第二章 魔法学園編① 【 第十八話 学生寮 】
お待たせいたしました。
ライブコンサートが終わり、人の流れは大河のように会場の出口へと向かっている。
「うううう~ながされる~~~~!!」
目が(><) になりながら、タマとひぃちゃんはクルクルとその流れの中を回りながら、
出口へとたどり着いた・・・というか漂着した。
「・・・ふぅ、すごい人の数だったね? 」
「キュゥン(うん、すごかったね。疲れたよ・・・)」
子ギツネモードのひぃちゃんは、タマの肩にちょこんと座っている。
「おーい、タマ!」
向こうから手を振りながらメルサスとヨーコがやって来た。
「どうしたタマ? 元気がないようだが?」
タマの心を読むようなメルサスの発言に、一瞬ドキリとするタマであった。
もし嘘を吐いて笑顔を見せてもすぐに分かることだろう、なので今の気持ちを話すことにした。
「あのねパパ ・・・わたし、おもったよりも魔力が少ないってわかって・・・その・・・」
魔力測定で学年最下位だったこと、その時の気持ちを正直に話した。
「プッ、ハハハハハハ!」
「ちょっ! パパ? そんなに笑わなくてもいいじゃない!?」
「あ~すまん・・・そんなの当たり前だろ? だからここに入学させたんじゃないか?」
「え???」
「この学園の卒業生の多くが、入学した時よりも魔力量を増やしていると聞いている。
もし魔力量が伸びなくても、魔道具を使って魔力不足を補う“術”も教えてくれる
というから、魔力量の少ない生徒も世の中に充分通じる能力を身に着けて卒業できるんだ。
だから安心しなさい。」
「そう? なの??」
「タマはどっちになるかまだわからないぞ? 6歳だしな」
「うん、でも魔力量をふやしていきたい!!」
「ははは、正直だな。でもいいかい、タマ? 自分のダメなところはな、
ほんとはダメでも何でもないんだ。」
「えっ?????」
「ははは、今はまだわからないかもな!」
「もう! わかるように言ってよ~!」
「そうだな・・・今の時点でタマは“魔力量が少ない”とわかっただろ? 」
「うん・・・」
「早いうちに自分の弱いところがわかったんだから、
“じゃあ、どうしたらもっとできるんだろう?” と考えてみることが大切なんだよ?」
「・・・どうしたら?もっとできるんだろう?」
「そうだ。そのことを忘れずに努力をすれば、必ず結果がついてくる。
それに、いつかママが帰って来たとき、タマの魔法を見せてやったら、
きっと大喜びで褒めてくれるぞ?」
「おぉ・・・そうだねっ!ママはきっと喜んでくれる!必ずどこかで生きてるもん!
わたしが魔法を覚えて、ママを探しに行くんだ!ぜったい!そのためには魔力量をふやす!!!
そうだよね? よしわかった!イェ~イ!」
「よし!わかったな!さすがターニャマリー!ロージズメルの天使様だ!」
「エヘヘヘ~」
「あともう一つ、大事なことがあるぞ?」
「???」
「どんなことがあってもお天道様が見ていて、タマを守ってくれている!
それを忘れるな!」
“お天道様”と聞いた瞬間、タマの頭の中にまだ会ったこともない“女神様”の
イメージが浮かんだ。しかもわりとリアルな感覚であった。
『あれ?』
「そしてもう一つ、友達をたくさん作って学園生活を楽しめよ!」
「パパ! “もうふたつ”になってるよね?」
「はははっ。さすがターニャマリー、ツッコミ入れる姿も天使だな!」
「エヘヘヘ~って、よろこんでいいのかな?」
『キュン!』
ひぃちゃんが『いいんでしょ!』と言ってくれたような気がする。
「よし、もう大丈夫そうだな?」
「うん!パパ!ありがと!」
「じゃあ ヨーコ、タマのこと、しっかと頼んだぞ?」
「はい!ご主人様!お任せください!」
「ほんとは俺もここに残りたいんだが・・・どうしても外せない仕事があるからな。
合間を見て手紙を送るよ。」
「うん、わたしもおくるね!」
「あぁ、待ってるぞ!」
メルサスはタマとハグをして、迎えに来た馬車に乗ると、トゥアール王国への帰路についた。
――― 馬車の姿が見えなくなるまで、手を振っていたタマ。
「ふぅ・・・」と一息つくと、気を入れなおしてヨーコを見上げる。
「よしじゃあ、いこう!」
「はい!参りましょう、お嬢様!」
二人は“魔導馬車乗り場”へ向かうと、
“学生寮行き”に乗った。
――― 魔法学園の生徒は平民から貴族・王族まで、各国から身分を問わずに入学してくる。
校内において、その貴族や王族には“お世話係”もしくは“護衛”が付くことが許されている。
そして貴族・王族は、お世話係・護衛を同室にもできるが、別々の部屋にするという選択もできる。
その選択は通常、生徒の親が決めることが多い。タマはメルサスから、ヨーコとは別室になると
あらかじめ聞いていた。
「お嬢様・・・どうやら、こちらのようですね。」
「これ・・・大きい樹だね?」
二人の目の前には、巨大樹がそびえ立っていた・・・。
ここが本当に学生寮なのか不安になる。
しかし、よく見ると“窓”のようなものが開いているのが見えるので、
“寮”であることは間違いなさそうだ。
「よし、ヨーコ、行こう?」
「畏まりました。」
二人が巨大樹に近づいて行くと、根元に近い部分が静かな音を立て、横にスライドするように
開いてゆく。ここが寮の玄関らしい。
中に入るとそこは別世界だった・・・。
火野珠美時代の記憶がサッと甦る。“まるでホテルのようだ。”と。
しかし、ホテルのようなフロントはない。
タマは上の方を見た。
所々に窓があり、そこから幻想的な光が差し込んでいた。
かなり高い場所に天窓があり、そこからも光を取り込めるようになっていた。
どういう仕組みかはわからないが、時折、虹色の光が走っている。
すごく幻想的で”魔法学園にきた!”という雰囲気が感じられる場所だった。
「うわ~、ヨーコ!上を見て!」
ヨーコも上を見ると、タマと同様に「うわ~!☆」っと感動していた。
いつの間にかひぃちゃんは天井に向け、はしゃぎながら飛んでいった。
「ちょっと、あなたたち?いつまでそこに立っているの?」
背中から声をかけられ、我に返った二人は、恥ずかしそうに声のした方へ体を向けた。
そこには、妙齢の美しい女性が立っていた。
「「こんにちは!」」
慌ててあいさつをする二人。
「こんにちは。私は寮母のジェイミーです。」
ジェイミーの耳は長く、容姿も顔立ちは美しく整っている。
そこからエルフ族だろうと想像できた。
ただ一点、アイアイとした胸が自己主張していた。
ヨーコはうらやましそうに、その一点を見つめていた。
『大丈夫だヨーコ、君もきっと成長する・・・と思う。』
とタマは失礼なことを考えていた。
ジェイミーは二人に話しかけてきた。
「あなたたち、新入生ね。名前は?」
「ターニャマリー・フォン・ロージズメルです。」
「ターニャマリーお嬢様の護衛をしてます、ヨーコ・クロガネです。」
ジェイミーは名簿台帳を取り出し、確認をする。
「ええっと・・・、あなたたちは“ご当主”の希望で、別々の部屋ね。大丈夫かしら?」
「「はい!」」
「では、上級生に部屋を案内してもらうわね。ちょっと手の空いてる娘、2人来なさい!」
周りをよく見ると、十数人の女子生徒がせかせかと動いていた。
入寮の手伝いをしているらしい。
「「はーい」」という返事が聞こえると、駆け足で2人の女生徒がやってきた。
1人は眼鏡をかけていて、可愛さと人懐っこさのある印象で、
もう1人は、クールなお姉さん風だが不良っぽいイメージだった。
「こちら、ターニャマリーとヨーコね。じゃあ、部屋へ案内してあげて。」
「「イエス、マム!!」」
『なぜその返事?!』とタマは思ったが、突っ込むと長くなりそうなのでやめておいた。
タマとヨーコは寮母さんから“カード”を渡された。
カードに触れると“顔写真”が写りこんだ。まるで免許証みたいだった。
寮母ジェイミーの話しでは、このカードは身分証とおサイフ機能がついていて、
この巨大樹の寮だけでなく、学園内すべてで使えるカードだと言われた。
さらに盗難されてもすぐ見つかるようになっているし、別人が使おうとすると、
魔法の力で使えなくなるという、ハイテク魔法の塊だった。
タマがいこうとすると、ヨーコに「ちょっとお待ちください、お嬢様!」と呼び止められた。
「お嬢様?さびしいときはいつでもヨーコをお呼びください。あ、おなかがすくといけませんから、これ“お夜食”にどうぞ。」
と言って、タッパーを渡された。
タマがそっとフタを開けると、カラアゲが入っていた。
いつの間に準備したのか、まだ温かい。ヨーコは気が利くし、やさしい。
ただちょっとだけニンニクの主張が強い味付けのようだが・・・
しかしタマは、その味付けがとっても好きなのだ。
「ヨーコ、ありがとう!」
ヨーコと別れ、タマは上級生の“メガネっ子”と共に、寮内の施設の案内をされながら、
新しい自室へと案内された ―――
――― タマの新しい自室(ルームメイト待ち) ―――
さきほど案内してくれた上級生は“マーヤ”といった。中学生と言っていた。
この寮には、展望台に大露天風呂がある。食堂もある。部屋で自炊もできる。
共同のトイレもある。各部屋にも風呂とトイレがある。
設備は十分にそろっていた。
タマは、今日一日で体験したことを思い返していた。
ひぃちゃんは飛んでいったきり、まだもどって来ない・・・
一人で静かな部屋にいると、色々と不安が沸き起こってきた。
『自分はこのまま学園でやっていけるのだろうか?』
・・・考えても答えはでない。考えても仕方のないことなのだ。
明日は明日の風が吹く・・・タマは楽しい風を吹かせたいと思う。
それには自分がいつも笑顔でいなければ・・・と思うのだが、気分がのらない。
ロージズメルのお屋敷にいたころは、毎日が笑顔で楽しく過ごせていた。
みんながやさしかったから、笑顔でいれたのだろう・・・と気がついた。
学園にはヨーコがいるが、これからは”いつも一緒”というわけにはいかない。
「はぁ・・・わたし、どうなるんだろう?」
そんな答えのでない考え事をしていると、居眠りをしていたようで、
すでに”夜の9時”を過ぎていた・・・
部屋は相変わらず”しーん”としている。
寮の部屋は防音もすぐれているようだ・・・
・・・それにしても、ルームメイトはまだ来ていない。
もしかして、入学しなかったのだろうか・・・。
――― グ~~ッとお腹がなった。
『あ、そういえばヨーコがカラアゲくれたっけ!』
思い出して、タマはタッパーを開けた。
さすがにもう冷めていたが、空腹には勝てない。
たしか、食堂にいけば温める魔道具があるときいたけど・・・
1人で行って迷子になったら、ヨーコに迷惑がかかるので、思いとどまった。
『しかたない、冷めてるけど、がまんして食べよう!』
と思ったとき、部屋のドアがノックされた。
「はーい!どうぞ!」
タマはできるだけ明るい声で答えた。
ドアが開き、ルームメイトが入ってきた!
その顔を見てタマは、びっくりする!
「え?あ?え?あ?うそっ?ほんもの????」
「ふふふっ、初めまして、あなたが私のルームメイト?よろしくね!」
タマの目の前に立っていたのは、
夕方にステージで見た学園の歌姫“リンネ・マロンド”だった。
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