帝都バームクーヘンの悪夢4
シズクは、私達をギルドの酒場に置いて、すぐさま皇帝陛下の寝所へと向かった。時計を見ると夜の9時だった。タクスンと私は、気絶しているサライとサラダンを椅子に座らして、ビールを飲んだ。二、三杯飲み干すとサライ達は目を覚まし、酒を飲み始めた。全員が表現が難しい恐怖に駆られていた為なのか、酒宴は大いに盛り上がった。
「ゴブリンがなんぼのもんじゃーい!」とタクスンが赤くなった鱗を逆立て叫ぶ。そうだ、そうだと私達は立ち上がり、呼応する。男四人肩を組み、歌詞の意味さえわからぬタクスンの故郷の詩を叫びながら酒場を飛び出す。
雨が降り出した。道路の排水溝に水が流れ落ちていく、その下に這って住み着くゴブリン達を思い出すと吐き気がした。他の男三人も同じことを思ったのか青い顔をして排水溝を見ていた。
「お兄さん達〜ザンツ帝国名物〜食べて行かない〜」どうやら私達は女郎横丁に迷い込んでいたらしい。化粧を厚塗りし、強引に谷間を作った女が私達を手招きしてる。その手の動かし用は正に男を狂わす魅力を宿していた。誰かが固唾を飲み込む音が聞こえる。どうせ、サライだと思い音をする方を見るとタクスンは蛇の様な舌をチロチロと出したら入れたりしていた。タクスン以外の仲間は全員笑ってしまった。タクスンはそんな私達を放って女郎について行った。女郎屋から溢れる暖色の光に照らされ男三人が顔を見合わす。
「お…おまえら…銭あるか…?」サラダンが目を血走りながら私達を見る。
「私は…持ってない」と私は白状した。サライが私の手を強く取り、手のひらに冷たい何かを詰め込んだ。雨に打たれながら恐る恐るそれを見ると、金貨が数枚入っていた。サライは漢であった。
「せ…拙僧は少々行くところがある故…これにて…」サラダンはそそくさと女郎屋へと逃げ込んでいった。それに続きサライも他の女郎屋へと逃げ込んだ。私は託された金貨と云う意思を握りしめただ呆然と雨の中立っていた。行くべきか、行かざるべきか、それが問題だ。と無闇に呟く。せっかく意思を託されたのだから、行くべきだ。行かなければ漢の意思をドブに捨ててしまう。しかし、ゴブリンの危機だと云うのにそんな事をしてていいのか?。ふと気付くと、女郎屋の看板に日本語で文字が書かれていた。"英雄、色を好む"。
そこから先は書くべきではない。なんと言ってもこれは調査伝記なのだから。
次の日、男達は酒場に集まっていた。タクスンとサラダンは自己嫌悪に陥っていた。そんな二人を笑いならがサライは彼らの身の上話を始めた。
「サラダンの野郎は宗教の戒律で不純な交友が禁止されてんだよ。で、タクスンの野郎は国に婚約者がいるんだとよ!馬鹿な奴だぜ。」とサライは楽しそうに話していた。
「そう言う、君はどこの生まれだい?」と私は聞いた。
「ザンツ帝国の西側の村さ、妹と家族を残して冒険者家業さ。自由でいいぜ、あんな村狭くていけねぇや!サクマはあいつらぐらい自己嫌悪に陥った方がいいぜ。だって自分の連れを奔走さして、自分は悠々と女郎遊びだもんな」私は顔を赤らめながら、酒を飲み干した。そうして、馬鹿な男達を叱り付ける声が聞こえた。登録窓口のスキンヘッドの男が怒鳴りながら私達を指差す。
「ゴラァ!おまえら…何やらかしたんじゃ!憲兵団本部への出頭命令じゃと!!?」私達は、自分たちを指差した。
「ぼ…ぼくらですか…?」
窓口の男に怒鳴られながら、押し込まれた車の助手席にはシズクが座っていた。冷ややかな目で男達を見る。
「はぁ…まぁ状況を説明するわね。今、作戦本部に向かっているの」車が発進する。
「ご…ゴブリンのすっか?」サライが震えながら聞く。
「当たり前じゃないの、もう近衛兵長や陸軍海軍の将校に、宰相まで集まってるわよ!」
「拙僧達に…作戦は立てられるとは思えぬが…」とサラダンが言う。
「立てさせる訳ないじゃない。状況説明者よアンタ達は。どこで油売っていたのか…」男達は押し黙った。シズクはくどくどと説教をしていた。小一時間程してから、憲兵団本部に着いた。厳重な警備に行き届いた装備。なにより、本部の大きさは日本の国会議事堂と差異はないほど大きかった。形も少しばかり似ていたが、鉤十字の旗が多数設置されていた。
シズクに連れられて、大会議室に向かった。大会議室に入ると円卓になっており、12個の座席がある。一つを残し全ての座席が埋まっていた。
「お…おい…あの対面の髭面のおじさん。"人間戦艦"のダフマス元帥じゃないか…」サライが私に、耳打ちをする。白い髭を胸元まで生やした老人は海軍帽子を目深に被り、静かな強さを漂わせながら座っていた。
「その両隣には、"迅雷の右翼"に"静謐の左翼"じゃなか」筋骨隆々な鷲鼻の金髪の男と、細いがその瞳から尋常ならざる知性を感じられる黒の長髪の女がダフマス元帥の両隣に座っていた。
「それに…帝国お抱え転生者でありながら冒険者グループ。"深窓の暗闇"の4人が勢揃いだ。」私は饒舌なサライの話を聞きながら、異名と言うのはそんなに大事か?と思っていた。凡人な私はでも、円卓の席に座る三人の人物には敬服を感じる気品を感じた。その三人は猿の様な顔した背の小さい壮年の男性に、気難しそうな中華の文官の格好をした長身の青年。そして先程呼ばれていたダフマス元帥だった。サライに残り二人の話を聞いてみた。
「"猿翁"トライ団長と、"歯車"ソンビン宰相だ。トライ団長は締結騎士団の元団長で今は近衛兵団の団長をしている。ソンビン宰相の方は、前皇帝陛下の遺言から直々に宰相に選ばれた方だ。噂だと転移者らしい。」シズクは空いた席に腰を据えた。ピリピリとした怖いほどの静粛の中、ダフマス元帥が口を開く。
「これから、ゴブリン殲滅作戦会議を始める」