02
床で無造作に眠っていた男は気が付き、ゆっくりと目を開きながら体を起こした。
この部屋には扉や窓は無く、最低限の家具と散らばる本の山。そして椅子に座って本を読む黒髪の少女。男は少し記憶を振り返ると思い出す。目の前の少女に顔を蹴られ、化け物を召喚した事に。
だが部屋に化け物の姿は何処にも見当たらなかった。
目を覚ました男に気が付いた少女は読み掛けの本を閉じて視線を向ける。
「さて、さっきのでアナタの現状の魔力量は大体把握したわ。とりあえずゴブリンを沢山召喚しなさい」
「その前に教えてくれよ。何で俺はこんな事をしなくちゃいけないんだ?」
「アナタとお喋りしても良いのだけれど。まずは召喚してくれる?」
きっとこの少女は俺が言う事を聞かなければ殴るか蹴るかのどちらかをしてくるに違いないと思い、男は右手を前に出して「サモン・ゴブリン」と唱える。それと同時に魔法陣からゴブリンが召喚される。
その様子を見た少女は言葉を続ける。
「アナタが何故『こんな事』をしなくてはならないかって質問だったわね。そうね、アナタには召喚士として強くなって貰いたいの。その為には魔力を枯渇させて魔力保有量を大きくしていく必要が在る。だからアナタには気絶するまで召喚をして貰っているの。これでいいかしら?」
「つまり、アンタは俺に強くなって欲しいってことなのか? 何でだ?」
「厳密にはアナタ自身に強くなって貰いたい訳ではなく。アナタには強い魔物を召喚して欲しいだけなの」
「何故?」
「食べるのよ」
少女のその一言を聞いた男は召喚した化け物に視線を向ける。
つまりこの少女は化け物を食べる為、俺に化け物を召喚させている。そして、俺は召喚すれば召喚するだけ強い化け物召喚できるようになるというのだろう。だが、何故俺なのだろうか? 召喚士という能力は他にも居るのではないだろうか? なら何故俺はこの少女の元に居るのだろうか? そんな沢山の疑問が湧いてくる。だが一番先に口にした疑問は……。
「この前召喚したゴブリンの姿が見当たらないってことは……食べたって事なのか?」
「何を言っているのかしら? ゴブリンなんて食べるわけないでしょ。そこまで困るほど空腹ではないわ」
「じゃあ……」
「お喋りが過ぎるわね? 召喚する手が止まっているわよ?」
少女はそう言って男との会話を切り上げる。男は逃げ場も無く、目の前の少女にすら力で勝てないだろうという予想と諦めから少女の言うとおりに召喚する。この前は三体で意識が飛んだが、今回は五体召喚すると意識が暗転するのだった。