D4-2
バンパイアは片っ端から斬りかかった。
霞のように消えては現れる幻影。その間を縫って拳や斬撃を受ける。切られた相手に切り付けても、その姿が掻き消える。バンパイアはじわじわと追い詰められていった。
それもそのはずである。ジャンの幻影に本物のまどか達、しかも短距離転移を使っている。ハンスは不可視化を使い、虚像に合わせてナイフを繰り出す。そう簡単には破れない、むしろ時間が経てば経つほど深みに嵌る術であった。
だがバンパイアはあることを思い付く。
「なるほど分が悪いな。だが私にも奥の手があるのだよ。」
そう言うとバンパイアは爪を収め、両手で印を結んだ。
「さぁ、ハンスよ。我に従え!」
すると突然、ハンスの自由が効かなくなった。不可視化も解け、腕が勝手に動き出し、誰彼構わず切り付けた。
「くっ、アームカバーをしててもコレっすか!」
「さぁハンス、厄介な術者を切るのだ!」
必死で抑えるハンス。だがその手はジャンの方へ向いている。
「そこか!」
バンパイアは再び爪を出し、ジャンに斬り掛かる!ハンスは咄嗟に跳躍し、ジャンに体当たりした!
「うわぁーっっ!!」
ハンスの両腕が、ぼとりと落ちる。
「「ハンス!!!」」
「だ、大丈夫っす……こんな言う事聞かない腕なら、無い方がマシっす!」
まどかはハンスの元に転移する。
「ミドルキュア!」
傷は塞がるが、さすがに腕の再生までは出来ない。
「まだ終わりではないぞ!ハンス!やれ!」
バンパイアの声に、切り落とされたハンスの腕がジャンに襲い掛かる!
「バシュッ!!」
ハンスの腕のナイフが、ジャンの喉元で止まっている。ジョーカーが腕を掴んで押し留めていたのだ。
「厄介な……」
それを見たハンスが言う。
「まどか様、俺の腕、燃やしてください。こんな所で足引っ張るのは、俺嫌っす!」
「……わかったよハンス。お前の覚悟、無駄にはしない。」
まどかはハンスの切り落とされた腕を掴み、ジョーカーから受け取る。ジョーカーは握られたナイフを奪い取り、サッと拭うと、ハンスのベルトに収める。まどかは腕を掴んだまま、聖なる炎を灯した。ハンスの腕は、まどかの手の中で灰になった。
コバルトは、バンパイアの斬撃ではじき飛んだアームカバーを拾い、ハンスを連れて隣の部屋へ転移した。そこにはメグミとリンドーもいた。
「メグミお嬢様、ハンス様を頼みます。」
そう言うとコバルトは、再び転移で戻った。
メグミはアームカバーをハンスに装備し直す。
「ハンスさん、このアームカバーは、ユグドラシルの欠片で出来てるの。ユグドラシルは、死者も蘇生する程の癒しの力があると言われているわ。これを装備していれば、少しは傷の痛みも和らぐと思う。」
「そうなんすか?そう言われると、ほんとに痛みが和らぐっす。メグミさん、お願いがあるっす。これに……」
「本気なの?ダメよ!そんなことしたら……」
「若いの、君の発想、気に入ったぞ。私がなんとかしてやろう。」
「リンドーさんまで……」
「メグミ君、男という生き物は、そういうもんじゃよ。」
それからリンドーは、ある作業に入った。不承不承ながらメグミも手伝う。ハンスはメグミに促され、身体を休める為横になり、少しの間意識を手放した。




