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ノヴァ・クロニクル  作者: 稲葉藍譜
第二章
11/18

新しい目的

 一人の少女が暗闇で閉ざされた森の中を駆けている。

 見事な刺繡が施された白い服は泥にまみれて汚れていた。

 彼女は一心不乱に何かから恐れるように逃げていく。

 後ろから聞こえる足音の主から逃げるために。

 颯爽としたされど力強いその音から、大きな怪物であることが判断できる。

 この判断は正しい。足音の主の正体は違反熊(ローグベアー)というこの森の中でも上位に位置する魔物であった。

 この少女――セレナもこの魔物の正体には気がついていた。

 目視で確認してはいないが、コモンスキル『魔力感知』で周囲を警戒していると、自分よりも強い魔力をもつ魔物の存在に気がついて一目散に距離をとったのだ。

 そして足音や時折聞こえる咆哮からその正体を見破ったというわけだ。

 だが、それはローグベアーも同じだったのだ。自分から距離をとる獲物を持ち前の嗅覚で確認し、自分よりも弱いことがわかると全速力で追いかけ距離を詰めようとする。

 (死にたくない。死にたくない。まだ、何もしていない。まだ、何もやれていない。これからなのに……)

 セレナは苦悶の表情になる。

 自分の身の安全を第一に走るが、それも長く続かないことを悟っているためだ。

 だが、それ以上に彼女は冒険者となった目的を何一つ達成できないまま、自分の一生が終わることが心底悔しいのだ。

 せめて、足止めしてでも自分が生きていられる時間を伸ばそうと、彼女は言葉を――詠唱を紡ぐ。


「我が道をその光で指し示し、その熱で我が心に勇気と希望を与え給え! 炎の玉(ファイヤーボール)


 突き出した手の平から炎の玉(ファイヤーボール)が出てきて、そのまま標的であるローグベアーに飛んでいった。かわす、あるいは避ける、曲がるといったことを知らないのかまっすぐに進んでいたローグベアーにそれは直撃した。

 セレナはあの程度の攻撃では本当に足止め程度にしかならないことをわかっている。そのため、彼女はそのまま、そこから離れるようにただひたすらに逃げていく。

 ローグベアーは一瞬怯むも逃げていく獲物――セレナに気づき後を追いかける。

 獲物と見ていたがさっきの攻撃で、頭にきたのか獲物ではなく憂さ晴らしのための蹂躙する対象としてそれを見ていた。

 セレナはただひたすらに逃げていく。

 後ろで殺意をむき出しにしている魔物から生き残るために。

 視界が開ける。

 もうすぐこの森から逃げることができるとそう確信しその顔に笑顔が浮かぶ。

 だが、現実はそう甘くない。

 彼女の視界に広がるのは、辺り一面が絶壁と化している巨大な岩肌。

 実際に触って確認するがそれが夢、幻ではなく紛れもなく現実であることを実感する。

 彼女の求める逃げ道はそこにはない。

 セレナは方向転換をして走り続けようとするが、すぐ後ろにいる化け物がいて、自分の人生が終わることを痛感する。

 目の前にいるローグベアーのその目は憤怒と殺意の光で埋め尽くされていた。

 あまりの恐怖で腰を抜かしてしまう。

 彼女は懇願する。

 誰か助けてと。

 誰でもいいから助けてほしいと。

 セレナの願いも虚しく、ローグベアーが少しずつ近づいていく。

 その様はまるで獲物を追い詰める狩の様と同じだった。


「きゃああああああああ!!!」


 彼女の精一杯の悲鳴がこの森の中で木霊する。



――――――

 森に入って三日が経過した。

 黒いコートを身にまといフードを深く被っているため、素顔を拝むことができない少年――リンと黒い狼――ベルはひたすら、森の奥地へと進む。

 奥に進むにつれて空気が淀み、暗闇が一層と増していき、一筋の光も拝むことはできないほどに。

 そんな状態でなぜ、三日経過しているのかわかるかと言うと、それはベルのおかげだ。

 リンは数日寝なくてもなんの問題ない。

 だが、ベルはそうとはいかないようだ。

 一日中森の中を散策していくと、やがてベルの体力に限界が生じ、眠たそうにこちらを見てくるので、それが就寝の合図であると覚えたリンがその場で休憩する。

 気温が低く、特に何も対処しなければ風邪をひいてしまうので、そこらへんに落ちている枝を焚火の薪代わりに拾って暖をとる。

 ついでに木の実や小さな生き物を捕まえてベルの夕食にしている。

 木の実は背の高い木の枝に集中的に実っていたので、リンの誕生魔法『操血』で爪先から血液を出して、自身の指のように動かすことですんなりと採ることができた。

 また、小さい生き物――体長十センチメートルほどのネズミ――を見つけてはこれも『操血』を使って形状を槍のようにして串刺しにすることで捕獲することができた。

 ある程度のことならば、『亜空間』から血液を出す必要もないためだ。

 『操血』の能力の一つ、血液変換を利用して小さな体の血をすべて自分の血に変換した。血の補給もあるが、血抜きをした方が鮮度が良くなるためだ。

 通常、ここまで小さいと包丁を使って捌くのは骨が折れるが、リンならば、能力を包丁代わりにして肉と皮を剝ぐことなど造作もないことだった。

 きれいに剥がれた肉塊を焚火の近くで焼いていく。

 そして食べごろになった肉をベルに渡してやるとおいしそうに食べるのだった。

 満足したようで、蹲ってそのまま寝てしまった。

 リンはと言うと、魔界を旅立つ際にもらった人族の血が入った水筒を『亜空間』から取り出して飲んで終わりだ。

 吸血鬼には本来、何かを調理して食べるという習慣はない。

 人族の血を一回におよそ百ミリリットル取り込むことで数日は何も食べなくてもよいのだ。

 魔界でリンが食事を共にしていたのは至ってシンプルな理由――魔界の料理がおいしかったからだ。

 前世のころに食べていた味とどことなく似ていたこともあり、魔界で過ごしている間は毎日何かしら食べていたというわけだ。

 リンは寝ているベルを軽く撫でる。

 横で幸せそうに寝ているベル――黒い狼はほぼ間違いなく魔物の一種だ。

 なぜ、そう思ったかと言うと、ベルの魔力量はそこらにいる野生動物と比べると桁違いであるからだ。

 通常の生物が保有できる魔力限度量の何倍をも持っている。

 これは本来ありえないことであるからだ。

 だが。リンの知っている魔物とは異なり、ベルがリンを襲うことはない。

 最初のときはそれこそ敵意抜き出しだったが、それはリンがベルの寝床で堂々と寝ていたためだ。これに関しては完全に自分に非があることを認めている。だが、今はこうして近くに寄ってくれている。

 ベルはリンの思う魔物とは別なのかもしれないと。

 静かな時間が流れる中、火を絶やさないようにリンはまた一つ薪をくべた。


――――――

 ベルが目覚めて、しばらくしたら四日目のスタートだ。

 いつものようにただひたすらにまっすぐに進んでいく。

 ベルがお腹を空かしている素振りを見せるとお互いに獲物を捕らえる。

 捕らえた獲物はリンが捌いてそれをベルが食べる。それはここ最近の習慣になりつつある。

 そして、食後のちょっとした時間にリンがベルに魔力の使い方を教える。

 魔力があるからにはある程度のことができるはずだ。

 魔法が使えない場合はあるが、スキルなら誰でも使える。

 しかし、ベルに魔法やスキルを使っている素振りを見せない。

 もしや、魔力を使うことができていないのではとリンが思案したわけだ。

 食後の怠さに身を任せて時間を潰すぐらいなら、ベルの魔力操作の練習がてらに時間を使おうとしたわけだ。それにはベルも了承してくれたので有意義な時間を過ごせると思ったのだ。

 だが、ここで一つ問題があった。

 それはコミュニケーション手段だ。紛れもなく、ベルは狼だ。であれば魔力という目に見えないものをどうやって教え、どうやって使うのかを伝授するのかという問題があったのだ。

 言葉を教えるにしても時間がかかりすぎる。それに確実に覚えてこちらの意図を組んでくれる保証がなかった。

 よってリンはジェスチャーや記号を使って、魔力について教えることにしたのだ。


「いいかい、ベル。これが魔力。これを――――」


 あれやこれや教えてみたが、ベルからしたら、丸やら四角を書いている新しい遊びだと思ったらしく上機嫌にワンと吠えるだけでまるでダメだったのだ。

 仕方ないので、別の方法で試そうと思い、リンは腰を上げ再び歩き出す。それに続いてベルも後を追う。

 暗い森の中を適当に歩く。四日も似たような風景を見ていれば物珍しさもなく特に驚くこともない。

 同じような光景を――特に見るものもないので――眺めながらしばらく歩いていく。

 すると、遠くから悲鳴が聞こえた。


「先に行く。ついてこれるか?」

「ワオーン」


 当然とばかりに吠えているので、リンは安心して悲鳴が聞こえる場所へと急行する。

 「操血』を使って自身の爪先から血を出す。それを木の枝に括り付けて凝固させる。

 勢いよく踏み込み、自身の体を浮かせ、能力で自分を木に近づける。

 次の木の枝にも同様のことをする。

 そうすればあたかも赤いタイツを全身に纏った蜘蛛人間のように自由に木々を渡り歩くことができるのだ。

 自分の後ろになった木に括り付けた血液はしっかり回収して次の木に括り付ける。

 これを繰り返すことでどんどんと速度を上げていく。

 下で一生懸命に走っていたベルが今では遥か後方になるほどには。

 流石に平地を比べればその速度は落ちているがそれでも十分すぎるほどに早いのだ。

 リンは迷わずに目的地に接近する。



――――――

「きゃああああああああ!!!」


 セレナの精一杯の悲鳴がこの森の中で木霊する。

 そんなことなど気にしていないと言わんばかりに違反熊ローグベアーはセレナに近づいていく。

 追い詰めた獲物をいたぶれる距離まで近づいてローグベアーは二足歩行となり片腕を大きく振り上げる。全長二メートル越えの肉体は灰色の体毛で覆われている。ローグベアーはいたぶるつもりかもしれないがセレナにとってその腕から放たれるものは自分にとっての一撃必殺であると確証していた。何とか逃げようと少しずつ岩肌に距離を狭めるようとする。

 もうだめだと思い、目を瞑る。少しでも致命傷を避けようと体を丸めようとして。

 リンはできる限り速度を上げる。助けられる命であるなら助けたいからだ。

 刻一刻と距離を縮め、視界が開けていく。

 上から見えるのは今にも襲われそうな少女と腕を振り下ろそうとする灰色の巨体の熊。

 それを目撃してすぐさまに右手の爪先から細い槍状にした血を勢いよくローグベアー目掛けて突き出した。

 伸ばされた血の細い槍は寸分違わずにローグベアーの心臓を貫いた。

 腕を振ろうとしていたが急所を射抜かれて硬直するローグベアー。

 咆哮も上げずに後ずさりながら、ゆっくりと力が抜けるように後ろに倒れる。


「大丈夫――」

「う、うっ。助けてくれてありが……ありがとうございましたああ。もうだめかもって……」


 声をかけて安否をかけようとしたが、セレナはリンが彼女の前に着地するやいなや泣きながら、ものすごい勢いで足にしがみついてきたのだ。

 あまりの勢いに気圧されてしまったが無事に助けることができたのでリンは安堵したのだった。

 問題を解決できたので、意識が切り替わる。するとリンは自分のフードが脱げていることに気が付く。おそらく速度を上げている間にフードが外れたがそんなことに気にしている暇がなかったために今まで気が付くことができなかったのだろうと推測した。しまったと思い、しがみついている女性に視線を移すが気が済むまで泣いている感じだったので、おそらく気が付いていないだろう。

 

 古代吸血鬼族の髪の色は赤色である。これは絵本などの昔話で知っていると昔、パトリックから教えてくれた。メジャーではないにしろ、よく『いつまでも起きてたら、吸血鬼に食べられるぞ』と言われていることもあったらしい。なんでも貴族の子どもに言い聞かせるよい題材であったらしいのだ。

 そんなわけで一応用心としてフードで隠していたわけだが、まるで意味がなかったのだ。

 でも今回はばれていないみたいだし、次からちゃんとしよう。

 リンはそう固く決意したのだった。


 そうこうしているうちにベルが追いついてきた。


「ああ、大丈夫。俺の知り合いだ。名前はベル」


 ベルに気がついたセレナが一瞬驚くが襲う気配もなく、近づいてきてはセレナの頬をなめてくるので安心したのだった。


「あははは。くすぐったいよ」


 セレナの緊張がほぐれたようで声に柔らかさが出ていた。

 すると、どこからか可愛らしいグーという音が聞こえてきた。

 セレナの頬が紅に染まっていて、とても恥ずかしそうにしながらお腹を抱えている。


「ちょっと待っていてください。今すぐこの熊を解体……。」

「ベル、眠たそうにしているところ悪いがいくつか木の実を採ってきてくれないか」

「クーン」


ベルがしょうがねえなと言いたげな仕草をしながら森の奥地へ向かっていってくれた。

魔物の肉は人族が食べればそれは毒となる。リンやベルは平気で食べることができるが、それは二人が魔族と魔物であるからで、セレナが食べるとなると話が違うのだ。このまま何も食べずにと言うのも可哀そうな話になるので、ベルに人が食べれる物を用意してもらうことにしたのだ。


「さてと。じゃあ、ええと……。申し訳ない。まずは自己紹介からですね。リンと申します。よろしければお名前を聞いてもよいですか」

「こちらこそ、助けていただいた貴方に名前も聞かずに申し訳ありません。私の名前はセレナと申します。改めまして助けていただきありがとうございました」


 お互いに自己紹介していく。セレナはお礼とともに上品に頭を下げてきた。泥で汚れているが生地の質感や施された刺繍、そして今していた仕草から、どこかの貴族なのではないかと思わせるものだった。


「セレナさんはここで一体何を?」

「お恥ずかしながら、私、冒険者をしていまして。とはいっても、始めてから一か月ほどしか経っていない新人の部類になりますが……。今回はこの森に生えている薬草の採取が目的だったのですが、帰り道の途中でローグベアーに見つかってしまったわけです」


 セレナの話を聞きながら、リンはローグベアーの血を回収していく。自分の正体がわからなければ、何をしているのかもわからないだろうと判断したためだ。ローグベアーの血抜きを終えると次々と皮と肉塊に分けていく。この捌いた熊肉を今夜のベルの晩ご飯としてご馳走しようと一考していたためだ。


 ベルが木の実を枝ごともぎ取ってきて、セレナに渡した。

 ベルが返ってくる頃には熊肉を焼けているようにに逆算していたので、帰ってきてすぐにベルは食事にありつけることができた。


 食事の間に軽く世間話をしていた。リンがベルと会ったときの馴れ初めやセレナが冒険者になってから苦労したことなどを、話し合いながらみんなで笑い合っていた。すっかり意気投合してお互いに気を使い合うこともなく呼び捨てで呼び合うようになっていた。

 「私のことなど、呼び捨てで構いませんから」と言うので、こちらも敬称は必要がないことを伝えたのだ。

 セレナが食事を終えベルを撫で始めた。余程ベルの毛並みがお気に召したようだ。実際、リンもベルの毛並みの虜になっていたので、わからなくもなかったのだ。


「それにしても、ベルは本当に変わった毛並みをしているね。黒を基調として毛先に近づくほどに紫色に淡く光っていて、ここらじゃ見たことも……ない。え、もしかしてナイトウルフ!?」

「ナイトウルフ? そんなに珍しいのか?」

「珍しいどころの話じゃないよ。ここらにはいるはずがないよ。ナイトウルフは氷の大陸周辺にある島々にしか生息していない絶滅危惧種だよ。人が近づくことも禁止されていて、私も古い図鑑で見たことがあるくらいだし」

「そんなに珍しくてこんなところにいるはずのないベル――ナイトウルフがここにいるのに何か心当たりとかないか?」


 セレナは口を噤いているがやがてそれもやめて口を開いた。


「あの噂が本当にあったことだとしたら、あり得ると思う」

「噂? 詳しく教えてくれ」

「うん。実は何の信憑性のないものだったんだけど、冒険者の間で噂になっていたの。闇の商人がこの大陸で恐ろしく強い魔物を密輸してきたけど、途中でその魔物が脱走したっていう噂」

「なるほど、それがベルだろうってことか」

「うん。十中八九間違いなくそうだと思う。ナイトウルフほどの魔物なら、その噂で言われてた強い魔物っていうのも納得できるし、何より……」

「何より、密輸されたぐらいしかここにナイトウルフがいる理由がないか」


 セレナと軽くうなずいて返事した。

 リンは目を瞑り、熟考する。


「しょうがない。連れていくか」

「え、本当に言っているの? 何か目的があったんじゃないの?」

「別に気にするほどじゃないさ。特に目的地もないままなんとなくここまで来ただけだからな。適当な国に着いたら情報収集でもして目星の付いたところから片っ端から探していくつもりだったんだ。目的地が明確な方が段取りよくなると思うし。ここでベルと出会ったのも何かの縁かもしれないからね。それに、このまま見て見ぬふりをした方があとで後悔する」

「うーんそうなると、いろいろと方法があるけど……。リンは商人の経験とかある?」

「いや、ないな。なんでだ?」

「実はさ、ここから氷の大陸へ行くにはまず、海を越える必要があるの。それで海を越えるためには商人になるか冒険者かにならないと、まず無理な話なんだ。それで仮に商人だとしたらその方法もまあ、ありだけど、今回の場合はよかったと思う。」


 セレナは言うには商人を一から始めて海を越えるようになるためにはどんなにうまくいっても最低でも三年から五年はかかるそうだ。一から商売を始めてそこからとんとん拍子で事が進んでも、そのあとに商団を作って他の大陸とのコネを作り自分たちが取引先の商品の貿易が可能にする必要があるためだ。

 そして、リンに良かったと言った理由はまた別の問題があった。


「なるほどな。商人の道に進むのは長すぎるし、仮にうまくいっても今度は別の問題が生じるというわけか。商人の道を進めば、ベルを密輸した奴らといつ接触するかわからないってことか」

「そういうこと。で、冒険者として海を越えるには最低でもBランクになる必要があって……。あ、ランクっていうのはFから順にAまで、それからその上にさらにSランクがあるんだけど、リンなら、商人でやっていくよりも早くできると思うよ」

「確かに。俺に商売の才能なんて微塵もない」

「そっか、じゃあ決まりだね。私も冒険者としてベルを故郷まで送り届ける」

「待ってくれ。セレナがそこまでする必要はないよ。ここまで情報を教えてくれただけでも十分だ。この問題は俺が勝手にやるだけだ。巻き込むわけにはいかない」

「いいの。私も別に具体的にこれがやりたいっていう目標があったわけじゃないし。それに私もリンと同じ気持ちなの。ここで引き下がったら、絶対に後悔するから」


 リンとしてはセレナが手伝ってくれることはありがたい。人界の常識や冒険者としての知識も皆無に近いリンにとっては、願ってもない渡りに船だった。

 本人の意志であるならば、断る理由がない。リンは快くセレナの同行を了承したのだった。


「というわけで、これからは私も貴方たちと一緒に旅をするから、よろしくね」

「こちらこそ、これからよろしく」


 リンとセレナが向かい合いそれぞれが言葉を紡いだ。


「ところでなんで古代吸血鬼族のリンがこんな大陸のこんな気味悪い森で何しにきたの?」

「やっぱり気が付いていたのか」

「うん。正直赤色の髪だけだったら、今の世の中、そんなに珍しくないんだけどね。ローグベアーを倒した時の攻撃で確信しちゃった。あとは堂々と血を回収したり、血を使ってあれこれしているの見てて、正体ばれてないと思っているのかなって。このまま黙っているのも考えたけど、これから一緒に行動するなら、いつまでも隠し通せるような内容じゃないしね。」

「怖がったりしないのか?」

「助けてくれた恩人を怖がるほど、落ちぶれてないわよ」


 気を使ってくれたのだろうとリンは思う。そして、彼女の正直な性格に心ひかれた。

 なので、包み隠さずに自分の目的を話すことにした。


「なるほどね。それなら、ちょうどいいね。私が拠点にしているところに長年営業している吸血鬼の店があるらしいの。そこは情報屋としても兼業しているらしいから、そこに行って話を聞いてみて、ついでに冒険者登録もして」

「ああ、その方針でいい。よし、じゃあベル起こして……」


 そこで寝ていたベルを起こして旅の支度をしようとしたリンだったが、そこにいたのは見知らぬ少女がいた。

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