憧れ
ここ最近のケイレブの様子はおかしい。
それはヒルトギルスに昔から住んでいる者たちからしたら、当然のことだった。
ケイレブはこの町出身だった。
幼いころはこの町の子どもたちのガキ大将で血の気の多い子どもたちの面倒を見る、そんな立場だった。
将来は冒険者になることを小さいころから決意していて実際に彼は冒険者となった。
彼の冒険者としての立ち振る舞いは冒険者の鑑ともいえる様であった。
どんなクエストでも真面目に取り組み、危険な討伐クエストでも町の人達が困っていたら、自らがそのクエストを引き受けることなんてことも少なくなかった。
それは彼の意志であり、望んでのことだった。
彼が抱く冒険者としてのイメージを彼は忠実に自分に落とし込んでいたのだ。
そんなこともあってか、彼の冒険者ランクはすぐに上がることになった。
やがて、より大きなクエストに参加するために、アナストーレ王国へ旅立ち、それを町のみんなで祝福した。
だが、一年経たずしてケイレブは帰ってきた。ケイレブの目は挫折にくすんで己の夢に折れたのだと、その目を見た者は理解したが、町の人達は何も言わなかったのだ。それは失望ではなく、一人で考える時間が必要であろうと彼らが判断したためだ。
それをケイレブがどう受け止めたかは彼自身しかわからない。
だが、しばらくしてケイレブは冒険者として活動を再開した。
町で彼を慕うかつての子分たちを引き連れて。
ケイレブが立ち直ったことを町の人達は密かに慶んでいたが、実際に彼がしたことは町の警備を建前とした弱い者いじめと何ら変わらないことだった。
やがて、誰かに唆されたようで怪しいものを運んできては、それを売買する取引が中心となってきた。
さらに、最近のケイレブはどこか気が張っているようだった。
何かに警戒しているのか、余裕がないように見える。
それは、彼が重要な任務を背負っていていつも以上に気合を入れている表れだった。
彼がここまで滾らせているのには理由があった。
この取引が成功すれば、彼はある組織の一員として認められるからであり、その組織は彼が本業として力を入れている闇商業の界隈では知らない者がいないと言われるほどの巨大で有名な組織だ。
ただ、今回扱う商品を知ったとき、ケイレブは驚きを隠せなかった。
それは体長二メートルほどの大きさの始祖鳥の見た目をした生き物であった。
滅多に見ることができないどころか、絶滅したのではないかと考えられていたほどにその数を減らしていたのだ。
大昔には運搬の際に馬と同じように荷車を引いていたとされ、馬では比較にならないほどの速度を出すことが可能で、桁違いな持久力を持って長時間走り続けていたと言われている。
そんな重大な取引に今回、自分が担当したことに期待されていると感じ、喜びが隠せないでいるが、同時に焦りと緊張がケイレブの全身に走る。
これは自分が組織に入る資格があるかどうか試されているのだと理解したのだ。
こういったことがあって今のケイレブは非常にやる気に満ち溢れていたわけだが、リンがヒルトギルスに来てから彼の様子がさらにおかしいことになる。
クエストを次々と達成させ、快進撃を見せるリンが無性に気に食わない。
自分にはできなかったことをやり遂げるのではないかと、そう思ってしまい、お前ではできない、無理だと突きつけたくて気が付いたときには邪魔をしていた。
一度やってしまえば、歯止めが効かずにどんどんやることがエスカレートしていく。
そしてついに、あいつと仲のよさそうなセレナといつもあいつの後ろをついてくる赤いベレー帽の少女を誘拐することにしたのだった。
この世の中は過酷で残酷な世界で、自分の思い通りに行くことなどないと、それを若い奴に教えてやろうと、そう思っての行動だった。
――――――
ケイレブたちが待ち構えている姿を見てセレナたちを誘拐した犯人が彼らであることを確信したリン。
「一応聞くが、何の用だ」
「どうしても譲れないものがあってよ。俺はお前のことが心底気に食わない。お前を見ていると腹が立ってしょうがないんだよ。だから、俺は今の自分が正しいことを証明するために、ここでお前を潰す」
「……」
両者は黙ったまま、互いを睨み合う。
セレナたちは生きていることを『魔力感知』で確認してリンは一安心する。
「俺だけなら、大して大事にするつもりはなかったんだが……。彼女たちに手を出したのなら、覚悟しろよ?」
「ははははは。この人数を相手によく吠えた! やれるもんならやってみろよ!!」
それを皮切りにケイレブの部下たちが一斉にリンに向かって走り出す。
リンは戦闘が始まったにも関わらず、未だ目立った動きはしない。
彼らは止まっていることに腰でも抜けたのかと煽ってくるが、そんな挑発にもリンはまるで端から聞いていないかのように彼らの言葉を無視する。
やがて、リンに近づいてきた男が剣を振り上げ、斬りかかろうとするが、持っていた剣が根元から真っ二つに折れることになる。
斬りつけたはずの相手は無傷で、持っていた武器が冗談かのようにぽっきり折れているこ事実に、思わぬ結果に拍子抜けを喰らう男にリンが剣だったものを持っている腕から胴体に向けて蹴りをくれてやった。
それをまともに受けた男はボキボキと言う音を自分の体から聞こえてくる驚愕する前に強烈な一撃を受けて一瞬で意識が刈り取られてしまう。そしてその男は面白いくらい横に吹き飛んで行った。
仲間が冗談みたいな出来事を目撃したケイレブの仲間たちは呆然と立ちつくしてしまう。
そんな彼らの気持ちなど気にしないと言わんばかりに彼らに急接近する。
一番近くにいる棒立ちの対象に顔面一発ぶん殴って後方に錐揉み大回転を披露させた。
それをきっかけに己の意識を切り替えることに成功した者たちが慌ててリンに剣を向ける。既に戦意は喪失したようなものらしく、構えている剣がブルブルに震えている。
しかし、リンはお構いなしに彼らを次々と戦闘不能にしていく。途中で剣なんかも奪ったりしてそれを構えて残りのやつらを襲いだす。
軽く捻ってやるつもりだった相手が想像よりも戦い慣れている奴で自分の予定と異なることにあっけにとられるケイレブだったが、彼の部下に指示を出して対処をさせる。
「クソ。思ったよりもやるじゃねえか。おい、お前ら、遠慮はいらないからあれ使え。あれならあんな奴なんか一発でお終いだ」
指示された物をいそいそと取り出し、それをリンに向けて構える。
彼らが持ってきたものは前世の知識にはあるが、日本に住んでいれば大半の人達が実際に触ることなどない代物だった。
「マジかよ。この異世界には銃まであるのかよ。前に来た転生者か転移者が知識とか現物とかばらまいたのかよ」
文句を吐露しながら、軽々と自分の命を狙う弾丸を躱していくのケイレブの様子はおかしい。
それはヒルトギルスに昔から住んでいる者たちからしたら、当然のことだった。
ケイレブはこの町出身だった。
幼いころはこの町の子どもたちのガキ大将で血の気の多い子どもたちの面倒を見る、そんな立場だった。
将来は冒険者になることを小さいころから決意していて実際に彼は冒険者となった。
彼の冒険者としての立ち振る舞いは冒険者の鑑ともいえる様であった。
どんなクエストでも真面目に取り組み、危険な討伐クエストでも町の人達が困っていたら、自らがそのクエストを引き受けることなんてことも少なくなかった。
それは彼の意志であり、望んでのことだった。
彼が抱く冒険者としてのイメージを彼は忠実に自分に落とし込んでいたのだ。
そんなこともあってか、彼の冒険者ランクはすぐに上がることになった。
やがて、より大きなクエストに参加するために、アナストーレ王国へ旅立ち、それを町のみんなで祝福した。
だが、一年経たずしてケイレブは帰ってきた。ケイレブの目は挫折にくすんで己の夢に折れたのだと、その目を見た者は理解したが、町の人達は何も言わなかったのだ。それは失望ではなく、一人で考える時間が必要であろうと彼らが判断したためだ。
それをケイレブがどう受け止めたかは彼自身しかわからない。
だが、しばらくしてケイレブは冒険者として活動を再開した。
町で彼を慕うかつての子分たちを引き連れて。
ケイレブが立ち直ったことを町の人達は密かに慶んでいたが、実際に彼がしたことは町の警備を建前とした弱い者いじめと何ら変わらないことだった。
やがて、誰かに唆されたようで怪しいものを運んできては、それを売買する取引が中心となってきた。
さらに、最近のケイレブはどこか気が張っているようだった。
何かに警戒しているのか、余裕がないように見える。
それは、彼が重要な任務を背負っていていつも以上に気合を入れている表れだった。
彼がここまで滾らせているのには理由があった。
この取引が成功すれば、彼はある組織の一員として認められるからであり、その組織は彼が本業として力を入れている闇商業の界隈では知らない者がいないと言われるほどの巨大で有名な組織だ。
ただ、今回扱う商品を知ったとき、ケイレブは驚きを隠せなかった。
それは体長二メートルほどの大きさの始祖鳥の見た目をした生き物であった。
滅多に見ることができないどころか、絶滅したのではないかと考えられていたほどにその数を減らしていたのだ。
大昔には運搬の際に馬と同じように荷車を引いていたとされ、馬では比較にならないほどの速度を出すことが可能で、桁違いな持久力を持って長時間走り続けていたと言われている。
そんな重大な取引に今回、自分が担当したことに期待されていると感じ、喜びが隠せないでいるが、同時に焦りと緊張がケイレブの全身に走る。
これは自分が組織に入る資格があるかどうか試されているのだと理解したのだ。
こういったことがあって今のケイレブは非常にやる気に満ち溢れていたわけだが、リンがヒルトギルスに来てから彼の様子がさらにおかしいことになる。
クエストを次々と達成させ、快進撃を見せるリンが無性に気に食わない。
自分にはできなかったことをやり遂げるのではないかと、そう思ってしまい、お前ではできない、無理だと突きつけたくて気が付いたときには邪魔をしていた。
一度やってしまえば、歯止めが効かずにどんどんやることがエスカレートしていく。
そしてついに、あいつと仲のよさそうなセレナといつもあいつの後ろをついてくる赤いベレー帽の少女を誘拐することにしたのだった。
この世の中は過酷で残酷な世界で、自分の思い通りに行くことなどないと、それを若い奴に教えてやろうと、そう思っての行動だった。
――――――
ケイレブたちが待ち構えている姿を見てセレナたちを誘拐した犯人が彼らであることを確信したリン。
「一応聞くが、何の用だ」
「どうしても譲れないものがあってよ。俺はお前のことが心底気に食わない。お前を見ていると腹が立ってしょうがないんだよ。だから、俺は今の自分が正しいことを証明するために、ここでお前を潰す」
「「……」」
両者は黙ったまま、互いを睨み合う。
セレナたちは生きていることを『魔力感知』で確認してリンは内心一安心する。
「俺にちょっかいかけるだけなら、大して気にするつもりはなかったんだが……。彼女たちに手を出したのなら、話は別だ。覚悟はできているか?」
「ははははは。この人数を相手によく吠えた! やれるもんならやってみろよ!!」
それを皮切りにケイレブの部下たちが一斉にリンに向かって走り出す。
リンは戦闘が始まったにも関わらず、未だ目立った動きはしない。
彼らはリンが止まっていることに腰でも抜けたのかと煽ってくるが、そんな挑発にもリンはまるで端から聞いていないかのように彼らの言葉を無視する。
やがて、リンに近づいてきた男が剣を振り上げ、斬りかかろうとするが、持っていた剣が根元から真っ二つに折れることになる。
斬りつけたはずの相手は無傷で、持っていた武器が冗談かのようにぽっきり折れているこ事実に、思わぬ結果に拍子抜けを喰らう男にリンが剣だったものを持っている腕から胴体に向けて蹴りをくれてやった。
それをまともに受けた男はボキボキと言う音を自分の体から聞こえてくる驚愕する前に強烈な一撃を受けて一瞬で意識が刈り取られてしまう。そしてその男は面白いくらい横に吹き飛んで行った。
実は剣に向かって硬化した血を『亜空間』により、遠くからぶつけたのだ。
仲間が冗談みたいな出来事を目撃したケイレブの仲間たちは呆然と立ちつくしてしまう。
そんな彼らの気持ちなど気にしないと言わんばかりにリンは彼らに急接近する。
一番近くにいる棒立ちを対象に顔面一発ぶん殴って後方に錐揉み大回転を披露させた。
それをきっかけに己の意識を切り替えることに成功した者たちが慌ててリンに剣を向ける。既に戦意は喪失したようなもので、構えている剣がブルブルに震えている。
しかし、リンはお構いなしに彼らを次々と戦闘不能にしていく。途中で剣なんかも奪ったりしてそれを構えて残りのやつらを襲いだす。
軽く捻ってやるつもりだった相手が想像よりも戦い慣れている奴で自分の予定と異なることにあっけにとられるケイレブだったが、彼の部下に指示を出して対処をさせる。
「クソ。思ったよりもやるじゃねえか。おい、お前ら、遠慮はいらない、あれ使え。あれならあんな奴なんか一発でお終いだ」
指示された物をいそいそと取り出し、それをリンに向けて構える。
彼らが持ってきたものは前世の知識にはあるが、日本に住んでいれば大半の人達が実際に触ることなどない代物だった。
「マジか。この異世界には銃まであるのかよ。前に来た転生者か転移者が知識とか現物とかばらまきでもしたのか」
文句を吐露しながら、軽々と自分の命を狙う弾丸を躱していく。必要があれば弾丸を斬ろうかと考えていたが、弾幕が思ったよりも少ないのでその必要はないと判断した。
またも、自分の想像を逸脱するリンの行動にケイレブは目を疑うが、それは彼の仲間も同様であった。自分が今見ている光景が現実であるか訝しげに凝視する。それも当然のはずで、弾丸が効かない生物は魔物を含めれば存在している、それは彼らも認識している。だが、飛んでくる弾丸を躱してくる存在がいることなど聞いたことなどない。
彼らはこの直面している現状が自分の目の前で起こっていることに半信半疑になりながらも、次々と自分たちの仲間たちを一撃でノックアウトしていくリンに銃を再び向けるのだった。
これ以上仲間たちがやられていくのを大人しく見ているわけにもいかず銃弾を放つ。
だが、一発の銃弾も流れる水のように優雅に躱し、こちらに視線を移し猛スピードで迫ってくるリンに恐怖さえ覚える。
怯んでしまい、銃を乱暴にぶん投げて後ろに逃走を図る。
それをリンは軽い蹴りを入れて道を空けさせて、ケイレブ一直線に奔走する。
向かってくるリンに戦闘態勢をとるケイレブ。
大きな剣先をリンに向けて自分の射程圏内に入るのを待つ。
両者の剣が鍔迫り合いする。
ケイレブは剣撃を次々と繰り出す。それをリンは淡々と受け流す。
ケイレブの一撃は岩をも砕くほどの威力を持つ、それが彼の自慢でもあった。
だが、その一撃を軽く受け流している目の前のリンに心底腹が立つ。自分の攻撃が通用しない相手、そういう存在がいることを彼は知っている。自分なんかよりも圧倒的な強さを持ち、才能の差が天と地ほどある存在がいることも真っ当な冒険者だったときに嫌と言うほど、身をもって知った。
だが、そういう次元の違う存在の中に目の前にいる相手が含まれている、そういった可能性があることを受け止めることができない、いや受け止めたくないのだ。
だからこそ、ケイレブは目の前にいるリンを否定したくて、さらに力を込める。その一撃をさらに重くし、次の攻撃の速度を上げる。既に自分の限界を引き出している。
だが、目の前にいる相手はそれを簡単に対応する。
その事実を目の前に突きつけられる。
たった一発。
それすらも、今の現実では到底届かない目標だと大事な部分に叩きつけられた、そんな感覚を味わう。
咆哮にも似た力強い声を上げながら、この一撃が届けと言わんばかりに剣を振る。




