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D2-2



牢獄は静寂に包まれている。

まどかとメグミは今、マナの体内循環と圧縮を行っている。魔術の基本は、体内のマナに属性を付与し、放出する事で自然界の事象を再現する事である。上位の魔術師、いわゆる魔導師と呼ばれる者は、それに加えて大気中のマナを取り込み、術の威力を底上げするのだ。


二人がやっているのは更にその上、大気中から取り込んだマナを体内で循環させ、身体を膨大なマナの器として、更に圧縮し、人の限界を超えたマナの制御である。

少しでも精神が揺らぎ、マナの制御を失敗すれば、溜め込み過ぎたマナに耐えきれず、肉体が崩壊する。その制御出来るギリギリを見極め、暴発することなく留める……それが第一の課題だった。


「本来は上位の魔獣が、体内で魔晶石を形成する過程を真似たものじゃ。それを人の身でやろうと言う、馬鹿げた術じゃの。じゃがこれが出来んことには、封印術は完成せん。決して焦るでないぞ。徐々に、徐々にマナを取り込み、練り上げるのじゃ。」


封印術修得は、まだ始まったばかりであった。



-その頃、島に残ったハンスは、一人悩んでいた。まどかの役に立ちたい……と、ここまで旅をしてきたが、日毎に強くなるまどかに、気後れしているのだ。出来ることと言えば、情報収集くらい。戦闘になれば、盾にすらなれない。まどかに与えられた道具を使って、やっと雑魚の相手をしている状態……


(足でまとい……)


まどかには、助かっているよ。と言われるが、男として、まどかに守られている現状を 手放しで受け入れることは出来なかった。


しかも今は、情報収集はマリアがやっている。ハンスの不可視化も、気配察知に優れた者ならば、容易に見抜かれてしまう。


(約立たず……)


ハンスの脳裏には、まどかにいつ告げられてもおかしくない、二つの言葉がループしていた。


町に出るハンス。生まれて初めて酒場に来た。飲んだこともない酒を飲む。身体がふわりとする感覚。だが心は軽くならなかった。

一人で飲んでいるハンスの向かいに座り、声をかける男がいた。


「ハンスさん、でしたよね。ご一緒させてもらっていいですか?」


ハンスは言葉を返さない。だが男は静かに飲み始めた。


「女はなぜ、強い男に惹かれるのですかね……」


突然男が呟く。ハンスの反応を見るでもなく、


「力のない正義は、悪ですね。周りも不幸になる。その点、ハンスさんは強いですな。」


「何言ってんすか、俺は弱い。力も知恵もない、タダの間抜けっすよ……俺に力があれば……」


「ほう。力が……欲しいですか?」


「そりゃ欲しいっす。でも簡単な話じゃないっすよ。」


「女だけでなく、男も力には憧れる。まぁ、手に入れる方法が、無いわけではないですよ。ハンスさんがその気ならね。」


「本当っすか!」


「私は人の力を引き出す能力があるんですよ。まぁ、多少の契約は必要ですがね。貴方が私の目となり、耳となるならば、力を引き出して差し上げましょう。」


「それだけでいいんすか?するっす。契約するっす!」


「そうですか。では……ここでは出来ませんので、外に出ますか。」


男はハンスを連れて、店の外へ出る。人気のない路地に入ると、男は足を止め、ハンスを振り返った。


「ここでいいでしょう。始めましょうか。」

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