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第10話 白雪姫、眼を覚ます

 白雪姫は、本当に息をしていません。ブタ王子の吐く息を吸わないようにしていたため、呼吸困難になり呼吸機能を放棄していたのです。弟王子はその事に気が付き、ブタ王子を止めます。


 突進するような勢いだったら止められませんが、スローモーションのように良い気分に浸ってキスしようとしていたので何とか交渉する事が可能でした。白雪姫が食べたアップルパイを彼の口まで持って行き、無理矢理食べさせていました。


「おい、何をする? せっかく良いムードだったというのに……。ムシャムシャ、眠い……」


 弟王子の機転によって、白雪姫は死ぬギリギリのところで守られました。彼女としては、死んだような気分でしたが、まだ肉体は汚されていません。清い状態のまま、ガラスケースの中で気絶しているのです。弟王子は決心したように、白雪姫に近付きます。


「白雪姫、ごめんなさい。僕がお兄様を倒せるほどの勇気があったら、君にこんな苦痛を経験させる事はなかったのに……。でも、やっぱり君が好きなんです。これからは、お兄様でも容赦しない。君を大切にしていきますから、眼を覚ましてください!」


 弟王子はキスをしますが、白雪姫は目覚めません。全ての呼吸能力を放棄しているために自力では呼吸ができない状態なのです。わずかに痙攣しているものの、ブタ王子に襲われたという思い込みが彼女の生きる意志を失わせているのです。


「もう、ダメなんだろうか? 白雪姫、生きて笑って欲しい。僕の作ったアップルパイを食べて欲しい。お兄様は、あなたを暗殺しようとした罪で処刑しますから、どうか眼を覚ましてください!」


 弟王子は、もう一度優しく口付けをします。すると、目を覚ました彼女と目が合います。その瞬間、興奮した彼女は邪悪な笑みを浮かべていました。これで邪魔なブタ王子は抹殺する事ができ、弟王子と結ばれるのです。


「それ、本当? 本当に、ブタ王子を王族殺しの犯人として処刑して、私を王妃にしてくれるのかしら? 嘘だったら、この場でブタ王子とあなたを血祭りにあげるわよ。あなたの事は好きだけど、ブタ王子と一緒に生活する気はないからね」


「白雪姫、やはり目を覚まして……」


 弟王子は彼女が目を覚ました事に気付くと、彼女とのキスを中断しようとしましたが、白雪姫自身が彼の頭を引き付けて、貪るようにキスしてきました。弟王子も彼女の強引なキスを気に入っており、群衆が見ている前でキスし続けていたのです。


「おお、白雪姫の愛する人は、この王子様なのか……」


 無知で馬鹿な群衆も、ようやく白雪姫と弟王子が両想いである事を悟りました。ブタ王子と王妃のみがその事実を認めようとしませんでしたが、この良い雰囲気を壊す事はできません。仕方なく、彼女達が別れる計画を立て始めます。


「ダメよ、雪ちゃん、2人はまだ子供、子作りなんて早過ぎるわ。孫の誕生は、もう少し後でも良いじゃない。何も、子作りを始めれる最低限の年齢からじゃなくても問題ないわよ。せめて、『初めては17歳くらいにしておきなさい!』」


 王妃は、白雪姫の体を心配してこのように言っていた。この時代の結婚は、10代くらいが当たり前であったが、子供を産むとなると15歳以上の年齢が望ましい。今の日本政府は、16歳で結婚は早過ぎると見て、19歳くらいに定め始めた。


 やはり時代と習慣などが関係してくるが、結婚するとなると20代後半あたりが最適だろう。35歳を過ぎると男性の性欲は衰えてくるし、20代前半だと女性はそこまで性欲に強くない。20代後半から30代前半にかけてが子作りに最適な黄金期と呼ばれている。


 白雪姫と弟王子は、そこまで考えていないが、少なくとも20代まで子作りをするつもりはなかった。子供を作るというのは簡単な事ではない。女性は子供を産む事によって体型さえも変わってしまう危険があるのだ。


 絶世の美女と呼ばれた自分が、早めに体型を変えてしまうのは、国の至宝を破壊する犯罪行為だ。その為、いつが良い時かを夫婦で慎重に話し合い、自分達が望む時に子供を生み出すのが一番良いという結論に至っていた。


 王妃は、2人が早過ぎる子作りをしないかと心配しているだけだったが、ブタ王子は名前通り、いや体型通り汚いやつだった。白雪姫と弟王子がラブラブしているのを見て、嫉妬の炎を燃やしていたのだ。弟王子といえども亡き者にしようとしていた。


「白雪姫は絶対に渡せない! 弟王子、暗殺してやる! 弟王子が死んで傷心しているところを、僕が優しく慰めてあげるよ、白雪姫♡」


 ブタ王子は、恐ろしい計画を立てていましたが、白雪姫には一切通用しません。先に自分が暗殺されかけた事を国中に申告して、犯人探しに乗り出しました。自分が毒入りのリンゴを生み出した事は隠蔽しておき、真犯人がブタ王子である事を説明したのです。


「そういえば、僕に白雪姫のためにアップルパイを作ろうと言い出したのは、お兄様でした。まさか、それが白雪姫を暗殺する計画だったなんて……。それに、白雪姫の周辺には変死が多過ぎる。それもお兄様の仕業だったのでは……」


「本来は、使用した2つのリンゴの両方に毒物を仕込んでいたのでしょう。しかし、幸いにも1つのリンゴにしか毒物は混入されていなかった。そのため、私は死の淵より生還する事ができたのです。国の為、人の為、私の為に、ブタ王子の処刑を命じます!」


「僕が後継者となった以上、お兄様はもう必要ない。白雪姫を殺そうとした以上、そんな危険な人物を生かしておくわけにはいかない。即処刑するんだ!」


「お待ちください、弟王子。汚らわしく、ケダモノくさい彼ですが、それでも私を愛していた事は事実です。その事に敬意を表して、私の美しい花嫁衣装を見せて差し上げたい。その後、自分のしでかした罪を実感しながら死んでもらいましょう!」


「ああ、白雪姫、君はなんて慈悲深いんだ!」


(ふん、結婚式の当日にブタの丸焼きなんて豪勢だものね。奴の叫ぶ声が、私達を祝福する讃美歌に聞こえてくるわ!)


 自分の計画が成功して、白雪姫は元の冷酷で腹黒い女の子に戻ってしまいました。王妃と同様に、生きた人間の悲鳴を聞くのが大好きなドSの女王として成長していきました。


 奴隷小人の犠牲者数も少なくありませんでしたが、それらは全てブタ王子の手先として処刑していったのです。結婚式のメインディッシュに、自分を死の淵まで追いやったブタ王子を丸焼きにする事を計画して、嬉しそうに毎日の生活を送っていました。

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