に帰ってからゴブリン婦人にお家ランウェイを見せてその日は大盛り上がりだったのだ。



――――――

 一週間後

 目の前にある扉の奥から大人の女性の声が漏れてくる。それに続いて、元気溢れる子どもたちがはしゃいでいる様子が聞こえてくる声からわかった。


「今日から、このクラスに編入生が来ます。皆仲良くしてね~」

「「「はい!!」」」

「じゃあ、入ってきて」


 そう言われたのでリンは扉を開けて教室の中に入る。教壇の上に立ち黒板を背にして自己紹介をした。


「初めまして。今日からみんなを一緒にこのクラスで過ごすリンと言います。よろしくお願いします」


 四歳にしたら丁寧な言葉遣いをしていると思われるかもしれないがここは異世界。そのうえ、リンの目の前にいるのは全員が魔族。人間よりも成長スピードが断然速い種族ばかりである。

 ある程度の礼節をもって自己紹介した方が無難だろうと考えたのだ。


 教室にいるのは全員で七名。毒鬼族(ゴブリン)悪魔族デーモンが二人に糧鬼族(オーク)炸鬼族オーガ死霊族(アンデッド)がいた。

 悪魔族デーモンの外見は普通の人と何ら変わらないように見える。

 炸鬼族オーガの額には鋭い角は生えており、同年代とは思えないほどガタイがしっかりとしており、身長はリンの倍近くはあった。


 死霊族アンデッドはこのクラスで唯一の少女であり、死霊族アンデッドにはいくつかの種類がある。彼女はどうやらゴーストの類であるレイスであるようだ。

 レイスとはゴーストの上位存在で精神生命体であるため、物理攻撃が効かないのだ。それに加えて高い魔力をもっていて相手にすると厄介な存在である。

 姿が透けていて、彼女の奥に何があるのかはっきりと見える。


 ちなみに今日、授業を教えてくれるのは死霊族アンデッドのリッチーであり、レイスの上位存在であるのだ。リッチーになると、レイスの能力を底上げされるのだ。さらに自身の周囲に『多重結界』というユニークスキルを展開している。『多重結界』というのは、高耐久を誇る『物理結界』と『魔法結界』を何十にも同時展開しているため、ほとんどの攻撃が無効化にしているのだ。

 物理攻撃が効かないのに『物理結界』を展開しているのは一応の用心のためであり、武器の中には精神生命体に攻撃を直接与えることができる物もあるためだ。

 体が宙に浮かしながら授業の準備を進めている。


「では、今日は魔法についての授業を進めていきます。ではまずは――」

 

 先生の話をまとめるとこうだ。

 魔法は三種類に分かれており、それぞれ『誕生魔法』、『継承魔法』、『伝承魔法』がある。

 『誕生魔法』とは、それ一つあるだけで戦況を一変してしまうほどの能力を秘めている。

 どんなに劣勢な戦況に陥っても誕生魔法をもつ魔法使い一人が現れるだけで、戦況を引っ繰り返してそのまま勝利までもぎ取ることができるほどの力だという。

 また、魔族や亜人種には最低一種類生まれながらもっている。これを『種族魔法』とも言う。

 『誕生魔法』は所有者の希望や願望、夢を実現させるための能力であると言われている。


 それに対して、『継承魔法』とは、『誕生魔法』を他者から受け継いで自分の能力として行使する魔法。受け継いだ者には新たな魔法が、受け継がせた者にはその魔法は去っていくことになる。

 そのため、継承が行われるのは引退した人物から若い世代に、または、代々その魔法を継承する文化がある一族の中でしか行われない。


 『伝承魔法』とは、人魔大戦時に新たに生まれた概念の魔法を指す。当時人界側では人族が溢れていた。

 しかし、彼らには『誕生魔法』をもつ戦士が少なく、戦力として数えられることがなかった。

 そして、戦死した者、重傷で死を待つ者が増え続け、戦力差が開く一方で人界側で行われたのが『継承魔法』を発展させたこの魔法である。

 重傷者の種族や彼らがもつ魔法ごとに分け、彼らの魔法を抽出することで誰でもその魔法を使えるようにしたものである。

 その魔法を魔法適正のある人族が使うようになって、防衛にいた亜人種が前衛に出てきて、その代わりに人族が防衛をすることが可能となった。

 この転機が人魔大戦の戦況を大きく変えたのである。

 これが『伝承魔法』に伝わる伝説であり、多くの人族が使う魔法として主力となっているのである。

 そして、『伝承魔法』には数多くの種類があるが、その中で最も有名で多く残されているのが八大元素である。

 火、水、雷、氷、風、土、重力、力の八種類である。

 それぞれさまざまな特徴があり、戦況に合わせて使うことで自分の有利な状況を作り出すことができる。


 もちろん、元々は『誕生魔法』から生まれた魔法であるため、オリジナルよりも能力が劣る。

 『伝承魔法』の風魔法よりも『誕生魔法』として生まれながらにもっている風人族(エルフ)の風魔法の方が威力もコントロールもできることの幅もレベルが違うのだ。

 しかし、一度覚えてしまえば、魔力をもつ者ならば誰でも使うことができるという利点が大きい。

 大半の『伝承魔法』が人界へ残されており、魔界にある八大元素の『伝承魔法』はただ一つ。それが重力魔法だ。


 重力魔法:それは文字の通り、重力を操る魔法。周囲の重力を重くしたり、軽くしたりすることができる。

 また、周囲の重力を操作することで自身や対象を浮かしたり、集めて強力な重力塊を放つことができる。

 重力塊の弱点としては、放った後も周囲の重力を吸収するため、信じられないくらい弾速が遅いという点だ。

 ただし、その弱点の代わりに八大元素の中でもトップクラスの攻撃力を誇るのだ。

 そして、先生はさらに説明を付け加えた。


「以上が魔法についての軽い説明です。皆さんわかりましたか。ただ、魔界で伝承魔法を使う人はあまりいません。宙に浮かぶ際に羽や飛行能力がない者が重力魔法を使う場合があります。あとは、それこそ吸血鬼(ヴァンパイア)のような非戦闘員がたまに使ったりするぐらいですね」


 先生が子どもたちに「なにか気になることがあったら遠慮なくいってね」と言う。

 すると、ある生徒からの質問で重力魔法が使われない理由を聞くと、先生がその答えを返した。

 魔界に住む魔物には初心者が使う『伝承魔法』では到底歯が立たないためだと言う。

 火力不足であるにも関わらず、消費される魔力量が大きいため、自身の『誕生魔法』を使った方が倒せる。

 そういう考えに至ったそうだ。

 それに重力魔法で倒せる魔界の魔物はとても弱い。生態系の中でも最下層に位置する魔物である。そんな魔物には戦う手段がない代わりに捕食者から逃げる足が発達しているのだ。

 そんな魔物にただでさえ遅い重力魔法が当たるわけがないのである。

 魔界の生態系を聞いたところでチャイムが鳴り、この時間の授業は終わりを迎えたのだった。

学校に通いますが、ここから学園ものが始まるわけじゃないです。

なんやかんやあって数人の友達と過ごすことがあるかもしれないですが、ここを書いていくといつまでも話が進まないと思うので細かいところは想像に任せようかと思います。

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