第二章 魔法学園編① 【 第十九話 ルームメイト 】
「え?あ?え?あ?うそっ?ほんもの????」
「ふふっ、初めまして、あなたが私のルームメイト?」
部屋の玄関で、タマの目の前に立っていたのは、
夕方のステージで見たばかりの学園の歌姫、“リンネ・マロンド”その人だった。
「えっと・・・そんなに驚かないでほしいかな・・・今は、あなたと同じただの新入生だよ?」
リンネは優しく微笑む。
『笑顔もかわいくて歌も上手だなんて、反則だよ~!』とタマは内心思ったが、
「え、あ、ごめんなさい。そうだよね、同じ新入生だもんね?これからよろしくね!」
タマがスッと手を差し出すと、リンネはちょっと恥ずかしそうにしてから、それに応じた。
「う、うん、よろしくね!えっと、お名前は?」
「わたしはターニャマリー。みんな“タマちゃん”って呼んでくれるから、
リンネちゃんもそう呼んでくれる?」
とタマはニッコリと笑いながら言った。
『キャーーーーッ!タマちゃんて笑顔がすっごくかわいい!それにもう私を“ちゃん”づけで呼んでくれた!嬉しい!』
どうやらお互いさまのようであった。
「あれ?なんだろう?おいしそうな匂いがするね?」
「あ、これ!カラアゲ!冷めてるけど食べる?」
「え、冷めてるの?どうして あたためないの?」
「だって食堂にいくまでに、迷子になっちゃいそうで・・・」
「プーッ、うふふふふ!」
「な・なんでわらうの?」
「ごめんなさい。でもステキなルームメイトでよかったぁ!」
「そ、そう? それはどうも、ありがとう。」
「ふふふ、これからよろしくね、タマちゃん!」
――― “グーッ”とタマのお腹が鳴った。
「・・・もしかして、ごはん食べてないの?」
「うん、ウトウトしてて・・・気づいたら、この時間だったの」
「そうなの? じゃあ、ちょうど良かった! わたしも今から、食べに行くから、一緒に行こう?」
「???たべにいく???」
「来て!」
タマはリンネに手を引かれ、タッパーを抱いたまま部屋から連れ出される。
リンネは片手に魔道具を持って、誰かと話していた。
リンネとタマは学生寮のエントランスへと向かっていた。
どうやら寮から別の場所へ行くようだった。
二人がエントランスから外に出ると、その目の前には見たことのない豪華な魔導車が止まっていた。
二人が乗ると、ゆっくりと移動を始め、魔導車は“レストラン”の前で停車した。
「さぁ、タマちゃん!降りて!」
リンネに言われるがまま、車を降りるタマ。
再び手を引かれ、二人はレストランの中にある広い部屋へと入っていった。
「うわぁ~!!!」
その部屋は宴会場であった。
いくつかの丸いテーブがあり、その上には食べ物がたくさん置いてあった。
立食形式のパーティーの真っ最中だった。
『これ、なんのパーティーなんだろう?』
タマの頭の中は“?”であったが、目の前の美味しそうな料理たちが香りで“カモ~ン”と誘惑している。
『まずは腹ごしらえだね、あとできいてみよう!』とタマは思った。
今、そこにある危機、それは空腹・・・限界突破寸前であった。
「さぁ、タマちゃん! こっちきて!」
リンネは再びタマの手を引いて歩きだす。
この会場も王宮パーティーと同じ立食形式だった。
リンネはテーブルの上のお肉をフォークで刺し、タマへ「はい、あ~ん」と差し出した。
タマはそれにパクつくと、口の中に広がるうまみを味わった。
「んわっ!? これ、すごくおいしーっ!!!」
「お口に合って、良かったわ! じゃあ、次はこれね。」
とリンネは再び「あ~ん」といって、フォークに刺した料理をタマに食べさせようとする。
「自分で食べるから、だいじょうぶだよ?」タマは照れながら笑顔で言う。
「そ、そうだよね!」
リンネも自分の行動がややハイテンションになっていたことに気づいたのか、
恥ずかしそうにフォークを引っ込めた。
「ところで、これ温めたいんだけど、どうしたらいいかな?」
と、タッパーを見せるタマ。
「うーん、そうだね。あ!ちょっと、そこのお姉さん、お願い!」
リンネが給仕のメイドさんに声をかけると、メイドさんは一礼して近づいてきた。
すごく教育が行き届いているようだ。
タマは事情を話しメイドさんにタッパーを渡す。メイドさんは再び一礼すると、
会場の奥へと向かって行った。
『まるで、王宮のメイドさんみたい・・・王宮かぁ、あの時はお母さんがいたんだよね・・・』
タマはちょっとノスタルジィな気分になる。
「あぁ♡ あのタッパーの中身も早く食べてみたいわ!じゅる。」
しかしリンネのひと言で、タマの“ノスタルジィ”は一瞬で冷めてしまった・・・。
二人はタッパーが戻ってくるのを待ちながら、お肉料理や、サラダなど、色々な料理を少しづつ食べて周った。
タマが特に気に入ったのは“ハーブのきいたチキンの蒸し焼き肉”であった。
隠し味に有名なシャトーのワインで蒸しているという。
メルサスが聞いたらどんなリアクションをするのか?
まだワインのことなど全くわからないタマは、想像力を働かせて笑うのみであった。
先ほどのメイドが思ったよりも早く、タッパーを持って戻ってきた。
タマはそれを受け取ると、しっかりとした温もりを感じ、メイドにお礼を言った。
すぐにメイドが立ち去らないので、タマが不思議に思っていると、そのメイドはサイン色紙を持って、何か言いたそうにしていた・・・
タマが“?”となっているのをよそに、リンネが色紙をサッと受け取り、スラスラとサインを書いていた。
タマは「あ!そういうことかぁ!わたしに“書いて”じゃなかったんだね」
と冗談なのか本気なのかわからない発言をしたので、リンネとメイドさんは爆笑していた。
早速、タッパーを開けてカラアゲをほおばる・・・独特のあのジューシーな味わいが、
口の中を満たしていく。
リンネにもおすそ分けすると、目をカッと見開き“ヘドバン”していた。
まるで、どこかの可愛いメタルシンガーのようだった・・・。
タマは、ようやく空腹が満たされ気分が落ち着いてきたので、会場の雰囲気や周りの様子を楽しむ余裕が湧いてきた。
『あぁ、ヨーコも連れてきたかったなぁ。いったい何のパーティーなんだろう?』
リンネはカラアゲに夢中であった。
タマの隣で小動物のようにほっぺをふくらませながら、アムアムと口を動かしていた。
『タイミング的に聞きづらい・・・。』
結局、リンネに残りすべてのカラアゲを食べられてしまう・・・。
タマは再び周囲を見渡す・・・すると、会場のある場所に目が留まる―――“デザートコーナー”
『ん?あれはもしかして・・・』
周りには見えないだろうが、タマには見える。
背中を向けているのでよくわからないが、“ひぃちゃん”らしき人影(精霊影?)が、
夢中でお菓子を食べている様子が見えた。
『なんだ、ひぃちゃん ここに来てたんだ!なんか知ってる顔を見ると落ち着くわぁ。』
ひぃちゃんのいつも通りの振る舞いに、ほんわか笑顔になるタマであった。
『あ、でも早めに声をかけないと。またどっか行っちゃいそうだね。』
そう考えるとタマは、
「リンネちゃん、わたしデザート取ってくるね!」
と言って “ひぃちゃん”と思われる背中へと近づいたのだが・・・
『ん?あれ?もう一人だれかいる???』
ひぃちゃんの姿で隠れていたが、目を凝らすともう一人・・・いや、もう1精霊いるようだ。
タマは『だれだろう?』と思いながらも、“デザートコーナー”へと近づいていく。
「どう?それおいしぃ?」
「あ!タマちゃんだ!」
「はい、ひぃたん、あ~ん♪」
「あ~ん、パクッ。」
「え!? だれ???」
「あら?どなたかチラん?」
「わたしはっ! ひぃちゃんと(けいや・・・)ヒソヒソ」
タマがしゃべると、一般の人達にも声が聞こえてしまう。
この世界では精霊の存在は貴重で珍しく、精霊の存在を知られてしまうと、悪用しようとする輩も多いので、精霊のことはできる限り隠しておかないといけない。
もし、この会場内の誰かが精霊の存在に気がついたら・・・
最悪の場合、研究のためと捕縛され連れ去られてしまうかも知れないのだ。
・・・そう思うとヒソヒソ声になるタマであった。
そんなタマの心配は気にもせず、ひぃちゃんは謎の精霊と話している。
「あの子はタマちゃんだよ!大切な友達なの、エヘヘ。」
「へぇ~、大切な友達なのね。」
『ひぃちゃん、なんでそんなに楽しそうなの???』
ちょっとムッとなるタマであったが、気を取り直して謎の精霊に話しかける。
「ところで、あなたは・・・?」
と、タマが謎の精霊に話しかけた瞬間、
「誰と話してるのタマちゃん?」
と背後からリンネの声がして、ドキッとするタマ。
『うわ!もしかしてみつかった??』
ブワッといやな汗が出る。
「えと、あと、えと・・・そう!練習してたの!セリフの!」とごまかすタマ。
「そう?ところでミュージュ?ちょっと食べ過ぎじゃぁないの?」
精霊ミュージュはリンネの言葉に“ビクッ!”となった。
「あなたが食べると、わたしの体にも影響あるんだけどな~?わかってるよね?」
「あ、あたち。ちょっと、野暮用があるの思い出したでちゅ、さいなら~!」
スタコラサッサと逃げていくミュージュ。
タマは、「え?エ?E?」と両目が“?”なっている。
「ヒソ・タマちゃん!・もしかして、精霊と契約してるのかな?ヒソヒソ」
耳元で、リンネが囁く・・・その声も歌のように聴こえて、とても心地ち良い。
「ヒソ・え?そ、そんなことないじょ?・ヒソ」
「ヒソ・プーッ、ふふふっ。今、かみかみだったよ?・ヒソ・だいじょうぶ、わたしもだから・ヒソ」
「・・・・・・・・えぇーーーーっ!!!」
そのまま天井へ飛び上がりそうなくらいの勢いで驚いているタマ。
「ちょと、タマちゃん!デザートがおいしいからって、そんなに驚かないで!!」
突然の大声を出すタマのフォローをするリンネ。
「あ・・・ごめん。」と顔を赤くするタマ。
「どうやら私たち、運命の出会いのようね?寮に戻ったら、みんなで仲良くお話ししたいなぁ・・・ 」
『あ!リンネちゃんは ひぃちゃんのことが見えてるんだねってことは・・・。』
やっと状況を理解したタマ。
『ってことは?さっきの変な娘は精霊なんだね。』
「さぁ、タマちゃん? その前に、もう少し食べていきましょう?」
「うん、そうしよう!ところで、リンネちゃん?これってなんのパーティーなの?」
「あれ?言ってなかった? マロンディーズの“アフターコンサートパーティー”だよ?
要は、打ち上げってやつなの。ただ今回は私の入学祝も一緒になってるんだけどね。」
「え?じゃあ、リンネちゃんは“主役”じゃないの?こんなところにいて大丈夫なの?」
「うん、大丈夫だよ。“あいさつ”はもう済んでるからね。」
「そう、それならいいんだけど。」
「じゃあ、今度は、あれ食べよう?」
と言って、リンネはタマの手を引いていく。
その様子を見た ひぃちゃんも「わたしもいく~!」と言ってついてくる。
『よし!ひぃちゃん、確保成功!』と内心タマは思った。
その後、数品食べている間に、バンドメンバーも紹介してもらい、ミュージュも戻って来て、2人と2精霊は会場を後にした。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
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