I4-4
帝国領、メルクシティから西に20km程離れた場所に、その森はあった。
生命を司る神樹ユグドラシルを中心に、結界に守られた森。人を寄せ付けず、精霊の集いしその森は、神樹の森と呼ばれている。
メグミは森の正面に立ち、そっと目を閉じる。
『ただいま。』
メグミに反応したのか、鬱蒼とした森に、一本の道が出来る。まるで木々がメグミを迎え入れるかように、左右に避け、道を作ったのだ。
今回来たのは、まどかとメグミの二人だけだ。人の侵入を拒絶する森、まどかでさえ受け入れてくれるかが心配だった。もしも森が拒むなら、メグミ一人に任せる他無い。意を決してメグミは、まどかの手を引き森へ入った。
森に足を踏み込んでからずっと、誰かに見られている感覚、複数の目から監視されてるようだ。
「この人は大丈夫だから。」
メグミが声をかける。おかげで視線がだいぶ減ったが、一番強い視線は、そのままだった。
道の先に壁がそびえる。見上げるとそれは巨木であった。その前に光を帯びた美しい女性が立っていた。
「おかえりなさい。メグミ。それから、貴女はまどかね。見たところ戦乙女のようだけれど、何か御用かしら?」
「見てもらいたい物があるんだ。」
「何かしら?」
「貴女の記憶に、こういう匣は無い?」
「ないわ。もう用は済んだでしょ。お帰りなさい。」
「……そうか、邪魔したな。メグミ帰ろう。」
「ま、まどか!」
「メグミ、どうやらドライアドさんは、この森さえ無事なら、周りの世界がどうなろうと関係ないらしい。」
「そんな、なにもそんな言い方しなくても……」
「メグミ、正直に言うよ。元々私は、戦乙女になる気も、この世界でみんなの為に戦う……なんて気も無かったんだ。ただのんびりと、定年退職したおっさんみたいに、趣味とか娯楽とか、そういうことしながら暮らしたいと思ってた。でも、成り行きで旅をしていろんな人と関わる間に、この人達の生活を守れる力があるなら、守りたいって思うようになったんだ。」
「私だって、まどかと旅をして、みんなを助けたいと思ったよ!」
「全ての人を救うなんて、出来ないかもしれない。だけど、今目の前に居て困ってる人くらいは助けたいじゃないか!そして今それは、ここで悠長にお山の大将しているドライアドなんかに、かまってる時間が無いんだ。
匣の秘密が分からないなら、たとえ復活しようとも、何度でもバンパイアを倒すしかない。それが無限ループだったとしても……」
「まどか……わかった。私も戦う!この世界を見て、私なりの目的を見つける旅だったけど、ようやく見つけられた気がする。私も覚悟を決めたわ!
エリス、ごめんなさい。私もう、ここには戻れないかもしれない。ジーニアスはお返しします。私はメグミとして、これからもまどかと一緒に旅を続けます!」
決意を新たにしたメグミ。するとその意思に反応したのか、身体が白く、眩く輝きだした。
その光は邪を寄せ付けず、やがて光のローブとなりメグミを包む。
「やっぱり覚醒したか……神託だなんだと言われたが、私は聖女じゃない。バンパイアが聖女の気配を察知したのであれば、本物の聖女は、メグミ以外考えられなかった。改めてよろしくお願いします。聖女メグミ。」




