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プロドの冒険

外伝に載せていた短編を

こちらに移しました。



金で解決出来ぬ事など、無いわ!

今でもそう思っている。だが、その金が今儂には無い。


帝都に魔族が溢れ、帝国の滅亡を予感した儂は、夜の闇に紛れ、帝都から逃げるという選択をした。あのような魔族の群れ、倒せる筈がない。金が通用しない、数少ない者が魔族だ。


身の回りで持ち出せる、高級な物から選び馬車に積む。この辺の賢さと先を見る目が、儂が男爵まで上り詰めた所以であろう。後は話術でどうとでもなる。


山間を抜け、森を迂回すればハクタンに出る。

あの街には、帝都で目をかけてやった商人が出す店がある。その者に命じて、儂の世話をさせよう。そういう目算だった。


森に差し掛かった頃、五名居た供回りは、二名に減っていた。あるものは魔物に、あるものは毒蛇によって命を落とす。気がふれて逃げ出す者も居た。まったく、胆力が足りぬ。

その二名が、馬車を停め相談をしている。どうやら賊が潜む辺りを通るらしく、上手く躱す算段をしているようだ。さすがに儂が目を掛けてやっている者達、この辺りの賢さは並の従者には無いな。


「男爵様、荷物を二つに分けましょう。」


「何故じゃ?」


「この先、賊の住処と言われております。最悪の場合、賊に多少の金品を渡し、その隙に逃げるのが最善の策かと。」


「うむむ……」


「男爵様、命あっての物種と申します。まずは無事にハクタンまで抜けることを優先致しましょう。」


「……えぇい、わかった。して、どう分ける?」


「嵩張る物、重い物を後ろに、手で持ち、一人で運べる物を前に。」


「何故じゃ?」


「重き嵩張る物にて、賊の足止めに致します。手で持てる物ならば、仮に馬車を捨てても運べまする。」


「あいわかった。そのように致せ!」


流石は当家随一の知者。こやつの策ならば間違い無かろう。


再び馬車を走らせる。森の中心に近い辺りで、御者が叫ぶ。


「男爵様、賊でございます!矢を放って来ますゆえ、後ろの荷の間に、お隠れください!」


儂は布を被り、荷の間に身体を埋めた。激しい揺れとガチャガチャと鳴る金属音。ガタン!と大きく揺れると、次第に喧騒が遠き、馬車はピタリと止まった。


「賊は去ったか?」


儂は布を取り、顔を上げた。周りには従者の姿は無い。代わりにむさ苦しい野盗が十数名、荷車を囲んでいる。

そう、荷車だ。前に繋がっているはずの馬車が居ない。


ようやくわかった。儂は重く運びづらい財宝と一緒に、賊の足止めに捨てられたのだ。馬車を身軽にして、まんまと二人で逃げおった……流石は当家随一の畏さ……


儂は身ぐるみ剥がされ、その場に打ち捨てられた。荷車に残った布を被り、荷を縛っていた縄で腰を結んだ。荷車の留め具の金棒を抜き、杖代わりにする。情けない。だが辛うじて手放さずに済んだ物があった。男爵の記章だ。これさえあれば、儂の身分の証になる。ハクタンに辿り着けさえすれば、なんとかなる!


儂は必死の思いでハクタンに向かった。二日だ。丸二日儂は歩いた。目当ての宿屋に着き、女将を呼んだ。


「プロド様ではありませんか!いったいどうなされたので?」


「森で賊に襲われてな。命からがら逃げて来た。しばらく世話になる。」


「宿代は、お持ちですか?」


「言うたであろう!賊に襲われたと。金は持たぬ。」


「プロド様、ご存知無いのですか?貴方の爵位は、剥奪されたのですよ?」


「な、なんだと!」


「今貴方は、国を捨て、逃亡を計ったお尋ね者です。しかも無一文だなんて……貴方を宿に泊めたら、こちらの商売が危なくなります!お引き取りください!」


「わ、儂の恩を忘れたか!」


「しつこいねぇ、衛兵を呼びますよ!」



こうして儂は、町中を逃げ回り、遂には衛兵に取り押さえられた。金さえあれば、金さえあればあの女将だろうが衛兵だろうが、儂の意のままになったものを……

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