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ノヴァ・クロニクル  作者: 稲葉藍譜
第一章
6/18

散歩

 リンが魔界での知識をヴォラフルムから教えられた後、今後のリンの魔界での過ごし方についてゴブマサから説明があった。


「リン、お前学校に行く気はあるか? 一応編入性として入ることも可能だが、こっちの一存で勝手に決めるわけにはいかないからな」

「学校ですか。どんな事が学べるのですか?」

「そうだなー、算術に国語力、ええと歴史は物好きが学ぶことができるな。あとは基本的には体力づくりだろ。それから魔物の討伐ついでに実践訓練。あとは、魔法と魔力についてだな。こんな感じだよな。ヴォラフルム」

「それは十二歳までに学ぶことだろ。なんで覚えてな……ああ、そうか。お前嫌いな授業は途中で抜け出していたからか」

「あんな退屈なこと我慢できるか!」


 ゴブマサは座った椅子にだらしくなく座り込んで言った。


「まあ、コイツは反面教師にでもしてくれ。学校というのは基本学問として、数学、国語、それから訓練と実践だな。それから、任意の参加で歴史に実験、スポーツにこれはまれだが宗教とかもあり、他にもたくさんあったはずだ。そして十二歳になった後は自分に合ったことを生かして専門分野に進むことが大半だ。そこで十八になったら卒業。さらに専門的な知識を求めるならそこで研究をする奴もいたと聞くが今じゃそんな物好きはいないな」

「なぜです?」

「理由は至ってシンプルだ。皆好き勝手に研究するからだ。わざわざ学校に縛られて研究する奴はいなくてな。やりたいことをやりたいときに、必要な設備が整った場所で各々が行う。それが普通になったら誰が学校に籍を入れる?」

「確かに……」


 ヴォラフルムは淡々とそう告げてくる。

 確かに自由に使わせてくれる施設があるのなら、誰が学校に残るのか疑問である。

 しかし、ならなぜそんなシステムが残っているのか疑問だとリンが思って聞いてみたが、数十年に一人ぐらいそんな物好きがいるらしい。

 ちなみに魔界には教師という職業はないと言う。

 大人たちが交代で子どもたちに勉強を教えてあげているのだ。もちろん、今説明してくれているヴォラフルムと椅子に深く座ってテーブルに肘をついて頬杖しているゴブマサも子どもたちに教えてあげることがあるという。


 ヴォラフルムの教え方は非常にわかりやすいものであり、勉強苦手な子どもたちも彼の授業で勉強の楽しさを知り、数年後には立派な研究者へと成長していることも珍しくないらしい。

 また、以外なことにゴブマサも子どもたちに大変人気があるとのこと。口は悪いが、表裏のない性格で物事をはっきりと言うのが子どもたちの感性に刺さっているらしい。それに、彼のイメージ通りだが、座学よりも体を動かすことに重きを置いているため、遊びたがりな年頃の少年たちを筆頭に支持を集めているとのこと。


「まあ、あれこれ説明したが、今から何年も先のことを考える必要なんてない。コイツみたいに途中でやめるものも珍しくないしやめたからと言って魔界で生きていけなくなるわけでもない。ただ、友達づくりがしやすくなるだろうから、入りたいなら俺たちで手続きをしておいてやるだけだ。どうする?」

「そうですね。ではお言葉に甘えて行かせてもらいます」

「それじゃあ、明日にでも手続きしとくか」


 そう言ってリンたちの会話に一区切りがつき一同が解散した。

 ゴブマサはリンにこれから使う自身の部屋の案内と家の間取りについて詳しく説明してくれた。

 入ってきたときにも感じたが、やはり雰囲気や間取りは前世の建築技術を彷彿とさせる構造をしている。異世界――特に魔界という特殊な環境であるため、既存の建築様式を使われている形跡はなく独自の進化を遂げているように感じるものであった。

 二人は階段を上り二階へと上がった。


「ここが今日からお前の部屋を好きに使ってくれて構わない」

「その、ありがとうございます。何から何まで」


 ゴブマサはリンの背中を思いっきり叩いた。あまりの強さにリンが思わず「うおぉ!」と言い、前に押し出される形で部屋に入った。


「よし、じゃあ、今日は早く寝ろ。明日からまた忙しくなるだろうから、夜更かしするなよ」


 リンとゴブマサはお互いに「おやすみ」の挨拶をして別れた。

 リンは自分の部屋となった一部屋を見渡す。ベッドに程よい大きさの机。たったそれだけだったがリンにはそれが安心させるものだった。

 ベッドに潜り目を瞑る。そのあとの意識はない。数日間の不眠不休で体が休息を求めたためだ。



――――――

 目が覚めると、リンの目の前にはこちらを黙って覗いてくる緑の鬼がいた。

 リンの体はあまりの驚愕により体を宙に浮かせてしまった。

 そんなリンの様子を笑顔で見つめてくる緑の鬼――ゴブマサ。

 彼は起床の挨拶を発して部屋の出口へと向かう。去り際に「朝飯できているぞ」と言って何事もなかったかのように部屋を出ていく。


 あまり驚かせないでほしい、心臓止まるかと思ったわ! と叫んでやりたかったリンだが自分が一夜を過ごした部屋を見渡しし、これが現実であることを再確認した。

 下の階へ降りて席に着いたリンは出された食事――パンと牛肉の味のする鶏肉みたいな食感のする一枚肉――を平らげていく。

 既に食事を終え、食後のティータイムを過ごしていたゴブマサが口を開く。


「今日はこれから編入手続きを終えた後、町を軽く案内しようと思う。ここに来るまでの間に説明はしたが実際に見ないとわからないだろう。どこか行きたいところはあるか?」

「それでは、このエリアから南下した植物関連のエリアに行ってみたいです」

「なら、そこを重点的に案内するとしようか」


 そう言ってゴブマサはカップを口にしてティータイムを再開する。

 リンも続いて魔界へきて初めての朝食に舌鼓を打ったのだった。



――――――

 リンとゴブマサは学校へと向かい手続きを手早く済ませたのだった。

 それから二人は予定通りに事を進めていくつもりだったのだが、エリアの境目にあたる大きな石橋の手すりに背中を預けているヴォラフルムがいた。

 どうやら、いつの間にか二人は連絡を取り合い待ち合わせをしていたようだ。

 三人はそれぞれ手短に会話をして橋を渡っていく。


 この大きな石橋は見た目こそ、何ら普通の石橋に見えるが二人によれば、長い年月を経て魔素を大量に吸収したことで物理的にも魔法的にも頑丈になった魔石でできた橋であるそうだ。

 すべてのものに魔素が含まれている。しかし、個体差はあれど、長い年月をかけることで魔素が限界まで吸収されることで新たなものへと変貌することがあるのだ。そして変貌するとそれぞれ何かしらの能力が発生することもあるのだ。


 この石橋もまたその例に漏れず、ただでさえ魔素を蓄えることで頑丈さに拍車がかかっているにもかかわらず、崩壊しても時間が経てばすっかり元の姿に復原される能力を持っている。

 そしてさらに驚くべきこととして、この町全体の建築物が何かしらの能力を持っているのだとか。経年劣化を抑えてくれるのはもちろん、耐衝撃や耐魔法攻撃をも合わせもっている。

 普通の町や都市であるなら、こんなことはまずありえないことだ。それは大抵のものが魔素を限界まで吸収する前に崩壊してしまうためだ。崩壊した後に出てくる瓦礫などの残骸が魔石や魔鋼に変貌することはもちろんある。


 しかし、今リンが見たり触れたりすることができるように建築物自体に能力があることは非常に珍しいことだ。

 魔界のように魔素が充満している場所か余程丁寧に手入れをされている古くからある城や遺跡でないとまず起こらない現象であると、リンは教えられる。

 ヴォラフルムの説明のわかりやすさに感心しつつ、リンはさらに歩みを進めていく。そして、その歩幅に合わせるようにゴブマサとヴォラフルムは歩いていく。

 三人はついに植物エリアへと到着した。

 そこの光景は初めて来る者の言葉を失わせるには充分であった。

 明らかに動いている五、六メートルはあるほうれん草みたいな魔物。

 リンが初めて魔界へ訪れた際に出会った触手もちの魔物。

 中央にはニ、三百メートルほどある大樹とそれに百花繚乱のように咲いている花々や多種多様に実っている果実をぶら下げている木々。

 すべての植物が魔物というわけではなく、それぞれが魔界の環境に合わせた独自の進化を遂げているように見える。

 中には、動き回っている植物モドキを捕食している食肉植物なんかもいたが……。

 しかし、それらがこのエリアを歩き回っているのではなく、ガラス越しになっているところもあれば、植物園のように危険がないところだとその花の匂いを嗅ぐこともできるほど近づくこともできる。


 そんな植物を管理しているのが毒鬼族(ゴブリン)吸血鬼(ヴァンパイア)である。

 吸血鬼ヴァンパイアはリンとは異なり、魔法『操血』をつかうことはできない。

 できることは他者の血を吸うこと、自分の血を分け与えて眷属を増やすことであり、直接攻撃ができるような能力をしていない。

 また、体内時計が完璧であるという特技があるため、彼らが午前の間行動することはないという。

 他にも植物を管理する種族はいるのだが、今は出払っているらしい。


 ここで主に行われていることは、研究、栽培を中心として、植物の生態調査、よりおいしい作物のために試行錯誤、品質管理された食料の確保に加えて薬効成分を分泌する植物を利用して製薬も行っている。

 また、ここでは捕まえたまたは仕留めた魔物を解体する場所もあるらしい。

 そこで解体され精肉されたものを一家団欒の場に調理された状態で皿に盛られていることを想像したリンは若干遠い目をしながら一種のアミューズメント施設に遊びに来たような気分を味わいながらその植物を観察するのだった。

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