第2話 白雪姫は美しく成長する
王妃様の日課は、彼女が苦労して手に入れた魔法の鏡に質問する事だった。この世界で誰が一番美しいかを問い、自分こそが一番である事を知って安心して生活できたのだ。ここ数十年は、いつも通り「世界で一番美しいのは、王妃様です!」というお決まりの言葉が出る。聞き飽きたようなおべっかの言葉だった。
「やっぱり私が一番美しいのね。ああ、敵がいないというのもつまらないものだわ。更に、美しくなろうという意欲が湧いて来ないもの……」
「はあ、私も社交辞令を言うのも疲れますよ。私の好みは、オッパイの大きいムッチリ美女が好きですから。美女にもいろいろタイプがあって……」
「あーん、今まで偽りを語っていたのかしら? 破るわよ?」
「いえ、もう少し体を鍛えられたら、健康的な美女になれると提案しただけです。悪気はありません。健康状態も美女の条件の1つですから……」
「なるほど、健康も美女の条件とは、一理あるわ。最近は、脂っこいものばかり食べてる気がするから、あっさりした野菜などやイノシシの肉なんかを食べた方がいいのかもね。ちょっと狩人を雇ってキモとか腸なんかのゲテモノも食べてみようかな。
コラーゲンたっぷりで私の肌質が向上するかもしれないし……。おっと、白雪姫を世話する時間だわ。最近は、あまり私の世話も必要としなくなって、反抗期に入ってきたみたい。5歳の女の子って、扱い難いわ。少し厳しく接した方がいいのかしら?」
「王妃様ですからね。普通の母親と一緒ではいけません。2人きりの時はともかく、大勢の人々がいる中では、女王の威厳を振舞った方がいいでしょう。王妃様の名前を呼ぶのとか、娘の名前を正式名称で呼ぶとか。白雪姫はともかく、民衆に侮られてはいけません!」
「なるほど、雪ちゃんとか呼んではダメなのね。頬擦りも、キスも2人きりの時しか許されないなんて……。私が雪ちゃんのファーストキスの相手だというのに……」
「王妃様は病気だ」
こうして、王妃様は陰ながら白雪姫を愛していた。2人きりになると、一緒にお風呂に入ろうと興奮した様子で誘ったり、ハグを何分間もして、彼女に警戒されていた。最近では、キスも拒むようになり、王妃のストレスは溜まって行く一方だった。
王族の生活は、華やかに見えるが、民衆に対しては威厳を保たなければいけない。それは、親子である王妃様と白雪姫も同じだった。彼らのいる前では、気軽に名前を呼ぶこともできないし、ハグやキスも制限されてしまう。王様の前でも例外ではなかった。
「国王様、あなたの娘である白雪姫が謁見の間に参りました!」
「うむ、今日も相変わらず美しいな。お前は、国民の顔だ。これからも努力を怠らず、女王陛下のように美しくなりなさい。容姿だけでなく、心や仕草も美しくなくてはいけない。恋愛行為はもちろん、お酒も控えるようにしなさい」
5歳の超絶美少女に向かって何を言っているんだ、このオヤジ。王妃様は、そう言葉に出そうになりましたが、白雪姫がいる手前、威厳のある女王陛下でいなければなりません。一呼吸おいて、白雪姫をフォローする言葉を語り始めました。
「国王様、白雪姫は健全で素晴らしい娘です。そのような心配はご無用に感じますが……」
「うむ、女王陛下が彼女を信頼するのは、もっともな事だ。だが、彼女が悪い事をしていなくても、兵士の中には悪い考えを抱く奴らもいる。男性だけでなく、女性とも2人きりの時は注意した方がいい。美しいというのは、それだけで人を魅了してしまうものなのだ」
「うん、たしかに、白雪姫は食べちゃいたいくらい可愛い♡ はっ、いえ、美しいですからね。他の国の王子様へ嫁ぐ前に傷物にされては、王国にとっての損害となります。
大切に、大切に、大切に、監禁して、拘束して、私が見守っていないと……。兵士といえども、白雪姫にちょっかいを出す輩には、死刑を言い渡さなければなりません。まあ、私が絶対にそんな事はさせませんが……」
「白雪姫を大切なのは分かるが、あまり拘束し過ぎても息苦しいぞ。可愛い子には旅をさせろという、少しばかり白雪姫をどこかへ預けてもいいと思うが……」
「きさま、私と白雪姫を引き離す気ね。そうはさせるか!」
王妃様は、玉座に座る王様を足で挟んで、そのままバク転するようにして蹴り飛ばした。体を鍛えていた王妃のキック力は強く、一撃で王様を玉座から引きずり下ろし、王様にも民衆にも恐怖を植え付けていた。事実上の国のトップは、女王陛下である彼女だと人々は思ったのだ。王様は、怯えながらこう話しを続けた。
「すいません、王妃様。しばらくは、お城の元で白雪姫を世話いたします。せめて、姫自らがいろいろな問題に対処できるようになるまでは……。それまで、白雪姫の事は王妃様にお任せします!」
「うふふ、どんな王子様に嫁いでも恥ずかしくないような、絶世の美女に育ててあげるわ。
私が手取り足取り、食事からベットの中に至るまで世話してあげるからね♡ 王様公認だから、寝室も勉強部屋も食事も一緒にしますわ♡」
王妃は、白雪姫を愛し過ぎて暴走し始めていた。実の母親だが、恐怖を感じるほどの溺愛ぶりだった。白雪姫は、女王のベットで一緒に寝たり、あーんをして食べさせられたりしたが、今のところは手を出して来ない事を知って安心していた。そうした生活が丸2年間も続けられた。
「ちっ、ババアが……。四六時中一緒にいて、息が詰まりそうなんだよ! はあ、良い子ちゃんぶるのも疲れるわ。これじゃあ、結婚前の夜遊びどころか、男性と手を繋ぐことさえできやしねえ! かといって、逃げられない。
まさか、監視カメラと発信機まで取り付けられるとは……。1時間でも姿が見えなくなると、探しにくるからタチが悪い。発信機も自分では取り外せないし、誰かが外そうものなら外した奴が殺されるし……」
白雪姫は、女王の理想通りの美しい女の子に成長して行った。しかし、その心は不良少女のようにやさぐれ始めていた。女王が見ている前では、ヌイグルミや小動物を愛する可愛い女の子だが、見ていない前では踏んだり蹴ったり殴ったりしていた。
こうして2年間の時が過ぎて行き、白雪姫も7歳の美しい娘に成長していた。彼女に数秒間見つめられるだけで、男性どもは胸が苦しくなって倒れてしまうほどなのだ。胸も豊かに実り、白い谷間を出しても嫌らしくない気品を備えていた。
「くっくっく、お母様、これ以上私を拘束できると思わないでくださいね。私は、あなたの教育により、罠を張って殺すことも、鞭を取り上げて調教する事もできるのよ。これからは、私がお母様を優しく優しく優しーく看病してあげるからね♡」
白雪姫も、なんだかんだ言って王妃様を愛していた。歪んだ愛情を生んだ親子が、お互いにどうやって相手を弄ぼうかと考え始めていた。白雪姫の美しさに感化され、王妃も更に美しさを磨いている。その噂は、隣国だけでなく、全世界に伝わっていた。