ザキ「最推しの属性によっては戦争や」
ザキ(山鷺)……アニメオタク。幼馴染と呼べるような相手とはもう五年以上一人も会っていない。関係性としては「昔の知り合い」でしかないため、それを幼馴染と呼ぶことには抵抗がある。また、小学校の集団登校でも同学年は自分一人で、家が近所の同級生というものに憧れがある。
モヒ(元木)……マンガオタク。高校時代の水泳部の先輩が好きだった時期があるが、チャラいタイプのサッカー部の先輩と付き合い始めてしまったので人知れず失恋。「トシウエコワイ」となり、後輩モノの魅力に目覚める。しかし未だにリアルでは理想の後輩に出会えていない。
ロキ(興梠)……ラノベオタク。長身スポーツマンな兄に子ども扱いされながら育ったので、下のきょうだい、特に妹に憧れがある。ただ、リアル妹が兄になつくだなんて幻想だと頭では理解している。両親は年齢的にもう子どもをつくらないだろうし、離婚して再婚ということもなさげで諦めている。
ヒメ(望月)……ヲタクオタク。様々なタイプの異性から告白されてきたが、理想のタイプは「その道を極めたヲタク」なので、今のところ全てを断っている。行き遅れになるかもしれないという不安は一切抱いていない自信家なので、そのスタンスは今後も変わらないと思われる。
ザキ「幼馴染ブームがやってきたんちゃうかな」
モヒ「今さら? ずっと幼馴染はブームみたいなもんやろ」
ロキ「いや、一理ある。幼馴染ヒロインは負けヒロインっていう風潮があったのが、また崩れつつあるよな」
ザキ「ラブコメの基本は『最初に会ったヒロインが結ばれるヒロイン』やからな。物語の冒頭という意味では違っても、本質的に最初に会ってるんは幼馴染ヒロインやねんから、これは必然」
ヒメ「なあに? 幼馴染萌えなの?」
ザキ「え? あ、まあ……」
ヒメ「そう。残念だったわね。もう一生その望みは叶わないわ」
ザキ「一生!? いや、まあ確かにそうか……?」
モヒ「でも、幼稚園とか小学校低学年とかで一緒やった女子とか、再会すれば幼馴染ちゃうん?」
ザキ「それはなんか、幼馴染の定義に当てはまらん気がする」
モヒ「なんや幼馴染の定義って」
ザキ「小さい頃からずっと一緒の学校で、クラスもしょっちゅう同じになって、お互いの癖とかわかりあってて、小さい頃はよく遊んだのに同級生とかから揶揄われるようになってからはなんかよそよそしくなったりして、でもふとした機会にまた仲良くなるような」
モヒ「妄想乙」
ロキ「痛々しいわー」
ザキ「訊かれたから答えただけやのに! 酷ない!?」
モヒ「いやでも、それは聞いてて辛い」
ロキ「そこまでの条件が合致してたらそれはもう都市伝説」
ザキ「そこまで言うか……」
モヒ「俺今まで自分にも幼馴染おると思ってたけど、二度と幼馴染がおるなんて言わんわ。その定義は条件厳しすぎる」
ロキ「俺はクラスが小学校六年間同じやった女子はおるけどな」
ザキ「逝ね」
ロキ「罵倒語が直接的過ぎる……。クラス一緒でもそない喋らんかったけどな。向こうは引っ込み思案で友達少ないタイプやったし、男子とは特に壁があったから」
ザキ「むしろそういう女子が自分とだけは親しいとかが尊いからアリ!」
ロキ「人の知り合いを『設定』でアリナシ判断するのキモいで」
ザキ「罵倒語が直接的過ぎるのはどっちやねん……」
モヒ「でも俺は幼馴染は萌えへんなー。どっちかというと後輩ヒロインに萌える」
ザキ「ほう」
ロキ「ある意味それも定番やんな。でも後輩ヒロインが勝つ展開は割と序盤から後輩ヒロイン一強状態な気がする」
ザキ「ああー! それはそんな気がする! 序盤から複数のヒロインが出てくるタイプの作品で後輩ヒロインがメインってあんま無い印象」
ロキ「『ス〇ライク・ザ・ブラッド』とかはそうか……?」
モヒ「そういうところに萌えへん?」
ザキ「………………すまん、どういうところ?」
モヒ「序盤から報われへんことが見えてて、主人公の同級生に強力なライバルがおって、主人公からは数ある後輩の一人としか思われてへんくて、それでも振り向いてほしくて健気に頑張ってしまうところとか、最高ちゃうか?」
ロキ「尽くしてもらいたいという男の醜い欲望を垣間見たみたいで気持ち悪い」
ザキ「……その回答やと、自分はその気持ちに応えるつもりがないけど、そういう風に熱心に想われたい、みたいに聞こえて、最低のクズ野郎やなって思う」
モヒ「俺は報われへんヒロインの境遇にキュンキュンしてるだけで、俺が想われる側ならもちろん気持ちに応えますぅー!」
ロキ「キュンキュンだけハイトーンで言うたのも自分に後輩から想いを寄せられる要素があると思ってるんも気持ち悪い」
モヒ「さっきから俺んときだけ『キモい』やなくて『気持ち悪い』って言うの、余計に心に来るからやめてくれへん? 泣くで?」
ロキ「そんときは放置する」
モヒ「決めた。泣きますー。泣いちゃいますー。赤子のように泣きわめいて近隣の部室から苦情を舞いこませたるから覚悟しとけよ!」
ヒメ「そんなことをしたら部室の前で貼り付けにして首から『私は、大学生にもなって赤ちゃんのように駄々をこねて泣きわめいて、皆さんに迷惑をかけた大馬鹿者です』って書いた板ぶら下げるわよ」
ザキ「公開処刑の方法があまりにも具体的」
ロキ「さては事前に何通りかプラン持っとったな?」
モヒ「すみませんでした」
ヒメ「よろしい」
モヒ「……ロキだけずるいぞ。お前も推しヒロインの属性を吐け! そんでめたくそに言われろ!」
ロキ「ならば答えよう! 俺の推しヒロイン属性、それは!」
モヒ「それは!?」
ロキ「……妹!」
ザキ「お疲れっしたー」
モヒ「ご愁傷様やな」
ロキ「ふむ。その反応は納得がいかんが。どないしてん。もっと煽ってこいよ。ナメクジを見るかのような目で見てこいよ。何を悟ってんねん」
ザキ「妹萌えだけやなくて、ナメクジ扱いもされたいとか、割と人生終わってへんか?」
モヒ「なんかリアクションを期待して作った回答みたいで、リアクションする気が失せた」
ロキ「天邪鬼め」
ザキ「え、嘘なん?」
ロキ「いや、大マジにござる」
ザキ「そっかー。大マジかー」
モヒ「ちなみに実妹は?」
ロキ「おるんか? という意味ならノー。実妹エンドはアリやと思うか? という質問でもノー」
ザキ「おや?」
モヒ「意外やな。ノーなんや」
ロキ「でも、従妹とか、両親の再婚でできた義理の妹とか、最悪腹違いぐらいまでならセーフ」
ザキ「前二つはともかく、腹違いは完全にアウト」
モヒ「両親の再婚で妹ができるとか、もうほとんどファンタジーよな」
ロキ「そうか? 近年の離婚率から考えると、あながちなくもないような?」
ザキ「相手も再婚で、年の近い子どもがおって、思春期の子どもが急に異性の兄弟ができることに抵抗がなくて反対もされず、ってなると、ファンタジーな気はするな」
ロキ「夢がないなー。まあ、両親の仲が良好なんは喜ぶべきことよな」
モヒ「まさか義理の妹が欲しいから別れてくれとも言えんわな」
ロキ「まあラノベは特に妹ヒロイン豊富やし、設定もいろいろあるから、供給は足りてる。現実には夢見てへんし」
ザキ「そうやんなぁ。リアルは諦めが肝心よな」
モヒ「俺は今からでも理想の後輩を探すけどな」
ロキ「それが目的ならこの部は絶望的に向いてへんけどな」
モヒ「いや! オタク趣味に理解がある後輩ヒロインを見つけるのにここは最適! 後からオタバレして幻滅オサラバにならんというメリットも!」
ザキ「本音は?」
モヒ「後輩ヒロインを探す労力をかけるよりも、ここで気の合う奴らと駄弁る方が有意義」
ザキ「それな」
ロキ「わかる」
ヒメ「ここで探してもいいじゃない。新歓時期は頑張ったら?」
ザキ「でも幼馴染ちゃうし」
ロキ「妹でもないし」
ザキ「モヒのためにそこまでするほどお人好しちゃうし」
ロキ「むしろそうするぐらいなら自分好みの人だけ探すし」
モヒ「この裏切り者ォ!!」
ヒメ「……(私のことが初めからカウントに入っていないの、なんか気に食わないわね)」