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サモンサモナーヒストリア  作者: 九重雅
3/4

03


 気を失った男はまた目が覚めた。それと同時に思い出す。

 目の前の少女は俺に強いモンスターを召喚させることを望み、召喚したモンスターを食べるのだと。

 その為に俺は出入口の無い部屋に監禁され、能力を使って化け物を召喚している。

 この状況からどうにかして抜け出したい。そのきっかけを手に入れる為に目を覚ました男は少女と対話する。


 「何でこの部屋には扉や窓が無いんだ?」


 だが、少女はその質問に答えず。別の事柄について話し始める。


 「最初はゴブリン三体。次はゴブリン五体。そろそろオークが召喚出来ると思うのだけれど、試しに召喚(サモン)してくれる? 詠唱はサモン・オーク。さぁ、やってみなさい」


 この状況下では彼女に会話の主導権が在る。だが、彼女の言う通りに動けばその後少しばかりの対話が可能だと今までの事から考えた男は少女に言われた通りに手を前に出して詠唱を始める。


 「サモン・オーク」


 それと同時に魔法陣から出てきたのは豚の顔をした背の高い化け物だった。

 顔付きは豚、体型は小太りで背丈は男よりも高い。腰布を一枚羽織る人型の豚の化け物といったところだろう。その豚の化け物もゴブリン同様に人外の言葉を発し男の方へ視線を向けていた。

  

 「これで食料には困らなそうね」


 そう言って少女は召喚したオークに近寄り、オークの体に少し触れる。すると同時にオークの体はその場に沈み込んだ。男はその様子を目の当たりにし、倒れ込んだオークの様子を観察すると息をしていないことがわかった。


 「殺したのか?」


 「見ればわかるでしょ?」


 そう言いながら少女は倒れたオークの腕を掴み、ゆっくりと引っ張る。筋肉が軋む音と同時にオークの腕は胴体から引き千切られる。床には大量の血が滴り、少女は引き千切った腕を男の前に放り投げる。


 「はい、アナタの分よ」


 「は?」


 男は目の前で起きた少女の行動に唖然とした表情を浮かべる。そんな男の様子など気にせず、少女はもう片方のオークの腕を引き千切る。そして引き千切ったオークの腕から飛び出る血液でドレスが汚れないように気を付けながら、空いた手でオークの腕を摘み、パンを千切って食べるかのように口に運ぶ。


 「魔物としての質は低いけれど、味としてはやはり優秀ね。脂身が多いのが少し難点だけれど……」


 などと少女はオークの腕肉についての味の感想を述べる。

 そして少女は数口摘まんで食べると満足したのか、食べ掛けのオーク肉を死体の方へ投げつけるのだった。それと同時に、男がオーク肉を食べていないことに気が付き不思議そうな顔をしていた。


 「人間って食事をしなくてもいいのかしら?」


 そんな少女の問い掛けで男は唖然とした態度を正した。


 「そりゃ、腹は減るし喉も乾く。それでもコレはないだろ?」


 男の目の前には化け物の死体。そして食べろと言われ引き千切られた血塗れの肉。

 こんなモノを食べた日には人間としての尊厳だとか、色々と無くしてしまう気がしていた。

 そして、それとは別に空腹というモノも確かに存在した。だが、コレを食べるかと言われれば拒絶反応が出てしまう。

 

 「そうね、水も必要ね」


 そう言うと少女は指先を男の方へ向ける。それと同時に男の近くに小さな水の塊が現れる。

 男の目の前には食料と水が用意された。これで空腹になることは無いし、喉も潤うだろうという少女なりの気遣いなのだろうが、男はそうじゃないと言わんばかりの困惑の表情を浮かべた。


 「その……もっとまともなモノは無いのか?」


 「まともなモノ?」


 「こういう化け物の肉じゃなくて、豚肉とか牛肉……鳥とかでもいいし……なんなら野菜とか……」


 「豚肉なら目の前に在るじゃない? オークは豚よ?」


 「そうじゃない。コレは断じて豚じゃない。豚に似た化け物だ」


 「つまり豚じゃない?」


 「豚じゃない」


 少女は呆れた表情を浮かべながら男に近寄る。そして男に投げつけた方の腕を無理矢理口に押し付ける。


 「アナタの言う豚肉よコレは」


 「おい、やめろ!! やめてくれ!!」


 男はどうにか逃げようとするが少女に髪を掴まれ逃げることができず、そのままオーク肉を口にねじ込まれた。口の中一杯に滴る血、それと同時に舌に旨味が広がった。男は抵抗することを辞め、ゆっくりと口にねじ込まれた肉を嚙み始める。


 「確かに……豚肉の気がする……豚肉より旨い?」


 「早く食べなさい、部屋の汚れは落ちても死臭は簡単に落ちないのだから」 


 そう言いながら少女は男から離れ、いつもの椅子に座る。そして近くに水の塊を出して汚れた指先を洗い、乾かし本を読み始める。

 男はオーク肉を少しばかり食し、近くの水の塊に口を近づけ吸い込む。

 確かに味は旨い。だが見た目は最悪だ。などと思いつつもこれ以上は食が進まなかった。


 「なあ、コレはどうするんだ?」


 男は食べ終わったオークの死体を見ながら少女に問いかける。


 「そこに投げ入れなさい」


 少女がそう言うと、近くに黒い渦が広がった奇妙な空間が出来上がる。


 「何だよコレ?」


 「ゲートよ」


 ゲートということは門? 出入口? この部屋に出入口や窓が無いということはこのゲートから外に出入りすることができるのだろうと男はすぐに推察できた。そしてコレはこの場から逃げ出すチャンスだと思った男は即座にその黒い渦の中へと飛び込んだ。

 少女は男のそんな行動を横目で見つつ呆れた様子で読み掛けの本をテーブルへと置いた。

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