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ノヴァ・クロニクル  作者: 稲葉藍譜
第一章
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転生、そして新たな人生

 眩しい、堪らず重い瞼を開く。

 ぼやけた視界に二つの動く物体が映る。

 その物体から何やら言語らしい言葉が聞こえてくるが、何を言っているのかまったく理解できなかった。

 (人間? あれ、でも確か俺刺されてもう助からないって思って遺言らしいこと言っちゃったけど?)

 内心で生きていたことに安堵するも、あそこまでかっこつけて死んだつもりなのに実は生きていましたなんて後輩たちにどんな顔をすれば良いのか、恥ずかしすぎて死んでしまいそうである。

 これからの身の振り方をどうすればよいか考えている間にぼやけた視界が少しずつ晴れてきた。

 そこでみた光景は彼には思いも寄らないものであった。

 そこには、こちらに翠眼を向ける美女がいた。

 特に印象を受けるのは彼女の長い赤髪だ。二十二年生きてきて彼女ほど美しい女性にはあったことがない。

 そんな彼女はこちらに微笑み、抱きかかえ、彼女の視線の先にいる紫色の髪と目をした若い男性へ自分を渡していく。

 何が起こっている? と彼の胸臆に不安が駆け巡っていく。


「―――。――――。」

「――。―――――。」


 何を言っているのかわからないが、二人はやけに嬉しそうにして会話が弾んでいることが分かった。

 二人の会話に花が咲いている時間は彼が冷静に熟慮するには十分な時間であった。

 (落ち着け、まずは状況を確認するんだ、俺!! ここはどう考えてもここは病院じゃないし、この二人は医者ではない。白衣を着ていないし、二人とも室温を熱く感じているのか、やけに薄着だ。特にこの赤髪の女性は。)

 時間が経つにつれて状況を理解し始める。

 どう見ても地毛な赤と紫の髪。

 自分が住んでいる国とは異なる顔立ち。

 日本語や英語、その他のどれでもない、聞いたこともない言語が飛び交うこの空間。

 やけに体が重く、言葉を話そうとしても思い通りに動かない口。

 そして極めつけは軽々と抱きかかえられている現状。

 つまり、俺は異世界転生したのだ、と。


――――

 目覚めてから、一ヶ月が経過した。


 まだ、身体を動かすことは難しく、視界に入るものは限定されてくる。

 時折、俺の両親にあたる赤髪翠眼の美女と紫色の髪の美丈夫が抱きかかえてくれて、家の中の物や窓越しからの外の風景を見せてくれる。

 外の風景は少しの間、外出してくれる時もあるが、なぜかその都度夜景がこの目に映る。

 疑問に思ったのだが、この身体は目が異様に発達しているように思えた。

 転生してきて間もなく両親の顔を認識でき、自然に囲まれた場所で月明りも乏しい中でも草木や湖がはっきりと見えているのだ。

 (しかし、なぜいつも夜景ばかり見せてくれるのだ?)

 彼は夜景を見せてくれるたびにそう思うようになっていた。

 時間の感覚もなく、視界に入るものの中に時計らしい物は見えない。

 仮にあったとしても字が読めないから意味がないだろうが……。

 それに一日の大半がすべての窓にカーテンで覆われている。

 それも厳重にだ。

 特殊な取り付け方をされているのか、生まれてこの方一度も太陽の光を見たことがない。


――――

 目覚めてから三ヶ月の月日が流れた。

 前世での一般的な赤子の寝返りをする時期と重なる。その時期に俺はすでにハイハイができるようになっていた。

 前世ではハイハイの時期は早くて生後八ヶ月、遅くても十ヶ月と言われていたが、母にあたるこの美女がこの時期にはできて当然だと言わんばかりの表情で促してくるので実際にやってみたらできたのだ。

 横で見ていた美丈夫は俺がけがしないか心配なようで浮かない表情でいる。

 ハイハイを身につけたので行けるところを手当たり次第に移動してみた。

 大人二人と子ども一人が住むには少し狭いように感じるが本人たちが気にしないのであればいいだろう。

 居間を中心に左右と正面に部屋が一つずつ、それと地下室がある。

 正面に台所がありその横に部屋の入口がある。

 その部屋には子ども部屋、つまり俺の部屋があるわけだ。

 右側の部屋は両親が使っている部屋だ。

 二人が寝れるだけの寝室があり、その横には俺の寝室もある。

 夜泣きなどしたことがないのだが、一応傍にいてくれた方が安心するのだろう。

 部屋の中には衣装鏡があったので、いい機会だと思い自分の姿を確認してみた。

 髪は紅に染まっていて、目の色は全体的に翠色だが瞳孔に近づくにつれて紫がかっている。

 顔立ちも含めて全体的に母に似たようだ。

 我ながらかわいらしい顔をした赤ん坊だ。

 街中で見かけたらおばさま方に人気間違いなしだろう。

 左側にある部屋には入ったことがない、というか入ろうとしたら捕まえられるので何度かトライしてみたが失敗に終わったので諦めてしまった。

 地下室に入るには床下開口ハッチを開ける必要があるが、今の赤子の身体では不可能だ。

 また、この時期になると少しずつではあるが母が言葉を教えてくれる。

 懇切丁寧に教えてくれるので言語の理解はすんなりといけた。

 さすがに読み書きを教えるのは早いと思ったのか父が母を説得している。

 そんな母はというと、満面の笑みで


「大丈夫よ! だってうちの子、天才だもの!!」


 と言って、父の顔がしかめっ面になってしまった。

 どの世界でも底知れない親馬鹿は存在するようである。


――――

 さらに三ヶ月の時が経った。

 この家で一番の注目を集める赤子――つまり俺だが、現在は家中を歩き回っている。

 言語もなんとなく話せるので、両親と会話しこの世界のあれこれをしることができた。

 両親の話を要約すると、

 父――パトリックは人間のとある国の王子だったのだが、母との運命的な出会いできっかけで今は国を離れているそうだ。

 ただ、王子としての地位を捨てたのではなく、大臣にすべて丸投げ――任せて、他国との交流でどうしても参加しなければならない場合には一度帰国することもあるそうだ。

 そんな場面一度も見たことないが……。


 母――レベッカは古代吸血鬼族の生き残りであり、ある目的のため各地を飛び回っていたところ、父と出会ったそうだ。

 古代吸血鬼族というのがどんな種族かはよくわからなかったが、とりあえず長生きしているということだけは伝わった。

 見た目は18歳かそこらだが、この世界では見た目で年齢を判断することが難しいのかもしれない。

 吸血鬼というのは人の生き血を吸って生きるイメージが強いが、人間と同じ食事でも栄養が補給できるらしい。

 ただ、血を吸う方が栄養の吸収率が高いこと、それに若さを保つことができるのであるそうだ。

 これらは古代吸血鬼族特有の能力の一つらしい。

 それからこの世界には魔素が存在するとのこと。

 魔素を利用することで魔法やスキルが使うことができていろいろ便利であるそうだ。

 ぜひ、ものにしたいものである。

 母は魔法もスキルも使うことができるが父に魔法の才能がないらしく、魔力があってもスキルしか使えないため、剣術を学んでいたそうだ。


「リン、魔力の使い方を教えるよ!」


 母――レベッカが俺――リンに気にした様子もなく、練習を促す。

 リンが魔法やスキルに興味を示すと、両親は快く承諾してくれた。

 魔法やスキルを使うためには、魔素が必要だ。

 魔素とはどこにでもあり、ありとあらゆるものに含まれているものである。

 それはもちろん生物も例外ではない。

 そして、その魔素に干渉するための力が魔力というわけだ。

 魔法やスキルを使えるようになるためにまずは魔力の使い方を習得しなければならないのだ。

 魔力の使い方は思ったよりも簡単に習得できるものと考えていた。

 前世の幼少期に金髪の戦士が登場する少年漫画に影響されて、手から何かが出てくるように練習をしていたことが功を奏したかもしれないと考えていたからだ。

 まずは自分の体内にある魔素の操作をしてみたがうまくいかない。

 そもそも、魔素の動かし方がわからない。

 アドバイスを求めて、母に尋ねてみたが感覚でやっていたらしく説明の仕様がないようだった。

 リンは唇を尖らせて明白に不満な表情を出しており、母が慌ててアドバイスを出して宥めた。

 我が子の機嫌を取るためにはあれやこれやと思考を巡らせるのは、どの世界の親でも一緒らしい。


「自分の体の中の魔素を動かすイメージをしてみたらいいと、お母さん思うな~」


 母のご機嫌取りの言葉を聞いて、今更冗談だったと言えば、今度はこっちが機嫌を取る立場になるだろう。

 内心でこの人には冗談が通じないと認識し今後の身の振り方を改めたリンは、母の助言の通りに体中の魔素を動かすイメージをしてみる。

 すると、体中の血管に電流が流れているような感触を得る。

 それと同時に身体の内から溢れる何かを感じる。

 リンの体から魔力が溢れ出ている。

 周囲の草木は揺れ、湖が波打っている。


 母――レベッカは己の子どもに対し驚く。

 レベッカでさえ初日で魔力の操作を可能とせず、習得するには何日もかかっている。


 リンとしては一度感覚を掴めてしまえばあとは簡単にできた。

 体内でできたことを周囲の魔素を感知し、魔力を使って動かす。

 空気中の魔素を動かし、風を生み出す。

 周辺の木の葉が先ほどよりも大きくざわめいている。

 それからしばらく、風を生み出してみたり、湖から自分と同じ大きさほど水の塊を取り出し宙に浮かしたりしていき、魔力の扱いに慣れていった。

 途中で魔素がうまく動かせなくなり、極度の脱力感に襲われる。

 浮かしていた水の塊が重力に任せて自然落下していき、地面には大きな水たまりができた。

 気絶するほどとはいかないが、この体のせいなのか信じられないくらいに睡魔に襲われる。

 意識が離れかけ、身体に力が入らず、バランスを崩してしまう。

 レベッカは慌てて、リンの身体を抱き上げ、大事に至らなかったことに安堵する。

 先ほどから妻子の様子を観察していたパトリックは一連の出来事を見て驚愕している。生後間もない幼子が魔力を使っているから、この世界の常識から考えれば当然だ。

 この世界で魔力を使える平均年齢は七歳であり、彼もそのぐらいの時期から魔力の行使が可能となっている。

 パトリックの愕然とした顔を見たレベッカは、彼の心中を察し、今までの彼の気持ちが少し理解できたようで、少しの反省をしたのだった。


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