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第1話 胸も太もももどちらも良いものですよね

カクヨムにずっと放置してあった物です。

 俺の名前は小笠原一(おがさわらはじめ)。花の高校2年生だ。

 父親がたまに行方不明になる以外は、ごくごく普通の一般家庭の一人っ子。

 ……少なくとも、今日まではそう思っていた。


「んー……」


 いつも通り朝7時に起床した俺は、布団から出ると大きく伸びをし、カーテンを開ける。

 外は良い天気で今日もいい1日になりそうだった。


 身支度を整えて台所へ行く。

 母さんが朝食を作っている。



「おはよう母さん」


「あら、おはようハジメ。昨日の夜はよく眠れた?」


「うん……ちょっと寝つき悪かったけどね」


 母さんの質問に、苦笑いを浮かべながら俺は席に着いた。

 食卓の上には俺と母さんの分、二人分の料理が並べられている。


 父さんは、また一週間前に失踪して今は何処に居るのかすら分からない。

 まぁ、俺が物心付いてからずっとそんな感じなので今更心配もしないが。


 いつかふらっと帰って来るだろうと、思いながら、俺は熱々のトーストにかぶり付くのだった。


****


 朝食を食べ終えた俺は、身支度を整え、筆記用具位しか入っていない、スカスカのスクールバックを肩に掛け家を出る。


「行ってきます」


「はい、行ってらっしゃい」


 笑顔の母さんに見送られて俺は家を後にして、しばらく歩くと見慣れた女の子後ろ姿が見えた。


「よう!真奈美!」


 声をかけるとその人物はピクリと反応し、こちらを振り向く。


「あ、兄貴。おっすおっす」


「……なんだよその掛け声、気が抜けるな~」


 彼女の名前は川戸真奈美(かわどまなみ)


 俺の幼なじみであり、同じ高校の1年生だ。なぜか俺のことを兄貴と呼ぶ。

 顔立ちはかなり整っていて成績優秀でスポーツ万能と非の打ち所がない。


 肩口までの髪はさらさらで、その活発な雰囲気は、ピョコンと飛び出したアホ毛と合間って、どことなく子犬を連想させるような人懐っこさがある。

 おまけに胸が大きい。


「どうしたの兄貴?」


「あ、ああ。別になんでもない!」


 つい見惚れてしまった俺は誤魔化すように咳払いすると勢い良く歩き出した。


「じゃ行こうぜ」


「うん♪」


 登校時に行き合ったら、一緒に学校まで向かうのは、昔からの習慣の様なものである。

 四月に真奈美が俺の居る高校に入学してきた事で、その習慣も一年振りに復活した。


 俺たちは並んで歩き出す。


 その時、ピューッと強い風が一瞬吹き抜ける。


「あっ!」


 スカートを押さえる真奈美の姿を見た俺は、慌てて視線を逸らす。


(やべぇ、太もも丸見えだった)


 隣では真奈美が何食わぬ顔をして服装を直している。


「ん? どうかした兄貴?」


 明後日の方向に首を向けた俺に向かって、真奈美はそう問いかける。


「いや! 別に?

 あっ、おい。あの雲、海老フライみたいな形しているぞ!」


 一瞬で雲に意識を持っていかれる真奈美。


 「あ、ホントだ! スゲー!」


 ……長い付き合いになるが本当に移り気な奴だ。

 自分の格好に無頓着な事といい、少し心配になる。


「おい、兄貴! 聞いてんのか?」


「うぉ!」


 そんなことを考えていると急に真奈美に腕を引っ張られて、我に返った。


「どうしたんだよボーッとして」


「いや、何でもねぇ」


 心配そうな表情の真奈美を見て我に帰った俺は慌てて否定する。


「それより早く行こうぜ」


「うん♪」


 俺が再び歩き始めると、真奈美もその隣をスキップでもする様に歩く。


 こうして今日もまたいつも通りの日常が始まった。と、思ったんだけど……。


****


「きゃあ!」


 通学路を歩いていると、突然、悲鳴が聞こえた。

 そちらを見ると、道端で倒れている女の子が一人。


「おい大丈夫か?」


 急いで駆け寄ると


「はい、ちょっと躓いちゃって……」


と、弱々しい返事が返ってきた。


「怪我は無い? 立てる?」


 俺がそう言いながら片手を差し出すと、女の子は、


「はい……大丈夫です」


と言いながら、おずおずと差し出された片手に掴まり立ち上がる。


 彼女が立ち上がった事で彼女の容貌を確認する事が出来た。


 色白の凄く綺麗な子だ。長い黒髪をポニーテールにしているのがよく似合っている。

 年齢は十五歳前後だろうか。


 そしてデカイ。何がとは言わないがデカイ。

(軽巡、……いや重巡洋艦クラスか? この年で!?)


「? …あの」


 余りの敵戦力の大きさに、フリーズ仕掛けた俺に、女の子が不思議そうに声をかけてくる。


「え、あ……おう。よろしく」


 反射的に挨拶してしまう俺に対し


「はい、こちらこそよろしくお願いします」


と、丁寧に頭を下げてきた女の子。


 なんだか調子狂うな……


「ところでここはどこでしょうか?」


「へ?」


 キョロキョロと辺りを見回す彼女を見ながら思わず素の声が出てしまう。


「ここがどこかわからないんです」


「あ、ああ。そうだね。うん」


 さも当然かの様に言う彼女に対して、そう相づちを打つ俺。

 正直、この年で迷子か? と思わなくもない。


 だがせっかくお近づきになれた美少女。

 ここはなるべく好感度を稼いでおくべきだろう。

 あわよくば、連絡先を交換したい。お友達になりたい。


「あの、すみませんが教えていただけますか?」


 不安げに尋ねられる。

 勿論ここはYES一択だろう。


「あーうん。わかった。説明するから。

 ……まずは自己紹介からだな。俺の名は小笠原一、高校二年生。

 そして、こっちにいるのは俺の幼なじみで、川戸真奈美。

俺と同じ学校の一年」


「よろしくね!」


 真奈美が持ち前の人懐っこさを発揮し、少女に笑かける。


 だが、女の子は酷く驚いた表情を浮かべ、ポツリと呟く。


「なるほど。貴方が……」


「ん?」


 この子は俺の事を知っているのか?

 そう思って、尋ねようとすると、それをごまかすかのように


「いえ、なんでもありません。

 私は御剣(みつるぎ)雪花と言います。 

 高校一年生です。」


と、自己紹介をしてきた。


「了解。じゃあ改めてよろしく頼む」


「はい、こちらこそ」


「それで道がわからないんだったか」


 そう、彼女からの依頼を果たそうと話を切り出すと、


「いいえそれはもう大丈夫です。

 貴方についていけば良いのですから」


と御剣と名乗った女の子は微笑みながらそう言った。


「そうなのか?」


(きっと高校まで行きたかったんだろう。転校生か何かかな?)


 色々とおかしい所はあったが、久方振りに女の子とお話が出来た事で(真奈美は妹みたいなもんなので枠外)、舞い上がってしまっている俺は、特に気にもしなかった。


「はい♪」


 嬉しそうな彼女を見ていると悪い気はしない。こっちまでウキウキしてくる。


「じゃ行くぞ」


「はいっ♪」


 こうして俺たちは再び歩き出した。……のだが。


『ブルンッ』


 歩き出した衝撃で御剣の胸が揺れる。


「……」


(なんだこれ?)


 目の前に広がる光景を見て俺は呆然としていた。

 まさか相手は、重巡ではなく、ミサイルをたっぷり詰め込んだイージス艦だった。とでも言うのだろうか。


「どうしたの兄貴?」


 真奈美が不思議そうな顔で聞いてくる。


「ああ、なんでもない」


(恐ろしい、なんて恐ろしい飛び道具なんだ。

 ……って、さっきも同じやり取りをした気がする)


「それでさぁ兄貴ぃ〜」


 そんなバカな事を俺が考えていると、突然真奈美が話しかけてくる。

 こいつは昔からこんな感じだ。とにかく脈絡が無い。


「ん〜?」


 適当に相槌を打つ。


「ちゃんと聞けぇ!」


 脇からの突然の圧を感じた俺は、さっと身を翻しファイティングポーズをとる。


「おっと」


 いきなり飛びかかってきた真奈美を避ける。

 こいつの攻撃パターンはだいたい把握しているのだ。


「避けるんじゃねぇ! あたしの話を聞きやがれ、このバカ野郎が!!」


「うるせえ!! 黙れバーカバーカ!!!」


「なんだとうぉおおぉ!!??」


「あはは……」


 突然ストリートファイトを始めた俺たちを、 御剣が苦笑いを浮かべて眺めている。


 だが、こちらを見詰める瞳には、どことなく、羨望の色があるように感じられた。

 真奈美に蹴っ飛ばされて、地に倒れ伏す……俺には。


****


 そんな事をしていても俺たちは何とか学校にたどり着いた。


「着いたぜ」


「学校というところは初めて来ましたけど賑やかな場所ですね」


 御剣が感心したように周りを見回しながら言う。


「そうかな?」


 俺は首を傾げる。

 うちの学校は結構普通だと思うんだけど……


「兄貴早く行かないと時間が……」


 真奈美が俺の事をせっつく。

 朝から無駄に時間を使ってしまった為に、既に予鈴ギリギリになってしまっている。


「ああ、それもそうだな

 ……えっと、君はどうする?」


 そう御剣に向かって尋ねると


「私は部外者なので、手続きをしてから中に入ろうと思います。

 ここまで案内していただいてありがとうございました」


と、俺と真奈美に向かって頭を下げた。


「全然良いよ!

 またね、雪花ちゃん!」


 俺に先んじて真奈美がそう答える。


「……ええ、また。」


 そう答えた御剣と一瞬視線が交差する。

 彼女の瞳には、嬉しいような、悲しいような、はたまた怒っているかのような、不思議な光が宿っているように、俺には見えたのだった。


 そのまま、靴箱のところで2人と別れる。

 少し歩いて階段を登り教室に到着する。


「おはよ一、ハジメ!」


「おう、おはようさん」


 笑顔で挨拶してくる友人・鈴木和弘に答える。


「今日は遅かったな」


「ちょっと色々あってな」


 俺は、さっきの出来事を思い出しながら答える。


「なんだよそれ?」


 不思議そうに聞いてくる和弘。


「いや別に、気にするな」


 そう。あの二人の揺れる脚と胸の残像は、俺だけの心のメモリーに刻み込まれるのだ。

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