I3-2
霧に包まれた南の島に、魔物達に救いを与える教会があった。
人も、魔物も、精霊も、その島では平等であると言う。名も無き島と呼ばれるその島は、まどかという亜神を崇め、人と魔物の共存を教義としているらしい……
という噂が、魔物達に広まった。サキュバス改めマリアが糸を飛ばし、情報を広めたのだ。まどか達も、名も無き島の秘密基地に移り住んでいる。ハンスとジョーカーが大工仕事をこなし、扉や内装も完璧だ。ジョーカーのスキルは想像出来たが、ハンスもなかなか器用である。
メグミは林を再生し、冬虫夏草をはじめ薬草の栽培をしている。勿論果樹園も作った。良質の魚も捕れる。蜃気に隠されたこの島は、秘密基地として最良の地と言えた。
教会の事は秘匿された。魔物を救う教会と聞けば、良く思わない者も出て来るだろう。無駄な争いごとは避けたかった。
「やっと落ち着いたかな……」
当初は、元の屋敷を拠点とする予定であったが、聖竜王邸として兵士の数も揃い、大所帯になった。長々と居座る訳にもいかないだろう……と、新たな拠点を探していたのだ。
そこでまどかは、元の屋敷の森に東屋を建て、リンドーの使っていた転移の屏風を設置した。もう一枚を秘密基地に設置し、メグミやハンスでも転移出来るようにして、名も無き島に拠点を移したのだ。おかげて引っ越しもラクだった事は、言うまでもないだろう。
「しばらくのんびりしようかな……釣りとかしながら……」
「なんか、神様の休日って感じっすね。」
「ハンス、いい加減その神様扱いやめて!」
「いいじゃないっすか。神様なんだし。」
「お前、バチ当たるよ。」
「冗談っすよ!」
他愛もない話をしながら、スローライフを楽しむ。ようやく思い描いた生活が送れる……そう思った二日後、のちにコクシン島を二分する争いの火種が、静かに燃え広がろうとしていた。
-事の発端は、一人の兵士の密告であった。
「司祭は生きている。まどかは司祭と結託し、魔物の楽園を築こうとしている。まどかは魔王だ、聖女ではない……」
その報せを聞き、武王は内々に調査した。するとまどかは名も無き島を拠点に、魔物に救いを与える活動をしている……と裏付けが取れてしまった。
「俄には信じられぬ。しかし……」
武王は、まどかの強さに疑問を持っていた。人の身でありながら、神に匹敵するチカラ……もしそれが、魔王のものであれば……武王は納得してしまう。一連の流れが、魔王の計画であったとすれば……武王の考えが、最悪の方向で固まってしまった。
「騙されていたのか……誰かおる!国中に振れを出せ!」
傍らでニヤリと笑う兵士。口元からは鋭い犬歯が覗いていた。
-その頃まどかは、エミリオの屋敷にいた。事の顛末、その全てをエミリオには話していた。
「まどからしいな。」
エミリオはそう言って微笑む。シルバも隣で苦笑していた。しばらく談笑していた所に、武王の振れの話が飛び込む。
「ご報告申し上げます!武王様の名により、本日お振れが発せられました。まどか様を魔王と断定し、全軍を挙げてこれを討伐するとの事。聖竜王様、如何なさいますか?」
「はぁ?まどかが魔王?何処から出た情報だ!武王がそんな世迷いごと、信じたと言うのか!即刻調べよ!」




