第9話 白雪姫、死す!
弟王子がキスをすると言って、白雪姫のケースを外します。すると、彼女の顔が赤くなり、ほっこりとし始めました。それを見た王妃は、自分こそが白雪姫に愛されていると勘違いします。わずかな差で、彼女が自分に微笑んでいると思っていました。
「王子様、やはり童貞にキスをさせるのは、大人の観点からは許す事ができないわ。ここは、私が責任を持って白雪姫と熱いベーゼを交わします! 童貞卒業は、とりあえず二十歳になってからにしてください!」
王妃は、弟王子を無理矢理押しのけて、無防備な状態になった白雪姫に突撃して行きます。白雪姫は眠っていて動かない、この思い込みが王妃にとっては致命的な間違いでした。
彼女は、毒入りのリンゴを使ったアップルパイを食べましたが、もう半分は普通のリンゴを使って作られたために、4日ほど経つと眠りから目覚め始めました。虚ろな状態でも、愛する王子以外のキスは受け付ける事ができない。
眠り続けているはずの白雪姫は、自力でガラスケースを移動させて、王妃の熱いベーゼを防いでいたのです。無防備だと思った白雪姫との間に、障害物が突然現れて、王妃は間抜けな顔を晒して失神してしまいました。
「白雪姫、なぜ……」
王妃は間抜けな顔を群衆に晒したことよりも、白雪姫に拒絶された事がショックでした。そのまま彼女の前で気絶してしまいます。弟王子とのキスが目前に迫っている事を悟り、白雪姫は再びガラスケースを外して無防備な状態に戻っていました。
「白雪姫、本当に眠っているのか?」
「うおおおおおおおおおお、白雪姫、好きだ!」
弟王子がそう呟くと、今度はブタ王子が白雪姫に向かって突進して来ました。ブタ王子の体重は、100キロ超。マトモにぶつかれば、白雪姫でさえガラスケースごと吹っ飛ばされてしまいます。白雪姫は、自分の死を始めて感じました。
「寄るな!」
白雪姫は、突っ込んで来るブタ王子の首筋にナイフで切り付けました。完璧なタイミングと急所を突いた攻撃により、確実にブタ王子の首を討ち取れるハズでした。しかし、ブタ王子もただのブタではありません。彼女の攻撃を見切って、紙一重で躱していたのです。
「くう、危なかった! 俺でなければ、けい動脈を切られて死んでいたね。全く、白雪姫は恥ずかしがり屋なんだから……。でも、もう大丈夫、僕が優しく目覚めさせてあげるよ♡」
(ちっ、もう少しで始末できたものを……。突っ込んで来られてもアウトだったけど、まさか渾身の一撃を避けられるとは……。やっぱり毒殺しか手がないのか……。ああ、このままでは、このブタ野郎に唇を奪われてしまう。どうすれば……)
美しい白雪姫の目に、一粒の涙が流れ落ちました。たとえ一時とはいえ、ブタ王子に唇を奪われるのです。人生において負けや敗北、挫折を知らなかった彼女にとって、唯一の絶望感を味わっていました。恐ろしいケダモノが自分の前で舌舐めずりをしているのです。
(ああ、こんなケダモノにキスをされてしまうだなんて……。本当にショックで死んでしまうかもしれない。さようなら、弟王子様、白雪は最後まであなたの事を愛していました。先立つ不孝をお許しください)
白雪姫は、熊のように立ちはだかるケモノを前に死を覚悟しました。その顔は青ざめており、今にも死にそうなほど苦しそうな表情をしていました。恐るべき息を吐く唇がスローモーションのように迫って来ます。その瞬間、白雪姫は本当に息を引き取っていたのです。




