名探偵は事件を欲している!
名探偵には事件が必要だ。例えどんな手を使っても……名探偵であるためには事件が無ければ。
「犯人はお前だ!」
鋭い声と共に指を差す。集まっていた皆の視線は「犯人」へと注がれた。
ここからが重要だ。犯人は絶対に罪を認めようとしないだろう。ありとあらゆる証拠をだして罪を認めさせるのが私の仕事だ。
私は少し大げさなくらいの演技で推理ショーを行った。誰もが私の言葉に注目し、信じて疑わない。犯人は抵抗したが無駄だ。私には決定的な証拠があるのだ。
ショーが終わり、私は一礼する。結局、犯人は警官に両腕をつかまれ連行された。人が死んだのだ。残忍な手口から、良くても30年は出てこれないだろう。死刑になるかもしれない。
私は仄暗い満足感に満ちていた。
今回の推理ショーは我ながら素晴らしかった。被害者がナイフで滅多刺しにされた残虐な事件。遺体には47ヶ所も刺された跡があり、目は恐怖に見開かれていた。あんな恐ろしい死に顔には中々出会えないだろう。犯人のアリバイは完璧で、証拠を揃えるのには苦労をした。
それでも苦労した分だけ快感は大きくなる。
今日、私によって一人の青年の人生は奪われたのだ。ちゃちな報酬金や遺族の感謝の言葉なんかよりよっぽど素晴らしい報酬だ。
「探偵さんのバカッ! お兄ちゃんは犯人じゃないもん!」
足に小さな衝撃があった。下を見ると小学一年生くらいの女の子が泣きながら叩いている。
確か犯人の妹だったか……。随分と兄思いの妹らしい。
「妹の君には残念だったが、証拠も動機も揃っている。やっぱり犯人は君のお兄さんだよ」
「違う! 確かにお兄ちゃん達は仲が悪かったけど、殺すほどじゃないもん。それに昔は凄い仲が良かったんだから!」
犯人と被害者は幼なじみだった。昔は親友だったが、恋愛沙汰で絶交。これは動機として便利に使わせて貰った。趣味がサバイバルナイフの収集というのも都合が良い。滅多に出会えない逸材だ。
「そうかそうか。だがな、君も私の推理ショーを見たのだろう? 君のお兄さんは夜に元親友を呼び出してナイフで刺した。それも47回。とても恨んでいたんだろうね。知っているかい? 人を47回刺すというのは大変なんだよ。私もそろそろ歳だからね」
「えっ……」
おっと、喋りすぎたらしい。恐怖に染まった瞳はぞくぞくするが、さすがに連続して事件が起こるのは不自然だ。それに相手は小学1年生。誰が彼女の言葉を信じるだろうか。
「大丈夫。冗談に決まっているだろう? そんなに怯えることはないんだよ。私は、正義の名探偵なのだから」