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第36話 ナルとの新しい生活

 ナルも徐々に元気を取り戻してきた。そのせいか病院でもらってきた薬を飲ませるのも一苦労だ。白い小さな錠剤を飲ませないといけないのだが、口を開けてくれないし、前足をバタつかせて必死に抵抗してくる。


「なっ、ナル。この薬を飲まないと元気になれないんだ。頼むから飲んでくれよ」


 だがナルはプイッと横を向いて、中々言う事を聞いてくれない。餌に混ぜてもみたが、器用に薬だけを吐き出してしまう。

 本によると錠剤を飲ませる時は、二人掛かりで一人が暴れないように押さえるのが良いと書いてあるが、一人暮らしの俺には無理な事だ。タオルを体に巻き付ける方法もあるそうだが上手くいかなかった……。

 そうだ。キャリーバックに入れた時に使った洗濯ネットはどうだ。あれなら静かになってくれるだろう。


「さあ、ナル。こっちにおいで~」


 猫なで声でナルを呼ぶが、少し警戒しているようだな。うまく隙を見つけて洗濯ネットを被せると、少し暴れたがネットに包まれると大人しくなってくれた。ファスナーから頭だけを外に出して口を開かせ、喉の奥へと錠剤を放り込む。口から半分以上奥なら吐き出すこともないそうだ。

 むせる事もなくナルは薬を飲んでくれた。ついでに病院からもらった目薬も差しておこう。


 俺のせいでナルに野良猫生活をさせてしまったんだ。俺が責任を持って回復させてやらないとな。

 ナルは徐々に体重も増えて元気になっていく。元通りのナルと生活を送る事ができるようになった。



 そして二カ月が過ぎた。


「ナル、どうだ新しい家は。お前が住むキッチンは前よりも広いだろう」


 俺は今の場所を離れ、新たな賃貸マンションへと引っ越した。前はペット禁止だったが、ここは住民に迷惑を掛けなければペットを飼ってもいい事になっている。四階建て築六年の新しく綺麗なマンションだ。その三階に俺の部屋がある。駅から遠いせいか、家賃も前とあまり変わらない。


 部屋数は三つで前と同じ2DKだが真四角の部屋を十字に四等分した間取りで、キッチンと居間と寝室、もう一角が風呂とトイレになっている。

 奥の二部屋は北側で直接陽は入らないが、ベランダに面していて明るい。大きなガラス戸を開けてベランダに出ると、建物に邪魔される事なく三階からの景色を見る事ができる。


「どうだ、ナル。ここからの景色は気に入ってくれたか」


 風に吹かれながら、ナルと一緒に外を眺める。


 この賃貸マンションは小ぢんまりとしていて、三階までの各階には三世帯、合計九世帯しか住んでいない。最上階の四階にはここのオーナーである年老いた夫婦が住んでいる。今後の事を考え自分の土地にこのマンションを建てたそうだ。


 最寄り駅まで徒歩で十五分と離れてしまったが一駅だけ職場に近い。一駅と言っても駅間は短く、駅からこのマンションまでの方が遠いぐらいだ。

 お陰で朝、会社に出るのが十五分早くなっちまったが、いつも六時前には起きているからな。あまり変わらん。マンションの一筋南には大きな公園もあり、外に出ると今も子供たちの遊ぶ声が聞こえてくる。


 ナルはここに来るのは初めてのはずだが、キャリーバックの入り口を開けると、落ち着いた様子で部屋の中を見て回っていたな。

 猫は家に付くと言うから新しい家に戸惑うんじゃないかと思っていたが、家が変わってもそんな様子は見せない。俺が一緒にいて安心だという事もあるのだろうが、ナルは環境の変化に強いのかもしれないな。


 荷解きをして衣類や食器などを所定の場所に納めていく。ナルはそんな俺にお構いなしに、自分のお気に入りの場所がないかと部屋の中を歩き回っている。

 部屋の片づけが大体終わった頃、ナルの姿が見えないと思ったら脱衣場の奥に置いているローテーブルの足元に丸まっていた。俺が入って来たことに気づいてこちらをちらりと見たが、放っておいてほしいわね、と言うように顔を伏せた。


 相変わらず暗くて狭い場所が好きなんだな。気に入ったのなら、しばらくそこで寝ていてくれ。俺は買い物ついでにこの辺りを散歩でもしてこよう。

 近くには食料品を中心としたスーパーがあり、少し離れた所には二十四時間オープンしている大型スーパーもある。そこにはペット用の商品が数多くあり、ナルの事で困る事はなさそうだ。


 駅から少し離れただけで、こんなにも違うんだなと思ってしまう。この辺りは一戸建て住宅が多く集合住宅も三階建てなどの低い建物が多い。

 ここから駅に向かう途中には大学があり、グランドやテニスコートなどもありスペースが多くて空が広い。


 ゆっくり歩いて見て回った後、夕食の材料を買って新しい家に戻る。このマンションには狭いながらもエレベーターがあって重い荷物を持っていても苦にならない。定員は三人となっていたが、大柄の俺が荷物を持って乗るとやはり狭いな。

 六階までのマンションならエレベーターを設置する義務はないんだが、ここのオーナーは年老いた夫婦だ。自分たちが乗るためにこんなエレベータを付けたんだろう。


 部屋に戻るとナルがミャ~と鳴いてお出迎えしてくれた。


「もう起きたのか。じゃあ、こっちの部屋に行こうか」


 キッチンの隣が居間になっていて、その隣が寝室だが全ての部屋がフローリングで和室は無い。俺はお気に入りのクッションに身を沈めて、膝の上にナルを抱き、背中を撫でながら言う。


「ここは静かでいい所だ。お前と過ごすにはちょうどいい場所じゃないか」


 ナルはそれに応えるように一声ミャ~と鳴いた。

 ここでナルとの新しい生活が始まる。これからも穏やかな日々を過ごせるようにと願うばかりだ。


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