第一章 転生~幼少期編 【第十五話 招待状】
お待たせしました!
もっと面白くできたはずなので、後日改稿します・・・あ、全部か!
2020/6/30改稿しました。
国王毒殺未遂事件から3ヶ月後・・・。
マディニス伯爵から、
『子供達の交流を兼ねたパーティーを企画したので、是非とも参加して欲しい。』
との招待状が届く。
時間帯は昼間~夕方で、昼食会~懇親会(お茶会)という流れだ。
「なぜ?まったく付き合いのないマディニス伯爵から、お誘いが来るのか?」
メルサスの頭の中は疑問だらけだ・・・・「なにか狙いがあるに違いない。」
とはいうものの、見当がつかない。
「もしかしたら・・・馬車を襲った犯人はマディニスか?」と仮説を立ててみる。
そうしてみると、今回の招待状の意図がわかってくる。
しかし、あくまで仮説なので何も起こらなければ、それが一番良いのだが。
一応、メルサスは世間一般向けには、
「タマは《医者から記憶障害だ》という診断を受けた。」
という噂を、タマを守るために流していた。
しかし念のため、ロージズメル家内でも打ち合わせが必要だと考え、タマ、ヨーコ、執事長ニコラスを執務室へ呼んだ。
タマには『記憶障害の噂』のことを伝える。誰が馬車を襲った犯人なのかわからないので、「そういうことにしておいた。」と告げる。タマは「わかった~。」と無邪気に返事をしていた。
――― パーティー当日 ―――
予定通り、タマ、ヨーコ(タマの護衛)、メルサス、ニコラス(メルサスの護衛)というメンバーで参加。(皆には見えてないけど、火精霊ひぃちゃんも付いてきている。)
マディニス邸に到着すると、他の貴族も招待されていたようだ・・・全部で十家くらいだろうか。
メルサスには関係ありそうだが、タマは自分には関係ないと思っていたので、さっさとお菓子のテーブルへ向かおうとしたが、「待ちなさい!」とメルサスに首根っこをつかまれた。
マディニス伯爵本人は急用で王宮に行っているというので、まずマディニス夫人と、その家族に挨拶をする。
息子2人(兄16歳、弟7歳)と娘1人(10歳)という構成だった。マディニス夫人は見かけがきつめの美人で、その娘も見かけがきつめの美人であった。息子たちは見かけがきつめのイケメンという感じで、血は争えず親子全員そっくりだった。
パーティーは屋外での立食形式だった。その方が、色々と交流が深まり、自由にできるということらしい。
昼食もビュッフェ形式で、好きなものを取るという形であったので作法いらずで楽チンだった。
タマは家族間の交流について、最初から興味が無かったので、昼食をいただいた後は、お菓子を求め会場を放浪し始めた。ひぃちゃんも一緒だ。特に、ひぃちゃんはお菓子センサーだから頼りになるのだ!
そして、ヨーコもタッパーコレクションに美味しい料理を詰め込む為に行ってしまった・・・護衛のことはもう頭に無いらしい。が、タマはヨーコは危機の時には必ず現れると信頼していた。なので問題ない。
タマとひぃちゃんは、お目当てのお菓子テーブルを見つけ、『アムアム』とリスのように頬をふくらませて、周りから距離を置かれていた。
すると、横から1人の女の子に声をかけられた。
「ちょっと、あなた? ひとりでたべすぎよ?」
いくらひぃちゃんの姿が見えてないとはいえ、ひぃちゃんはタマの倍以上食べている。濡れ衣は着せないでほしいと思いつつ、女の子の方をリス面で見やった。
タマと同い年くらいに見えるその女の子は、黒基調でミニスカのメイド服を着ていた。ハート形のエプロンに両肩、スカート部分にフリルがついていて可愛らしい。
「あ!メイドさん!チョコケーキとイチゴクリームケーキをダブルにして、た~くさんもってきてください!」とタマは注文を入れた。
「わたしは、王女よ!メイドじゃないわ!」
「え?どこからどうみてもメイドじゃない?」
「メイド好きな王女よ!王女とばれたら嫌だから、好きな服を着ているのよ。」
「うそだ~!」
タマは笑顔で正直に答えた。
そして内心は『だいじょうぶかな?この子?』と思っていた。自分のことは棚上げして。
それでも、その自称王女様は、タマを一方的に気に入ったようで、
「ちょっと、あなた?探検に付き合いなさい!」といって、強引にタマの手を引いて連れて行こうとする。
この《自称王女》の女の子。この会場にいるということは、どこかの貴族の子女であることは間違いないだろう。ということは、ここで断ったら後でメルサスに迷惑がかかるかも知れないとタマは考え、お菓子をあきらめ探検についていくことにした。そして、ひぃちゃんもついていく、両手にケーキを持って・・・。
マディニス邸は、広かった・・・植木は色んな魔物の形状に葉をカットしていて、趣味はお世辞にも良くはない。
自称王女様は「うわ、サイテ~!趣味もへったくれもありゃしないわね。」と大人が使うような言葉で感想を漏らしていた。いわゆる〈おませさん〉である。
もう少し歩くと噴水の広場に出た。周りには花壇もあり、色取り取りの美しい花がたくさん植えてあった。
自称王女様は「ここは・・・きゅうだいてんね。ギリギリだけど。ドクダミはここで植えてちゃだめでしょ!」とボケ相手がいないのに見えない相手にツッコミを入れていた。
またしばらく歩くと、競技場についた。地球でいうところの『ポロ』を行う場所である。その広さに驚くタマ。
しかし自称王女様は「うちには4面あるわ!しょせん伯爵家ね!」と相変わらず強気な感想を言っていた。悪気はなく素直なだけなのだろうが。
もしかしたら本当に王女様なのかも・・・とタマは思い始めていた。
会場からはかなり離れた場所に来たようだが・・・なんだか物々しい・・・というか兵士の訓練をしている声が聞こえてきた。
見つからないように、背の高い植え込みに身を潜めて、覗いて見ると・・・
その兵士たちの服装には特徴があって、全員、黒い服装をしていた。
『あれは!? もしかして馬車を襲った人達かな?・・・ということは?』
とタマは気づいた。
――― ヒュッン! ―――
「きゃっ!イタっ!」
突然、矢が飛んできて、自称王女の左腕をカスッた!
「だれだ!」と黒装束が大声で誰何してきた。
『おっと、これは、さすがにやばい!』とタマは思った。
過去の経験により、相手が本物の黒装束であれば容赦なく攻撃してくるだろう。
タマの手が動く・・・キーボード操作するように・・・カタカタカタ・・・。
『ここは、ひぃちゃんの力を借りて、逃げるしかないね。見つからないように。』
と結論をだすと、「ひぃちゃん、お願い!力をかして!」と精霊装化する。
そして、自称王女様を両手で抱え、低空飛行ですぐにその場を離れた。
――― 噴水のある広場まで戻ってきたが、自称王女様の様子が何かおかしい。
先ほどから「ゴホゴホ」と、間をおかずにせき込んでいるのだ・・・かなり苦しそうだ。
一刻も早く何とかしなければ・・・しかし、この症状はなんだろう?
前世である火野珠美の記憶によると『小児喘息の発作だろう』という判断だ。
おそらく矢が当たったのが原因で、それまで薬で抑えていた発作が出てきたのだろう。
「やばい、どうすれば良いのじゃ?」
とりあえず、癒しの炎を使ってみた・・・矢傷は回復したが、咳が治らない。
「うーん、困ったのじゃ・・・。」
無い知恵を絞りだそうと、考えるタマ・・・・火野珠美の記憶もたどる・・・『ググれば良い!』というヒントが出てきたが、タマにはそれが何を意味するのか分からなかったし、最善の解決策ではないように思えた。そして直感で!
「あ!そういえば!」
タマは運良く思い出した!先日、家庭教師が言っていた!『咳にはポーションが効く』らしいと!
であれば・・・マディニス邸内に薬庫があれば、ポーションの一本や二本は普通に置いてあるだろう。
ダッシュで移動する!
マディニス邸本館の近くについたが・・・・さすがに見張りが厳重だった。
当然である。昼間開催とはいえ、今日は貴族とその子女達が集まっている。
そのパーティーの真っ最中に賊などに襲われては目も当てられない。
「むむ、むむむむむなのじゃ~!」
再度、タマの手が動く・・・カタカタカタ・・・。
正面突破は無理そうだ。警備員は5人いる。ここは裏口に回って、勝手口から入るか、どこか開いている窓があればそこから侵入するということにした。
裏に回ると、警備員は2人いた。こちらは正面に比べあまり警戒はしていない様子だった。使用人たちがすぐ出入りできるように戸は解放されているようだ。
『よし、あそこからなら入れそうじゃな。』
すると、警備員の二人に動きがあった。察知されたのか???
どこからか「お昼ですよ~!」という声が聞こえてきている。
「お、やっとこさ昼飯だな。じゃあ、先にお前いって来いよ。」と老齢の警備員が若い方に声をかける。
「ありがとうございます!ではお先に!」と若い方は屋敷の中へと入っていった。
『よし、チャンスじゃ!』
幸い自称王女様の咳き込みは、今は落ち着いている。息苦しそうに「ハァハァ」はしているが・・・今しかない。
タマは近くに落ちていた木切れを拾い、明後日の方向へポーンと投げた。
ガサガサガサと音を立て落ちる。
老齢の警備員は「なんだぁ?」と言いながら、音のした方へ歩いて行った。
その隙にタマ達はサッと邸内へ侵入した。
『ふぅ、もう少し魔力は持ちそうじゃな。それまでにポーションを見つけないと!』
ひぃちゃんセンサーを展開させる。ピコピコ・・・ピコーン!(音はあくまでイメージです。)
・・・どうやら、一階奥の角部屋にポーションはあるようだ。急いで向かう。
最初の難関。メイド達の控室。話し声が聞こえる。
「でね~、彼ったら~服の上から触ってくるの~。ウフフ。」
「ええ~!それは焦りすぎでしょう?」
「うん、でもそれがいいんだ~♡ウフフ。」
・・・いったいなんの会話だろう?と思いながら、タマ達はコソコソと通過する。
少し行くと、今度は良い匂いがしてきた。食堂だった。さっきの警備員の男がこちらに背を向けて食事をしている。人はあと3人が食事中だった。
・・・そういえばケーキしか食べてなかったのじゃ~。とタマは思いつつ、グ~っと自称王女様のおなかも鳴る。タマは、あせって周りを見たが気づかれてはいない様子だ。早く終わらせて、食べ物にありつきたい!しかし、注意しながらコソコソと移動した。精霊装化を解いてもいいくらいだと思ったが、万が一を考えて、そのまま行動した。
ただ、そろそろ魔力が切れそうな気がする。急ごう!
――― 着いた、薬庫だ。
でも鍵がかかっていて、中に入れない。美味しいそうな香りの誘惑に耐え、ここまで来たのに。
・・・どうしよう。
すると、向こうからバタバタと急いでいる感じの足音が近づいてくる!
『やばい!見つかりそうなのじゃ・・・お!そうじゃ!』
タマ達は飛び上がり天井に張り付いた。
伯爵邸の天井は高い。そしてここの通路は狭い。死角となり見つからないはずだ。
タマ達が通ったのとは別の通路から、マディニス家のメイドが走って来た。
そのメイドは慌てた様子で薬庫の鍵を開け、室内へと入りバタンバタンと探し物をし、薬瓶を持って、薬庫の扉を開けっ放しで走り去って行った。
『誰か怪我でもしたのじゃろうか?』
タマ達が天井から飛び降りると、魔力の限界を感じたので、精霊装化を解いた。
ここまで来れば問題は無い。タマは意識が少しフラッとしながらも、薬庫の中へと入っていった。
薬庫に入ると、ひぃちゃんが指差していた・・・あの瓶は???ポーションだ!
メルサス家でも何度か見たことがあったので、(ひぃちゃんのおかげで)すぐにわかった!
ポーションの瓶を2本取ると、1本はタマが飲み、もう1本は自称王女様にグビグビと飲ませた。すると自称王女様の表情が落ち着いたようにスゥーっと、穏やかな呼吸になった。これで一安心だ!
「はぁ、よかった~!」
タマは改めて周りの様子を確認する・・・シーンとしていて、少し離れたパーティー会場の方からの声が聞こえるのみだ。マディニス家の使用人たちも誰も気付いていない様子だ。
念のため、再度、精霊装化して、自称王女様をお姫様抱っこして・・・ややこしや・・・低空飛行で外に出る!
外に出てから、パーティー会場近くの物陰で精霊装化を解除。
自称王女様は寝てしまっているので、そのまま芝生に寝かせておいた・・・誰かが見つけるだろう。
――― タマ達は何事も無かったように会場に戻る。
ヨーコがいたので、声をかける!
「ヨーコ!どうだった?おいしいものあった?」
これはもちろんタッパーの活躍ぶりを聞いたのだ。
「あ、お嬢様。フフフ、私を誰だと思っているのですか?今日は大漁ですよ!」
あ、そうなんだーと会話をしながら、ふと見ると、遠くでマディニス家の娘がメイド達に囲まれている。
「ねぇ、ヨーコ?あれ?なにかあったの?」
「あぁ、あれはですねー、ちょっと食べ過ぎたらしくて、食あたりだそうですよ?」
『なるほど!あれにすくわれたのか~。ありがとう!』とタマは見た目きつい娘に感謝した。
『ひとは みかけによらないと・・・ちょっと違うかな?』
と失礼なことを考えていた。
そろそろ日が傾き始めており、お茶会も終盤になった頃、マディニス伯爵が王宮から戻って来た。
各貴族の子女は主催者へ挨拶をすることになる。
『これからが、勝負ね。』タマは気合を入れた。
マディニスはなぜか、武装した騎士を連れている。白い服装だったが、顔つきは悪そうな面構えだった。
貴族とその子女達が、マディニス伯爵と次々に挨拶を交わしていく。
タマはメルサスの姿を探すが、見当たらなかった。
仕方がないので、ヨーコと列に並んだ。
途中でひぃちゃんが教えてくれた。
『タマちゃん、間違いないよ。コイツが国王に毒を盛ろうとした真犯人だよ。タマが自分の顔を覚えているか確認しようとしているんだね。気を付けて。』
『うん、わかったよ。ひぃちゃん、ありがと。』と頭の中で答えた。
タマと火精霊ひぃちゃんは精霊装化を何度かしたので、波長がチューニングされ、お互い声に出さなくても<念話>のようなことができるようになっていた。
タマはメルサスとの打ち合わせ通り<記憶障害>を演じるため、わざと頓珍漢な返事をするように考えていた。
やがて、タマの順番がやってきた。
カーテシーで挨拶をすると、伯爵が話しかけてきた。
「初めまして、ターニャマリーちゃん・・・はて?どこかでお会いしたことはないかな?」
「はじめまして、マディニス伯爵さま。ご機嫌うるわしゅう・・・はい、お会いしたことはありますわ。たしか建国パーティーの時、ケーキをアーンしてくださいましたわ!あのケーキはすごくおいしくて、良かったですわ!」
マディニスは「それはそれは、おぼえていただいてたとは、ありがたい。」
と場を取り繕う発言をしたが、内心では『記憶障害の噂はどうやら本当らしいな。』と安心した。
「では、ターニャマリー様、引き続き交流会をお楽しみください。」
タマは再びカーテシーでお辞儀をすると、次のファミリーに順番を譲った。
今日一番の難関はクリアーできて、ほっとする。
参加者全員の挨拶が終わると、間もなくパーティーは無事に終わった。
帰宅途中の馬車内で、タマはメルサスに「どこいってたの?パパ?」と訊くと、
メルサスは「ちょっと・・・トイレに行っていたのさ。」と言って、笑っていた。
もちろん、後でマディニス伯爵に<ご挨拶>をしていた・・・お互い引きつった笑顔で。どうやらお互いのことは嫌いらしい。
ほんと貴族はつらいねぇ。と思わずにはいられないタマであった。
ちなみに後日談。
マディニス邸の薬庫からポーションが2本なくなっている件は、マディニス家の弟くん7歳の<いたずら>ということで処理されたらしい・・・彼は普段からポーションをジュース代わりに飲んでいるらしい・・・伯爵家の坊ちゃんは、なんて贅沢なんだ!!!
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。感謝です!
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