I4-2
魔女王の屋敷、その床の亀裂の先に何があるのか、マリアは子蜘蛛を呼び出し、奥へと這わせる。
「……これは……鍾乳洞?地下にこのような物があったとは……」
広さにして千人規模のコンサートホール程の空間、壁にヒカリゴケが自生しており、閉鎖空間なのに周囲を視認出来るほどの明るさがあった。
(何かの施設という訳では無いのかな?とりあえず他の通路を探そう。)
マリアはある事に気付いた。閉鎖空間にもかかわらず、空気に淀みがない。亀裂があるとはいえ、そこまでの空気の対流は望めないと思う。
(外部に通じる穴があるのか?)
マリアは糸を飛ばし、空気の流れを探った。僅かだが、風を感じる。
(これは……潮の匂い……)
匂いを辿り、子蜘蛛が糸を伸ばしながら這い進む。すると海水が入り込んだ穴があった。
子蜘蛛は天井を伝い、先へ先へと進む。水没ギリギリの穴の先には、廃れた村があった。
-今から数百年前、小さな漁村があった。そこの村人は、全てが罪人。周囲を岩と海に囲まれ、陸の孤島とでも言うべきか……島から孤立した小さな海岸だった場所に、逃げのびた罪人達が住み着いたのだ。その村の掟はただ一つ、他人の過去を詮索しない事。ワケありな人々が、その日食べる分の食料を捕り、命を繋いでいだ。
ある日一人の罪人の男が、海岸に打ち上げられた匣を見つける。匣には封印が施されており、古代の文字が刻んであった。男は思いを寄せる女に、その匣をプレゼントしようと思い、女を呼び出す。
(きっと宝石が入っているに違いない)
そう思った男は、女の前で匣をこじ開ける。中には紅く光る石が入っていた。女は嬉しそうに石を取り出す。すると、
『よくぞ封印を解いてくれた!我が生贄となるがよい!』
声なき声が頭に流れてくる。石は女の手から胸へ、そして吸い込まれるように体内へ沈んで行く。そのまま女は男に撓垂れ掛かり、妖艶な笑みを浮かべると、口を吸った。男は波のように押し寄せる快楽の中で、木乃伊の如く乾涸びていった。
誰にも知られることなく出来たその村は、誰にも知られることなく一夜にして滅びた。
-廃村の事をハンスに告げ、秘密基地に戻るマリア。まどかはクリシュナの協力で、海側から廃村に上陸し、調べることにした。
子蜘蛛の張った糸を頼りに、海岸に向かう。流木が打ち上げられたような、一見すると村があったとは思えない海岸、辛うじて小屋組みの残る建物跡があり、捜査難易度は、遺跡発掘よりも高そうだ。
「些細なことでもいい。バンパイアに関するものが見つかれば、何かしらの手掛かりになる。みんな、慎重に頼むよ。」
漁村の捜索に、漁師ギルドの面子は頼りになった。ただの木切れにしか見えない物も、
「これは漁師が網を補修するのに使う道具の欠片だ。」
などと、その目を遺憾無く発揮した。
そこにハンスが、
「これもなんかの道具っすか?」
と、四角い物を持ってくる。ギルドの連中は、
「いや、見たことないな……お前知ってるか?」
と、口々に言う。ジョーカーがそれを見て、
「ハンス様、極わずかではございますが、マナが感じられます。」
まどかが手にする。装飾のように彫られた模様を見て、
「これは、何か文字のように見えないか?」
クリシュナがそれを聞き、覗き込む。
「これは!姉上の資料にあった、古代文字かもしれん。」
「解読出来る?」
「資料室に行かないと、何とも言えないが、調べる価値はありそうだ。」




