A3-1
蔵の中。
まどかは杜氏達ともろみの状態について話し合っている。まどか不在の間でも任せられるように、入念に細かく相談した。
「さてと、後は呼び出しを待つだけか……」
その日のうちに、屋敷へ司教がやって来た。最初は時候の挨拶や、町の様子などの話しだったが、話題が法王との謁見の話しになったところで、
「堅苦しい席ではございません。一度会食などをして、法王様に旅のお話しなどお聞かせくださいませ。」
来た!まどかは少し渋りながら、諾の意を示した。
「おぉ!引き受けてくださいますか!では、後日迎えを来させますので、よろしくお願いします。」
そう言って司教は帰って行った。ハンスから話しを聞いていたまどかは、この駆け引きが滑稽に映った。
-ジョーカーはメイドの二人を連れ、ギルド御用達の鍛冶屋に来ている。自分のエストックの手入れと、メイド達の武器を選ぶ為だ。
「貴女達も、お嬢様方をお守り出来るように、武器を揃えましょう。得意とする物はございますか?」
「わたくしは、サイズでございます。」
「わたくしは、ハンマーでございます。」
「なるほど。わかりました。では、基本的な大鎌と、ハンマーを購入しましょう。後はご自分のマナを馴染ませて、強力な武器に育ててください。出来ますか?」
「「メイドの嗜みでございます。」」
「結構。後は収納アイテムを買って帰りましょう。」
三人は必要最低限の物を買い、屋敷へと戻って行く。見通しの良すぎるはずの屋敷の周辺、その様子がなんと、出かけている間に変わっていた。
「これは!どういう事でございましょうか……」
蔵の手前、何も無かった丘の入り口付近に、林が出来ていた。
「あ!ジョーカーさん、チェリーさん、コバルトさん、おかえりなさい。」
メグミが額に汗しながら、迎える。
「メグミお嬢様、これは、いかがなされました?」
「うん。あのね、樹木魔術の強化特訓中なの。蔦や茨以外、どんな物が出せるか試してたんだけど、夢中になりすぎて、こうなっちゃった……へへ笑」
「左様でございますか。」
「へぇー!これメグミがやったの!」
「蔵からまどかが見に来た。」
「ただいま戻りました。」
「お!ジョーカー、チェリー、コバルト、おかえり。」
まどかは林を見て廻る。
「これはいいな。メグミ、林の中に茨を張り巡らして。あと、果実が実るような木、出せる?」
「やってみる!」
メグミはまどかのリクエストに応えながら、蔦や茨を張り、林檎、桃、葡萄を出した。食材として買ったフルーツを媒介にして、木に成長させたのだ。
「これでいい?」
「うん。上出来だよ。林は屋敷の目隠しになる。反面、敵が潜むことも出来る。だから茨を張って潜伏しにくくしたの。果実を植えれば、虫や鳥、色々寄ってくる。鳥達は人の気配に敏感だからね。誰か来たら知らせてくれそうだろ?落ち葉や枯れ枝を踏んでも音が鳴るし、薪にもなるしね。」
メグミはまどかの言葉に呆れ返る。この人の頭は、どうなっているのだろう?いったい何処まで見えているのか、天才としか言い様がない!と思った。
「メグミは凄いな。こんな林まで作れるなんて。」
「まどか、凄いのはまどかだよ……」