第二章 魔法学園編①【 第24話 希望が湧いた日 】
「勝者 ターニャマリー・フォン・ロージズメル!」
学園長の判定の声が聞こえると、目の前がスーッと暗くなりバーチャル空間から現実にグッと引き戻される感覚に襲われた。
タマが目を開けると目の前は暗かったが、すぐにシェルのシャッターが開いた。
ゆっくりと起き上がると戦闘服のままシェルから降りる。
向こう側のシェルからサッチも降り、こちらへ歩いてくる様子が見えた。
彼女は少しフラついているようだ。
二人とも汗のせいで戦闘服が肌に張り付いている。
一部の男子生徒からセクハラな声が聞こえたが、
学園長がチョークを投げるような仕草をした次の瞬間にその男子生徒は気絶していた・・・
『それ、氷の塊じゃない?』とタマは思った。
男子生徒の自業自得だが『ちょっとやりすぎでは?』と思うタマ。
そして男子生徒の目線のことは気にすることもなく、
サッチはタマをキッと睨むとその場から走り去った。
『・・・相当悔しかったのかな?』
タマは余計な気遣いをした。
学園長が皆に問う。
「次に戦いたい者はおらぬか?」
場はシーンとなっていた。
誰も手を上げなかった。
「・・・もう一度聞く。次にターニャマリーと戦いたい者はおらぬか?」
やはり、誰も手をあげない。
学園長はため息を「はぁ・・・」とつくと
「これでわかったじゃろ?なぜターニャマリーがAクラスなのか?魔力量の多い少ないは瑣末なことなのじゃ。魔力量はこの学園で真剣に学んでおれば、ほとんどの学生は増えて卒業する。ターニャマリーもそうなるじゃろう・・・であれば、あとは《心を鍛える》だけじゃろ?」
学園長はわざと話の間を置き学生の反応を期待するが、彼らの大半は自信がなさそうに下を向いていた。
学園長は気を取り直して話し出す。
「良いか?この学園で学んだことを、どれだけ自分のものにしていくか?そして弛まぬ努力を続けていけるか?己自身の弱い部分をどれだけ克服できるのか?この魔法学園では、魔法も教えるが、まずは皆の《心を鍛える》ことを徹底的に教えていくのじゃ。わかったな?
では、解散してよいぞ?教室はあっちじゃ。
そうそう、ターニャマリーには話があるので、残るのじゃぞ?
あぁ着替えてからでよい、ワシと話すのじゃ、よいな?」
Aクラスの生徒は担任の先生共々、教室へと戻っていく。
タマはメイドtたちに手伝われ、着替えもすぐに終わり、約束通り学園長の前へと戻る。
「ターニャマリー・フォン・ロージズメルよ? お主の魔力量は本来なら・・・もっとあるはずじゃ?しかし、なんらかの制約がかかっているようじゃ。足枷というべきか・・・それが魔力を拒否しているようなイメージじゃ。その原因は・・・流石のワシにもよくわからん。じゃが、それが克服できれば、模擬戦で見せてくれた戦闘が現実でもできるであろう。安心せい。素質は充分ある!あの方の推薦状以上に将来を期待できる逸材じゃな。あきらめず、頑張るのじゃよ?」
褒められたのか、そうでないのかよくかわからず、タマの表情は明るくなったり暗くなったりと忙しかった。
「ん?複雑な表情をしておるな?」
「だって、学園長がわたしを褒めてるのか、そうじゃないのかよくわからなくて・・・」
「ははは。褒めているに決まっておる! もう教室に戻って良いぞ? 困ったことがあればいつでも相談にくるがよい。では失礼する。おまえたち、片付けはまかせたぞ?」
と学園長はメイドたちに指示をいうと、本人は転移魔法で姿を消した。
先ほど着替えを手伝ってくれたメイドたちは一礼し、装置を触ったり、戦闘服をカバンにしまったりしていた。
『あの戦闘服って・・・ちゃんと洗濯するのだろうか?変なことに使われないだろうか?』
とタマは少し寒気を感じながら余計な心配をしてしまう。
タマは教室へと戻る途中で、学園長の言葉を思い出した。
『・・・推薦状っていったいなんだろう?』
おそらく父の知り合いの誰かだろうと、それぐらいしか思い当たらないのでこのことは頭の隅の奥の方へと追いやった。
今度、父が来た時か手紙を出す時にでもきいてみようと思いながら。
教室の近くまで戻ると、リンネが迎えてくれた。
「タマちゃん、模擬戦すごかったね!わたしは支援魔法が得意だから、ああやってガンガン攻めていけるロックな感じって、うらやましいなぁ。」
とさりげなく手を繋いで教室へ引き込んでくれたリンネ。
教室内の雰囲気は、どんよりと重い・・・。
タマは『ちょっとやりすぎたのかな?』と思った。
それにしても、先ほどの学園長の話からすると、タマの魔力量はかなりあるはずだ。
それが現実では計測すると全く反応がないというのはどういうことなのだろう?
そう考えた時にズキっと頭が痛くなった・・・
『なんだろう?この痛みは?』
「タマちゃん?大丈夫?」
リンネが声をかけてきたので
「うん、大丈夫。ちょっと模擬戦で疲れたのかも・・・」
とタマは言い訳した。実際に頭の痛みもすぐに治った。
タマは学園長の話をまた思い出していた。
”この学園を卒業する頃には魔力量は今より増えている”と学園長は言っていた!
そう考えると、タマはすごく希望が湧いたのだった。