冒険者として
途中で話で戻っていたことに気が付いたので修正しておきました。
地下から出てきたリンたちは本来の予定通りに討伐クエストをこなすため、今回の対象である厄介魔鶏の目撃場所へと向かう。目撃場所はヒルトギルスの北方だ。その場所になると、切り崩された丘のような場所が多い印象であった。
なんでも、この時期のコカトリスは繁殖期に突入しており、人里まで下りて食料となる家畜を襲って毎年少なくない被害が出ているそうだ。たまに直接人にまで被害が及ぶこともあるので、この時期になると冒険者の誰かしらがこの依頼を引き受けるらしいのだ。
セレナがこのクエストを受けた理由としてはそういった被害を無くしたいという思いもあるがこのコカトリスは夜行性であるので、リンでも参加できるためだ。
ちなみに、魔物にはその魔物が保有する魔力量や人類に対する被害や脅威度を総合的に評価することでランク付けがされている。冒険者のランクと魔物のランクは一致していて冒険者は自分のランクと同じランク、または一つ上のクエストを受けることができるのだ。
リンとベルはともにFランク。
セレナもつい此間Eランクになったばかり。
そして、今回の目標であるコカトリスはDランクであり、本来なら、リンとベルの二人がこのクエストを受けることができないが、冒険者パーティーや冒険者ギルドはリーダーのランクを基準としてそこから下二つのランクの冒険者の参加が認められている。
なので、今回のようにリンとベルでもこのクエストに参加することができるというわけだ。
今のリンたちのランクと魔物のランクがどのような基準であるのかは以下のとおりである。
Fランクに魔物はいない。駆け出しの冒険者に付けられる称号。主に薬草探しや町の手伝いがメイン。
Eランクは成人男性一人と同じくらいの強さ。
Dランクは小規模のグループ(二人から十人)の成人男性の集団をその魔物一体で壊滅にしてしまうほどの強さを示している。
リンたちが目標を探していると、奇妙な動きをする影が複数体確認することができた。
その影に近づくと、リンたちに気が付いたのか、一斉に耳を塞ぎたくなるほどの甲高い鳴き声を上げてこちらに走り寄ってきた。
全長二~三メートルほどの巨大な鶏。それが十体ほど。
全体的に緑の羽毛で覆われているが、それがチャームポイントとばかりに赤く立派な鶏冠を揺らしながら意気揚々としている。
「よお~し、リン。援護は任せて!」
そう言ってセレナがガッツポーズをしてきた。
リンとしては先輩としての威厳とか矜持とかそういうのはないのかとツッコんでやろうかと思ったが、グッと我慢して今目の前にいる珍妙な敵に集中した。
それを横目にベルも楽しそうにこちらを見ていた。
コカトリスは一人ポツンと立っているリンを標的として一直線に向かっていく。
そのうちの一体をリンは血を刀状に凝固させて、いとも簡単に頭と胴体を泣き別れさせた。
続いて襲い掛かっていくものたちも次々と致命傷の一撃を与えていく。
リンにとってはこの程度の敵は造作もなかった。
動きは単純で攻撃手段もワンパターン。行動も先読みしやすいので、落ち着いて処理することができたのだ。
一体また一体と切り裂いていき、その数がどんどん減っていく。やがて三体ほどにまでその数を減らしていくと、目の前にいるリンに恐れをなしたのかリンから離れようと必死に逃げ始めていく。
それを見逃がすほど、リンも甘くはなかった。
『亜空間』から巨大な触手のようにうねうねとした血液の塊が出てきてはそれを照射した。
照射された血液の塊は一本の紅い槍のようにコカトリスに向かっていく。
逃げているコカトリスなど止まっているのだと言いたげにどんどんとその距離を縮めていき、やがてその頭を吹き飛ばした。
残りの二体も同様に頭を吹き飛ばされていき、その鮮血をまき散らす。
戦闘が終わると、セレナとベルが嬉しそうにこちらに向かってくる。リンとしてはずいぶんと大げさだなと思いつつも、彼女らが喜んでいる姿を見るのも悪くないと、そう思いながら、彼女らの元へと向かう。
こうしてリンたちの冒険者としての初めてのクエストは無事に幕を閉じたのだった。
――――――
冒険者ギルドはいつものようにどんちゃん騒ぎを奏でていた。
ケイレブたちはそんな騒ぎを聞きながら上の階で仲間たちと静かに酒を酌み交わしている。
今のケイレブは機嫌が悪い。それは彼の仲間たちでなくとも一目瞭然のことだった。
だが、変に気を使って静かにしていることがバレると、その状況が悪化することはその場にいる者全員が周知していることだ。
以前に機嫌の悪いケイレブを励まそうとした名のない冒険者はその後悲惨な結末になった。
もちろん、冒険者同士のいざこざが発見された場合、冒険者ギルドから罰金や罰則が執り行われる。
殺人であれば、確実に逮捕されることになるのだ。
だが、それはあくまでも現行犯の場合のみ、もしくは十分な証拠がある場合だ。
その名もない冒険者を殺った張本人は間違いなくケイレブたちであると誰もが思っている。だが、目撃者は誰一人おらず、証拠も何一つない。
であれば、誰もケイレブたちを捕まえることはできない。
そういったことを彼らは知っているからこそ、余計な気遣いをして面倒になることを避けるために、今も無理をして普段通りに明るく騒いているのだ。
そんなことはもちろんケイレブ本人も知っている。
自分に恐れをなしている冒険者たちを尻目に、己の自己顕示欲を上げてくれる装飾品程度にしか思っていない。
「しっかし、昨日のあのフードのやつ。大したことなかったな」
「ケイレブさんに完全に怖気づいて、何も言えないとは。あれじゃこの先が思いやられるな」
ケイレブと同じ席についている彼の仲間たちがリンのことを子馬鹿にして盛り上がっている。
そんな彼らのことを無視してケイレブは豪快に酒を呷って勢いよくテーブルに叩きつけた。
「おい、てめえら。あいつの話なんかするな。酒がまずくなる。それよりも、今日引き取った例のやつは大人しくしているか?」
「……はい!! 今は薬で眠っているので、問題ないです。常時、見張りをさせ、定期的に投薬することで予定通りに運べるかと……」
ケイティの恫喝によりその場に緊張が走る。
下で騒いでいた冒険者たちも一斉に静まり返ってしまった。自分たちは関係ないはずだが、何か機嫌を損ねてしまったのではないかと自らの行いを振り返る者までいたほどだ。
そんな彼らのことなど気にせずにケイレブは落ち着いて話を続ける。
「そうか。いいかお前ら。今回の案件を成功させれば、俺たちは晴れてあの組織の傘下となれる。だが、逆に失敗すれば俺たちの命はないと思え」
ケイレブの話を真剣に聞き、みなが一斉に頷く。それを見てケイレブは今回の仕事が無事に成功すると確信したようで、新しく出てきた酒を一気に飲み干していく。




