第一章 転生~幼少期編 【第十二話 森 】
日本人名っぽいエルフ達の登場です。
2020/6/30改稿しました。
――― 物語は昨夜、タマ達が黒装束を追っ払い、立ち去った頃に戻る。―――
魔法の光を松明代わりに、三人のエルフが馬に乗り、森の中を移動している。
馬の背には獲物として狩った数匹の一角ウサギが吊るされ、馬の足並みに合わせてゆらゆらと揺れていた。
今宵は十三夜・・・樹木の隙間から月明りが差し込む幻想的な情景とは裏腹に、夜の森というのは一様に危険な場所である。
しかし、三人が森の中にいるのには理由があるのだ。
この世界の森には魔素が漂っている。満月が近づくに連れ、月明りとその魔素が化学反応する現象が発生し、魔素を帯びた微生物や小さな昆虫などに変化する。それらをエサにもう少し大きな生物、例えば、カエルや小鳥、森ネズミやヤマネコなどが集まってくる。
さらに、それら小動物を獲物にする《はぐれゴブリン》や、そのゴブリンなどを獲物にしているより大きな魔物達が森に住み着く・・・それらが大勢になることを防ぐため、毎月、満月の前後数日間は、持ち回りで森の見回りをし、増えすぎた小動物や小さい魔物を狩っているのだ。
この森の最深部中央には大きなエルフの村があり、彼らは人間と接触することはあまりなく、一部の商人や、王国の関係者くらいとしか接触がない。そうしてエルフ一族としての平和と安全を維持し、日々生活をしているのだ。
「よーし、イルマ、タケル、今夜はこの辺で引き上げるとするか・・・」
声をかけた見かけ8歳くらいの少女はカイリ、エルフの村の族長の娘である。
そして馬列の後ろに続く、従者が二人。 少女イルマ(見かけ14歳)と 少年タケル(見かけ16歳)である。
もちろんエルフは長寿の種族であるし、外見から実年齢はわからない。
そして言わずもがな美男美女である。羨ましい。
三人は森で狩りをしていた帰りである。今宵はたまたま狩るべき小動物、小魔物は少なく済んでいた。
理由は、森の中にやや強い風が吹いていて、魔素が散らされていたからであろう。
その風が、辺りの樹木を鳴らしたとき・・・
「・・・・イルマ、タケル、どこからか人間の臭いがしないか?」
と気がついたカイリは、イルマとタケルに聞く。
「・・・そうですね、お嬢様・・・うっすらと匂いますね。」
「・・・・うん、川の方のようだな。」
タケルは無口な男なので、コクリとうなずくだけであったが、少し警戒しながら、カイリとイルマに付いてい行く。一部の悪い人間はエルフの子を狩るときがあるからだ。
この辺りは人間の居住域からはやや離れているはずである。そして、険しい山脈がある為、人間は滅多に近づかない地域であるはずだが・・・ともかく三人は川辺へと近づいていった。
「ん⁈」
川辺に人間の女が漂着していた。
ドレスを着ているのでパーティーの帰りに何らかの事故に巻き込まれたのであろう、と予想する。
タケルとイルマは馬から降りて、タケルは剣を抜いて警戒しながら女に近づく。
イルマもタケルのすぐ後ろを歩き、ゆっくりと近づいていった。
人間の女は動かないので、危険は無さそうだ。
タケルが剣を鞘に納めたので、イルマは、女性に触れて状態を確認する。
「お嬢様、息はあります。気を失っているだけのようですね。少し怪我をしているようですが、いかがいたしますか?」
「タケル、どうだ?」
「はい、お嬢様。この者から邪気は感じられませんが・・・特殊なオーラを感じます・・・精霊かな?」
「ふむ、珍しいのぅ。トゥアールの王都の方から、流されてきたのか・・・。」
カイリも馬から降りて、女性の様子を窺う。
「精霊に関わる者ならば助けるべきだな?・・・イルマ、ポーションを!」
「畏まりました。」
イルマは頷くと手持ちのポーションを女に飲ませ、ゴクンと喉を通るのを確認した。
女の顔色は少し良くなり、傷も癒えて安心したような寝息のようなスーッという息遣いに変わった。
女の口もとに垂れているポーションの残りを、カイリはハンカチーフで拭う、ついでに顔の汚れも優しく拭いてあげた。
この世界のエルフは精霊信仰であり、あらゆるものに精霊が宿るという昔の日本人と似たような感覚を持っている。
「ドレスを着ているから、どこぞの貴族であろうが・・・どこのものかのぅ?」
周りを見渡すが、人間の気配はこの女以外には感じられない。女の身に着けているものからはどこの貴族かはわからなかった。
「よし、ひとまず村へ連れて帰り様子を見る。イルマ、村へ先触れを頼む。」
「はい、お嬢様! ピューイッ!」
イルマが指笛を鳴らすと、一羽のフクロウが飛んできた。
そのフクロウはイルマの肩に乗る・・・と見せかけて、ホバリングしながらカイリの頭の上に降り立った。
「おっととっ・・・イルマ? カツアキをちゃんとしつけておくのだぞ?」
「クスッ。はい、お嬢様。ですが、とても好かれておいでですね?」
イルマはその間に手紙を一筆書いて、カツアキの足に括り付けると、カツアキはイルマの腕に飛び移った。
「うちは、ただの宿り木くらいにしか思われてないと思うぞ?」
と言いながら、カツアキにエサを与えるカイリ。
カツアキはアムアムとエサを食べると、嬉しそうに喉を鳴らしていた。
「フフフッ、そうでしょうか?じゃあ、カツアキ、頼んだわよ?それっ!」
イルマがカツアキを撫で、腕をバッと振るって空へと飛ばす。
カツアキは『ホッホー(心得た!)』と返事をしながら飛び去っていった。
「タケル、この女をおぶってくれ。」
「はい、お嬢様。」
タケルは女性をおんぶして、馬を引いて歩き出す。
カイリとイルマは騎乗し、周りを警戒しながら森の中へと戻り、エルフの村への帰路についた。
――― ミネラ捜索開始から約1週間後、メルサスの屋敷 ―――
執務室にメルサスと執事長 ニコラスがいる。
「旦那様、これをご覧ください。」
と、ニコラスはテーブルの上に一枚のハンカチーフを置き、メルサスに見せる。
汚れてはいるが色は明るい緑色の生地で、端の方には可愛い少女の顔のアップリケが縫い付けてあった。その耳が長いのでエルフのものだろうと容易に想像できた。
「これは?」
「捜索隊が川下の方で見つけたと報告がございました。」
「そうか。・・・この顔はエルフだと思うか?」
「はい、そう思います。」
「だとすると・・・ミネラはエルフの村にいるのかも知れんな?」
「はい、ですがあくまでも可能性でございます。」
「わかっておる。しかし、確認はせねばなるまい・・・私はエルフの人脈は無いからなぁ・・・うーん・・・どうするか。」
「旦那様、お父上殿を頼りにされてはいかがでしょうか?
エルフとの直接のつながりは、さすがにお父上殿にも無いかもしれませんが、ミネラ様はメイド王国のご出身。であれば、王国を通じて取り計らっていただけるのではありませんか?」
「・・・はぁ~。それは怒られる・・・絶対、怒られる。嫁をもっと大事にしろとかなり怒られるっ!」
「旦那様は充分ミネラ様を大事にしておいでです。それに旦那様、この度のことは旦那様のせいではありませんし、きちんと説明すれば、お父上殿も分かってくださいましょう。」
「はぁ~~~~~~~~~~~。父上を頼るのは嫌だが仕方ない、書き上げたら呼ぶから、もう下がっていいぞ。」
「では、失礼いたします。」
ニコラスが執務室を出ていくと、メルサスは呼び鈴を鳴らし、メイドにローズティーを頼む。きっと、ワインの量の方が多くなるに違いない。
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