第二章 魔法学園編① 【 第十七話 入学式 】
お待たせしました。
――― 翌朝
魔法学園入学式の当日がやってきた。
昨夜はタマ・メルサス・ヨーコの三人と精霊の“ひぃちゃん”(メルサスとヨーコに姿は見えない)も一緒に、ささやかではあるが《タマの誕生祝い兼入学祝い》の食事会をし、ロージズメル家水入らずの楽しい時間を過ごしたのだった。
誕生日のプレゼントとして、父メルサスからは『花形の魔石付き髪飾り』をもらった。
いざという時にタマの身を守ってくれるという。
一方、ヨーコは何処で見つけてきたのか『タッパーセットミニ(5個組)』をプレゼントしてくれた。
これで学食のあまりものを持ち帰ることができる!
そう、他国においてもロージズメル家は平常運転であった。
朝の支度も終わり、早速、タマはプレゼントの髪飾りを付けてみた。
「おおっ!タマ、すごく可愛いな~。いや、元がいいから女神様のように可愛いぞ。」
「パパ、ありがとう!エヘヘ。」
多少褒めすぎなメルサスである。気持ちは分かるが・・・。
魔法学園の制服を着たタマは、ツインテールではあったが、普段の雰囲気より少し大人びて見える感じがする。
制服は、紺色のブレザーに白のシャツ、ワインレッドのネクタイはややふくらんだ蝶々のような形に結んであり、スカートはオレンジのミニ、チェック柄でフリルがついている。
そしてチョコレート色のニーソに黒いエナメルの可愛らしい靴というスタイルである。
ひぃちゃんはすでに子ギツネに変化して、ベッドの上で日向ぼっこをしていた。
今日のようなポカポカな朝日はすごく気持ち良いだろう。
もちろん、メルサスとヨーコには見えていない。
『ひぃちゃんの子ギツネすがた、カワイイな~。』とタマはニヘ~っとする。
旅の道中で、タマはひぃちゃんと今後のことについて話をしていた。
実は二人は“契約”を結んでいるわけではない。
ひぃちゃんがタマのことを一方的に気に入って、そして“友達”になったのだ。
だから、魔力量の少ないタマが“魔力切れ”で倒れることはない。
二人が話しあった内容は
“魔法学園内に、もしかしたら ひぃちゃんの姿が見える先生又は学生がいるかも知れない”
ということだった。
万が一、ひぃちゃんが“精霊”だとわかってしまうと、色々とややこしいことになりそうなのである。
最悪は“魔力研究”という名目で、魔法技術者に捕まりひどいことをされるかも知れない。
だから精霊としての魔力の波動をきわめて小さくするために、
人間の姿(これが精霊としての本来の姿ではあるが)ではなく小動物の姿になることにより、
“存在するだけで自然放出されている余分な魔力”を抑えることができるらしい。
そのことをタマが理解しているかどうかは置いておく。
「これでよしっと。旦那様、お嬢様、参りましょう!」
「うむ、行くとするか」
ヨーコの先導で三人は魔法学園へと向かう。
ひぃちゃんは 早速、タマの肩へと飛び乗った。チョコンとタマの肩に乗っている。
その姿を見てタマは『ふしゅ~!ひぃちゃん!すっごくかわいい~っ!!!』と
ニヤけた顔をするのだが、ひぃちゃんの姿を見ることができないメルサスとヨーコには、
学園へ入学することが嬉しくてたまらないのだろうと思われていた。
――― 魔法学園 ―――
学園の入学式は滞りなく終わった。
今年の新入生は300名であった。様々な種族がいた。
人種、エルフ、ドアーフ、獣人、ハーフリングなど。
保護者、付添人は“これからの学園生活がどういう風に進んでいくのか”という学園側の説明を聞かされるために、別の場所へと移動して行ったが、新入生はまだ全員が会場の中に残っている。
これから、クラス分けのために『魔力測定』をするからだ。
タマは自分の魔力量を知らないのでワクワクしていたが、現実は厳しかった・・・。
「ターニャマリーさんは・・・え?あれ?20ポイントですね・・・はい次の方どうぞ!」
それが多いのか少ないのかタマはわからなかったのだが、気まずいオーラを出していた測定者の反応と、周りからヒソヒソという声が聞こえてきたので『あ~やっぱり魔力量少ないんだなぁ』とすぐ理解できた。
“あれでよく魔法学園にきたわね” “信じられない” “学園最下位じゃねえのか?”
などと、心ない声が聞こえていた。
『ガーーーン!え?わたし、いちばん 下なの???』
・・・魔力量が少ないという自覚はしていた。
精霊装化も5分と持たないから薄々はわかってはいたが、現実的な数値として見せられてしまうと、
いくら楽天的な性格のタマでも、さすがに心はキズついた。
『ちょっと、気分をかえようっと・・・』
そう思うとタマは、トボトボと足どり重く会場の外へと出ていった。
――― 人気の少ない校舎の裏
「はぁ、パパにあわせる顔がないよ~」
しゃがみこんだタマは、ため息混じりの言葉が漏れていた。
まさかこれほどまでとは思っていなかった。
途中の草むらで引っこ抜いた“猫じゃらし”で、ひぃちゃんをじゃらしながら、
タマは落ち込んでいた。
ひぃちゃんは右へ左へと揺れる“猫じゃらし”をキュッキュッとうれしそうに鳴きながら、
夢中で追いかけていた。
『なんで私が入学できたのか?まったくわからないよぅ』
タマは心の中でつぶやいていた。
猫じゃらしの動きがふいに止まると、ひぃちゃんと目があった・・・。
『タマちゃん?ダイジョウブ?気にすることないよ?』
突然、タマの頭の中に言葉が入って来て、タマは少し驚いた。
『え?あれ?ひぃちゃんってこんなこともできるの?』
『うん、できるよ?』
『うわぁ・・・精霊さんってやっぱすごいね。』
なんだか、余計に気分が落ちてしまったタマである。
『ダイジョウブ。感じるよ?タマちゃんの中にすごい魔力をかんじるよ?
だからボクは友達になりたかったんだよ?でも今は何かがじゃましてるみたいなんだよ?』
と言いながら、ひぃちゃんはタマの周りをテテテテ・・・と走り回る。
タマはそのかわいらしい姿に少しだけ笑顔を取り戻した。
『そうなんだね?ひぃちゃん、なぐさめてくれて・・・ありがとね。』
タマには ひぃちゃんの感じる“魔力”の存在はまだわからなかった。
だから『なぐさめてくれたんだ』 と理解した・・・
けれど、自分の可能性を信じてくれたことは嬉しかったのは確かだし、目の前の友達の励ましに何とか応えようとも思っていた。
「よ~しっ!そうだよ!はじめから何でもできるなんて、たのしくないよね!」
タマはそう言って立ち上がると、少しだけ足どり軽く会場へと戻って行った。
――― 会場に戻ると、ちょうど全員の測定が終わったところだった。
会場の前方には大きな魔法掲示板が置かれ、そこに“測定結果の数値”と“クラス分け”が書かれていた。
タマの結果は、やはり学年で最下位だった。クラス分けはFクラス、一番下のクラスであった。
タマは自分の魔力量のなさが悔しくて、情けなくて、再びジワっと泣けてきたが、すぐに思いとどまった。
『よし!今に見てろよ!絶対この学園でなり上がって、天下をつかんでやるぞ!』
という“まぁ間違ってはいないが、どうなんだそれ?”という思いが湧いてきていた。
同じクラスメンバーの名前を見ていると、場内にアナウンスが流れた。
“え~新入生の皆さん、これからレクリエーションが始まります。会場にお集まりください”
『何だろう?』
他の学年の生徒もぞろぞろと会場に入って来て、だんだんと場内は熱気に溢れてきた!
最前列にはハッピを着ている謎の集団が陣取っていて、シュプレヒコールを上げている。
『なんなんだろう?』
そう思っていると、先程まで魔力掲示板のあった場所にステージが出現し、緞帳の裏から音楽が聞こえてきた!
『え?これもしかして、ライブコンサート???』
もちろんタマは初めての経験である。
『いったい誰が歌うんだろう?』
ロック調の軽快なアップテンポの曲が聞こえてきた!
ヴォーカル、ギター、ベース、ドラムの4人組のバンドだった。
『あれ?この曲、聞いたことあるかも。』
屋敷の蓄音機で聞いたことがある・・・
不思議と元気と勇気が湧いてきて、精神的にも癒される楽曲が多い。
そのバンド名は確か『マロンディーズ』だった。
すい星のごとく4歳でヴォーカルデビューした謎多き天才歌姫『リンネ・マロンド』。
その彼女を中心に組まれた凄腕ミュージシャンのバンドが『マロンディーズ』だった。
そしてその楽曲のほとんどが『リンネ・マロンド』の手によるものだと聞いたことがある。
まさに“天才”である。
――― 会場には天才歌姫の楽曲が響く ―――
曲名:It’s you’re a glorious story.
作詞:リンネ・マロンド
作曲:マロンディーズ
(Aメロ)
例えば悲しみに心痛めていても
例えば自分の無力に気付いていても
例えばこの瞬間 嫌気が差しても
例えば神様に見放されてると感じていても
(Bメロ)
だって自分の気持ちに ほら嘘はつけない
永遠の闇に吸い込まれたって 自分の心は光で満たして
理想の自分をつかむんだ!
だから今!
(サビ)
走れ!走れ!走れ! 例えどんな谷底でも
走れ!走れ!走れ! 例えどんな暗闇でも
It’s you’re a glorious stories.
It’s a beautifully stories.
Starting Now!
Starting Now!
(Dメロ)
君の理想の未来から 輝く 光が溢れてるんだ!
君の未来を応援するから
自分 信じて さぁ!走れ!走れ!走れ!
It’s you’re a glorious story.
Started Now!
――― 楽曲、終わり ―――
ワァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!
ヒューヒュー!
会場内はものすごい拍手で埋め尽くされていた!
最前列のハッピ姿の男たちからは“L・O・V・E・ラブリー・リンネ!” という、ちょっと引いてしまう謎の声援が飛び交っていた。
そして、その曲の歌詞に自分を重ねてしまったタマは、ウルウルと感動の涙を流していた。
今の落ち込んでいる自分を励ましてくれる歌詞だったように思えて、その歌姫からの応援ソングを
素直に心に受け止めていた。
『リンネ・マロンドちゃんと、お友達になりたいなぁ・・・』
しかし相手は芸能人。簡単には会えるわけもなく、ましてや“お友達になる”というのは途方もなく可能性は低い。
そんな大それたことを考えている ターニャマリー・フォン・ロージズメル、6歳、魔力量20ポイント・・・
実現できるかどうかわからないが、これから過ごす学園生活で、もう一つ、楽しい目標ができたのであった。
お読みいただきありがとうございました。
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