第一章 転生~幼少期編 【第七話 暗雲】
2020/6/30改稿しました。
「もう、あの娘ったら、どこに行ったのかしら?」
ミネラは会場内にタマの姿を探すが全く見当たらない。
すると突然、
「キャーーーッ!!!」っと悲鳴が聞こえた。
一瞬、会場全体が騒然とし場が凍りつく・・・
《ザワザワ、何だ何だ?》
「皆の者、安心せよ!国王は無事である!」
と、宰相の大きな声が会場に響く。
近衛兵達がすぐに動き出し、出入口や窓など、人が出入り可能な場所を厳重に塞ぐ。
『一体何があったのかしら?』
ミネラが確認しようと、王のいるテーブルの方へ近づいていこうとすると
「奥様、お待ちを。」
ヨーコが合流してきた!・・・両手に大きな風呂敷包みを持っている。
ジト目でヨーコを見るが、今は敢えて突っ込まないようにした。
「ヨーコ、何があったかわかるかしら?」
「はい、奥様。国王付き毒味のメイドが倒れました!!!」
「え?!」
国王付きの毒見のメイドが倒れた。ということは誰かが国王暗殺を目論んだということ。
いったい誰が???とミネラは思ったが・・・しかし、今は犯人を推察している場合ではないと気を現実に戻す。
倒れたメイドは、意識不明のようだとヨーコは言うが、今は治癒班が担架を持ってきており、メイドを乗せて奥へと運ぶ様子が遠目で見える。治癒魔法をかけているので、おそらく命は助かるのであろう。
ミネラは状況判断の為、もう一度周りを見渡す。
迎賓館の出入口から外の様子がチラと見えるが、警備兵の集団があわただしく小走りで迎賓館を囲むように集合しつつある。
国王と王妃は近衛兵に守られながら会場から退場していく。
再び宰相の声が響く。
「皆の者、すまない。今夜は事態が事態であるから、建国記念パーティーはこれでお開きとしたい。本当にすまない。」
と、深く一礼し、近衛隊長に「あとは任せたぞ?」と言って退場する。
一国の宰相が頭を下げるというのは、今できる来賓へのせめてもの誠意ある謝罪なのであろう。
「ヨーコ!急いでタマを探しましょう!」
「はい、奥様!」
☆☆☆
一方・・・
タマ達は探検を楽しんでいた。
今はメイン会場からスタッフのいる棟へと繋がっている広い通路を探索中だ。
壁にそって色々な物が置いてある。
金色の大きな置き時計。振り子の動きがたまにつっかえるのが面白い。
それに絵画や彫像、花瓶や鎧兜など。タマの住んでいるお屋敷では見たことのない物もある。
「あれって、なんだろう?」 タタタッ。
「??このおんなのひと、なんではだかなの??」 テテテッ。
「わー!よろい!おやしきにもある。すごい!きんいろだ!!」
コンコンと叩くタマ。「うん、いいひびきだね!フフフッ!」
タマと謎の女の子は、パーティー会場からバックヤードへと続く廊下をジグザグには走りながら、はしゃいでいた。
「わー!いろんなものがあるね?」
謎の女の子はタマに引っ張り回されてる感じになっているが、無表情である。
「ん?あれ?なんか、むこうから、おいしそうなにおいが・・・」
広い通路の途中に別の通路があり、その奥から風に乗ってお菓子のような、甘い香りが漂っている。
「クンクン・・・お!これは おかしかも!いってみよ?」
とタマが言い終わるより早く、謎の女の子の方からタマの手を引いて進みだした。
「わっとと!あなたもあまいおかし、だいすきなのね?」
しばらく行くと、部屋の出入り口が見えてきた。その中から何者かが会話をする声が聞こえてきたので、タマ達はゆっくりと忍足でその部屋へと近づいていった。
その部屋は数カ所ある厨房の内のひとつで、お菓子を専門に作る場所のようだった。
5歳児たちのヨダレを誘うに十分な甘い香りが漂ってきている。
厨房の出入口にワイン樽がいくつか置いてあったので、二人はそこに身を隠して厨房の中の様子を伺うようにした。甘い香りの誘惑に耐えながら・・・。どうやら言い争っている様子だった。
「サーシャ!話が違うではないかっ?!」
「申し訳ございません、マディニス様、不測の事態が起きまして。」
「不測の事態とは??」
「はい、実は今日の計画実行の為にずっと訓練していた実行役のメイドが、なぜか来なかったのでございます。それで、急遽別の者を指導したのですが、どうやら手順を間違えたようで・・・。」
「そのようだな。料理にかけるソースに毒を仕込んでおいたのだろう?」
「はい。今回は我が家に伝わる特殊な魔法で毒を膜で包み、ソース小瓶に仕込んでおりました。
小さな衝撃で魔法が解け毒が広がるという仕組みでございます。
メイドが毒見をする時は、ソースの上澄み部分を匙ですくい口にしますので、それだけでは毒味役が倒れるようなことはまずございません。毒のない部分ですからねぇ。しかし今回は・・・料理を運ぶ時に先に匙を入れて運んでいたようで、小さな衝撃が小瓶内で発生し魔法が解け、毒が瓶内に広がってしまったようです。」
「つまり?そのメイドの段取りが悪かったと?」
「はい。申し訳ございません。もちろん、私のミスでもございます。
しかしながら、今回は5年に一度の建国パーティーでございます。マディニス様の復讐を早く成したいお気持ちも理解しておりますが、何分、普段のパーティーより来賓者数が多く、給仕メイドの人手が全然足りませんでした。ですから、二か月前より帝国から呼び寄せたメイドの内、まだ経験の浅い若いメイドに急遽指導いたしましたので・・・大役に緊張して段取りを間違えてしまったのでしょう。」
バンッ!!!
「そんなことで?!」
怒りのあまりテーブルを叩きつけるマディニス・・・がすぐに気を落ち着けて、冷静になった。
「くそっ・・・しかたあるまい。今回は失敗したが・・・しばしの間、あの国王めは生かしておくとするか!」
しかしマディニスは再び怒りでワナワナとし始めていた。
ガタッ!
「「?!?!?!」」
マディニスは「シッ!」という仕草をする。
そっと音のした厨房出入口の方へと近づく。
タマは樽の影でビクビクしていた。
隣には謎の女の子も一緒だが、厨房から聞こえる話をはっきりと聴いてしまった。
ただ、5歳児の理解力では、それが意味することまではよくわからないのだが、とにかくヤバイ話のようだ、ということは幼心に理解していた。
『やばい、ここからにげなきゃ!』
と、思った瞬間、
「なんだ?子供か?盗み聞きとは感心せんなぁ。こっちに来いっ!」
「キャッ!!!」
マディニスがタマの腕を掴み引っ張る。
――― ゴゥッ!
「熱っ! なんだ? 火か?」
突然、小さい炎がマディニスの手を襲った。
「ほう?きさま、幼いのに魔法持ちか?良いぞぉ!ならばウチで飼ってやろうっ!」
マディニスが今度は両腕でタマに掴みかかろうとする!
――― シュバッ!
今度はレーザーのような火が、飛んできた。
「ぐあッ?!」
よろめくマディニス。
左肩を右手で押さえ、膝をついてしまった。火傷と骨にヒビが入ったのか、思ったより激痛が走った!
「くそっ!ガキがぁ・・・イテぇなぁ。」
『いまだっ!!!』
タマは謎の女の子の手を引いて、一緒に逃げ出した。
「ぐっ、この!逃がすがぁ~っ!!」
そのマディニスの叫びを無視して逃げるタマ達!
――― バシュ!ガンッ!樽が道を塞ぐように倒れる!
「マ、マディニス様っ!お怪我をっ!」
「くっ、サーシャ!あのガキはっ?」
「そんなことより、先に傷の手当てを!」
サーシャは一瞬だけタマの背中を見やったが、マディニスの治療を優先する。
しかも、ここで誰かに見つかっては暗殺計画がばれて状況は悪くなるとわかっていたからでもある。
タマ達が走り去る後ろで、慌てる声が聞こえてきたがタマ達は一目散に逃げる!!!
《マディニス、それにサーシャね。》珠美は二人の名前を記憶した。
「ひまほうは?あなたがつかってたのね?!」
タマは一緒にいる謎の女の子が火魔法の使い手だと知り、友達になったばかりなのに自分を助けてくれて、『ありがとう!』と思った。
そのまま二人はパーティー会場の方向へと、ダッシュで逃げた!!
今回もお読みいただきありがとうございました。
まだまだ文章力、表現力が足りず、努力あるのみですね。
ご意見、ご感想、誤字、脱字などございましたら遠慮なくお願いいたします!
これからも「メイドクイーン タマ!」の応援を宜しくお願い致します。
ではまた次回をお楽しみに!