仮面の男
「義姉さんって大人しそうに見えて、意外と大胆だよね」
「ラディーこそ、あんなに素敵な騎士道をお持ちとは思わなかったわ」
ティーカップを片手に姉弟の間を皮肉が飛ぶ。夕食後、屋敷のサロンで交わすそれは、ほんのコミュニケーションだ。
あれから事態の収拾は思いの外簡単だった。本題がリリアやランディーの事からフィオレンツァの事に刷り代わり、誰も深追いができなくなってしまったからだ。
フィオレンツァはリリアとランディーの手を引き、早々にその場を後にした。
ランディーは嬉そうに後に付いてきたけれど、リリアは最初の親しげな態度が嘘のように、畏まりきっていた。でも嫌われてしまったわけではないだろう。
その証拠に、「またフィオと呼んでくれる?」と尋ねたフィオレンツァの言葉に頬を赤らめていたのだから。
「でもよかったの? きっと明日には学校中に知れわたっているよ」
「もともと隠すつもりもなかったもの。ラディーこそ、あれだけ啖呵をきったのだから、明日から覚悟しておいた方がよいんじゃないかしら」
「僕はいつも通りに振る舞うだけさ」
「くれぐれも無茶だけはしないでね」
「その言葉そっくりそのまま返すよ、義姉さん」
ラディーの言葉は聞こえないフリをして、フィオレンツァは黙って紅茶を啜った。ラディーは不満そうだ。
「義姉さん?」
「返事は?」とでも言いたげにラディーは、義姉の名を呼んだ。フィオレンツァは分が悪いと感じて話題を変える。そこはフィオレンツァの方が一枚上手だ。
「ところで、今日の野次馬のなかに気になる人物がいたわね」
「気になるってどういうこと?」
とたんにラディーの顔色が変わって、フィオレンツァは苦笑する。自分のことを好いていてくれているのは素直に嬉しいことである。でも今の話題は、フィオレンツァが探し出したいと願って止まない、リアムのことに関係していた。
「銀色の髪に、仮面をつけていたわ」
そうまさにリアムの髪色と同じ人物が学園にいたのである。顔は仮面で隠されてわからなかったが、髪色だけでも目立っていた。
「仮面だなんて怪しい奴、義姉さんの探しているリアムさんのわけないよ」
「いいえ、だってあの山火事で彼も火傷を負ったかもしれないでしょう? それをかくすためだったら? なにはともあれ、一度会ってみなくちゃわからないわ」
はぁ、とランディーがため息をついた。
「義姉さんは、言い出したら聞かないから……。明日まずリリアに聞いてみよう」