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雨の演奏会

作者: 海月

 ふと目が覚めるとまだ朝の四時だった。今日は大学が休みなので寝てても良いのだが何となく二度寝する気になれず起き上がる。長く伸びたボサボサの髪を櫛で解かしながら窓の外を覗くと雨が降っており薄暗く曇っていた。折角の休日だと言うのに雨とは憂鬱な気分になる。

 重たい身体を持ち上げベッドを降りリビングへ向かう。窓を開け、椅子に座り机の上に置いてあったタバコを一本咥える。残り2本、後で買いに行こうと思いながら火をつける。目を閉じてゆっくり息を吸いゆっくりと煙を吐き出す。まだ人が起きてこない明け方の時間は車も通っておらず人の気配もない。目を瞑っていると開けた窓から雨音が聴こえて来る。ザァーザァーと降り注ぐ雨音だけでなく、バシャバシャと水が屋根から落ちる音、ピチョン…ピチョン…と何処から雫が溢れる音、びしゃびしゃと雨粒が地面に落ちていく音。様々な雨音が窓の外から聴こえて来る。

 タバコの火を消し玄関から長靴と傘を持ってきて寝巻きのまま庭へと向かう。雨が降り注ぐ庭へ出ると差している傘に雨粒が落ちてきてボンッボロロンッと音を奏でる。傘の持ち手を回し傘を回転させるとバララララッ、ボロロロロンッとまた違った音色とリズムを刻みまるで誰かがドラムでも叩いているかのようだ。ザァーザァーと奏でる雨音は伴奏を弾いて、ボーカルは居ないので水溜まりを跳ねながら適当な鼻歌を歌い自分で音を奏でる。小さな家の小さな庭で雨と一緒にセッションしている。まるで小さな演奏会でも開いている気分だ。

 この演奏会は今この瞬間しか聴くことが出来ない。たった一度しか聴くことの出来ない私のためだけの私が作り上げた音楽。雨は無規則に降り注ぐ。次降る雨が今奏でている音楽と同じになることはない。

 大の大人が1人傘を回転させ鼻歌混じりに水溜まりで水飛沫をあげる様子ははたから見るときっと変人のように見えるだろうがそれでも雨の唄を作り上げるのはとても心地良かった。

 しばらく音楽を奏でていると次第に雨が止み始め、演奏会も終わってしまった。晴れた東の空には綺麗な朝日と虹がうかんでいた。楽しい演奏会を開き、綺麗な景色を見られた今日はきっといい日になる様な気がした。

雨の日は憂鬱になりがちですがもし良かったら雨の日に数秒程耳を澄ませて一度だけしか聴くことの出来ない雨の唄を聴いてみてください。

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