I3-4
クリシュナは、あれから時々、魔女王の森の資料室を訪れていた。
姉の遺した情報を少しでも吸収しようと思い、一冊ずつ手に取っては読み耽っていた。幼い頃、姉が枕元で物語を読んでくれた時のように、文字を追いながら、頭に流れてくるイメージを記憶した。
資料室を出て、元屋敷の横を通り過ぎようとした時、屋敷の中に人の気配を察知した。
(何を今時分……誰だ?)
クリシュナは、気配のする方へ近寄る。窓の隙間から覗くと、兵士が一人で調べ物をしているようだった。
(なぜ一人?)
兵士は床の亀裂を調べている。しばらくして立ち上がると、身体が薄く光り、その姿を蝙蝠に変えた。蝙蝠はそのまま、床の亀裂に入って行った。
(まさかバンパイア?死んだ筈なのに……)
亀裂の先に何があるのか?追いようがないクリシュナは、誰かに相談すべく王邸へ急ぐ。向かったのは聖竜王邸だった。この判断が、後にクリシュナの命を救う結果になったのだが、本人はそれを知らない……
-エミリオの部屋に、シルバ、まどか、ハンスがいる。情報の共有と、不審者の洗い出し、捜査の進展具合など、お互いに持ち寄り、皆がそれについて意見を言う。一通りの情報が出揃った頃(と言っても、有益な情報は殆ど無かったのだが)近衛の制止を振り切り、クリシュナが入ってくる。
「是非、ご報告したき義がございます!何卒!お目通りを!」
シルバが声をかける。
「クリシュナじゃないか!あー、この者は良い。通せ!どうした、慌てて?」
「元魔女王の屋敷で、バンパイアらしき者を見た!」
「んぁ?寝ぼけたのか?バンパイアはまどかが消滅させたじゃないか。」
「これを見てくれ。」
クリシュナは、資料室から持ち出して来た、一冊の本を出した。
「これは姉上が書いた、バンパイアの生態について研究した資料だ。ここを見てくれ。」
資料にはこう記されている。
バンパイアが不死と言われる理由は、二つの要因によるものだ。一つはその再生能力。上位のバンパイアは、首を切り落とされても再生可能らしい。
これを倒すには、聖属性の高位の術でないと、不可能である。あとは存在すら確認出来ないが、神属性と言われる御業であれば、消滅させる事が出来る……と言われているが、長命のエルフでさえ、その域に到達出来た者は居ない。
話を戻そう。要因のもう一つは、精神を他に移す能力。幾度となく復活するバンパイアであるが、その一部は、他者に精神を移し、肉体を乗っ取り、新たな生を持つという方法を使う。歴史上、数体のバンパイアが確認されているが、その中身は同一人物である……
「つまり、消滅の前に精神を移し、バンパイアは生き延びている……と言いたいのか!」
「私が見たのは、兵士の姿をしていた。そいつが蝙蝠に姿を変え、屋敷の床の亀裂に入って行ったんだ!」
「兵士か……そいつが武王に近付き、まどか討伐の入れ知恵をしたとすれば……」
「かなり不味いな。もしかすると、既に武王も眷族にされているかもしれない。私のミスだ。すまない……」
「まどかが謝る必要はない!おのれバンパイアめ!我が友を二度までも……」
シルバは血が滲むほど拳を握りしめた。そして何かを覚悟したように、部屋を出ようとする。
「シルバ!早まるな!今お前を失う訳にはいかない!」




