A2-4
まどかはジョーカーに、衛兵に出す食事やお茶の相談をした。
元の世界での、家を新築する時の大工さんへの対応に近い気がする。良い仕事をして貰う為には、こういう事が意外と大事。相手も人間。心があるからね。
衛兵は四人。一日8時間の三交替制。8時間の門番の後、半日は詰所に居て、来客の取次ぎや雑務、半日が休みという具合だ。詰所には、お湯を湧かせる程度の、小さな炉が持ち込まれていたが、使ってる形跡は無い。パンと干し肉、ドライフルーツ、あとは水といった食事がほとんどらしい。
「では、1時と7時、13時と19時でいかがでしょうか?」
「そうだな。いいだろう。」
独身の兵士ばかりなので、休みに帰ったところで、ご飯を作ってくれる人など居ない。逆に帰りたく無くなるかもね。
-まどかが屋敷を買った理由、その大きな一つは、腰を据えてやってみたいことがあったからだ。そのやってみたいこととは……味噌、醤油造りだ。今まで代用品を使っていたが、どうせなら本物を作りたい。丘になった敷地の、比較的低い場所に蔵を作った。土魔術でベースを作り、貝殻を焼いて砕き、漆喰を作って壁に塗った。突如出来た和風の蔵を 衛兵達は興味深く見ている。
まどかはギルドに頼んで、酒造りの経験者を探した。二人ほど見つかり、どちらも雇うことにした。その二人の伝手を頼って、樽作りも依頼する。穀物を取り寄せ、準備は万端だ。神託開示から、教会の目立った動きは無い。おそらく衛兵を見張りに付けた事で、向こうも様子を見ているのだろう。だったらやりたいことをやる!まどかは杜氏達とジョーカーを交え、味噌醤油造りを開始した。
味噌は、元の世界で祖母が自家製で作っていた。醤油は、テレビでやってた特集みたいな番組で見たことがある。その程度の知識だが、アプリさんの補助をフルに使って、試行錯誤しながら進めた。
「うまく出来るといいなぁ……」
-まどかが蔵に篭もりがちになっている頃、ハンスは、休みで町に戻る衛兵を監視していた。不可視化を使い、衛兵の後をつける。衛兵は教会へ直行し、司教に報告をしていた。
「……なるほど。彼の者は、食に対する執着が強いのだな。では、その辺から取り掛かることにしよう。会食に招き、秘薬を使って洗脳してやるか。クックック……」
『!洗脳?っすか……』
ハンスは急ぎ屋敷に戻る。蔵からまどかを呼び出し、報告する。
「まどか様、やっぱまどか様はすげぇっす。」
「なんだよいきなり……」
「まどか様の読み、当たりました。ヤツらまどか様を洗脳するつもりらしいっす!」
「詳しく聞かせて。」
まどかはハンスが見てきた事を全て聞いた。次第にイライラするまどかを見て、ハンスも慄いている。
「食べ物に細工して、他人をどうにかしようなんて、食べ物に対する冒涜だ!」
一度眠り薬を入れられた事のあるまどかは、あれ以来過敏になっていた。精神系の魔術にはレジスト出来るが、その行為は許せない。敵決定である。
「これは誘いに乗るしかないな……」
まどかは目的を探るため、会食に赴く準備をした。