第3話 白雪姫は独り立ちする
王妃は、白雪姫と一緒に住んでいたが、魔法の鏡だけは彼女に見せないようにしていた。賢いとはいえ、まだ7歳。鏡を破って、その可愛い顔が傷付いたらと思うと、王妃には耐えられない事でした。そのため、割れやすいものは全て取り除かれていました。王妃だけの個室に、ひっそりと置かれていたのです。
「鏡よ、鏡、世界で一番美しいのは、誰?」
「王妃様、と言いたいですが、今は投票結果で見ると白雪姫です。だんだん投票する年齢が若くなっていますからね。王妃様を熱狂的に支持していたお年寄り層が出歩かなくなり、投票する事ができません。代わりに、ネット投票が増えて、若者が白雪姫推しになってます」
「なんですって!?」
「本当です。『もう王妃様の時代は終わった。胸もないくせに無理してセクシーな格好をしていたけど、さすがに無理があり過ぎる。今は、ちっぱいの白雪姫が一番可愛い♡』。
『王妃様は、夜10時頃の入浴シーンが最高! でも、相対的に見ると、やっぱり白雪姫かな。なんか、作曲とダンスも自分で考えているらしい。野心的だけど、その努力が可愛いと思ってしまう』。
『白雪姫、最高! 最近は、7歳なのにオッパイが育って抱きしめたくなる。今は、Aカップだけど、いずれはEカップを超えるはずよ。ああ、隣国の王子に嫁がせるのが惜しい!』。こんな感じで意見が届いております!」
「何ですって!? まあ、最後の意見は私が書いたんだけど……」
「自分で白雪姫に投票しないでくださいよ。もう聞く必要ないじゃん!」
「いえ、あなたの答えは間違っているわ! 一番美しいのが私で、一番可愛いのが白雪姫よ。そこを訂正しておきなさい!」
「一番変態なのが王妃様で、一番腹黒いのなら白雪姫なのですが……」
「うーん、ちょっと2人で仲良くし過ぎたのかしら? 本来ならば、白雪姫を学校とやらに通わせる年齢だもんね。四六時中一緒に居たいけれど、心を鬼にして彼女を突き放さないと……。
よし、森の学校に通わせましょう! そこで勉強している白雪姫の可愛い姿を激写するのよ。変な同級生や教師に襲われても困るし、私が変装して定期的に見学に行きます。そこで可愛い雪ちゃんを観察するのよ!」
「では、早速小学校を手配しましょう。なんでも、7人の小人とかいう賢者が森の中で学校を設立しているそうです。そこならば、有名な王子様も通う名門校だとか……。そこに入学させて、白雪姫が結婚する相手を見つけて見てもいいかもしれません!」
「7人の小人の教師!? 雪ちゃんに手を出そうものなら、その首討ち取ってくれる!」
こうして、王妃様の計らいにより、白雪姫を学校に通わせる事になった。アッシー君の狩人によって、美しく成長した白雪姫は住み込みで学校へ通う手続きを済ませた。だが王妃様が一緒に住んで学校に通わせるという切ない想いが、アッシー君の要らぬお世話で儚く崩されていた。
「狩人のこの野郎! 私の白雪姫を学校の寮生活で住まわせるなんてどういうつもり!? ああ、白雪姫を見た男どもがアニマルと化したらどうするつもりなの?
いえ、あなたもすでにアニマルになっているのね? 白雪姫の貞操を守れるのは私しか居ない。狩人のアッシー君は、ここでお別れのようだけどね。長い間のお仕事、お疲れ様です!」
王妃様は、斧を持参して、狩人に振りかぶる。頭を砕こうが、胸を切り裂こうが辞さない覚悟だった。それを狩人が命懸けで説得する。すでに、何人もの使用人が迂闊に白雪姫に近付いて命を落としているのだ。彼も、白雪姫の手紙を用意していた。実は、これは白雪姫の願いでもあったのだ。
「王妃様、誤解です。白雪姫様たっての希望で、学校の寮に住み事の決めたんです」
「まあ、雪ちゃんが自分で決定を……。嘘だったら、あなたの首が飛ぶわよ。覚悟なさいね♡」
王妃は、指パッチンをすると数人の兵士が姿を現した。狩人の両手両足を縛り、すぐに首を切れる状態に押さえ付けられていた。白雪姫の手紙の内容によっては、狩人は殺されてしまうのだ。王妃様は、白雪姫の手紙を緊張した面持ちで読む。中にはどんなことが書かれているのだろうか?
「愛するお母様へ」
「いやーん、愛するなんて♡ 雪ちゃんったら本当に良い子なんだから♡」
狩人は囚われながらも、王妃の照れる姿を見て、早よ読めとツッコミを入れていた。自分を殺そうとしている人物のはずなのに、彼女の表情が変わって安心感を感じていた。今の状況ならば、殺されることはないと甘い考えが脳裏をよぎる。
「お母様、私は今までずっとお母様と一緒に生活して幸せに暮らしていました。でも、生活環境が変わった時にも上手く対応したいと思い、このボロい学校の寮に住むことを断腸の想いで決意したのです。お母様も、私を信じて1人での生活をお許しください。
PS :そろそろ私も可愛い妹が欲しいです。そろそろお父様と仲良くなってはいかがでしょうか? あと、狩人の男性が、私を嫌らしい目で見つめていました。目をくり抜いて、皮を剥いでkillしてください♡ あなたの白雪姫より♡」
「いやーん、そういう事ならお母さん頑張っちゃう! まずは、言われた通りに汚らわしい狩人をkillしておくわ♡」
こうして、アッシー君の狩人は、無残な変死体となって森の中に放置されていた。腸だけは健康に良いという理由で王妃様が美味しそうに食べたという。この事件は隠蔽されて、明るみに出る事はなかった。