I3-1
まどかは、名も無き島に戻った。
未だ焦げた匂いの漂う島の真ん中で、じっと周りを見ている。
「居るんだろ。」
声をかけると、石の下から蜘蛛が這い出し、人間の女性の姿になる。
「トドメを刺しに来たのか……」
「暴走は止まったか?サキュバス。少し話さないか?」
憑き物が落ちたような表情のサキュバスに、まどかは一つの提案をする。
「お前は選択を間違っただけだ。次は間違えるなよ。」
「自分でも、なぜこうなったのか分からないよ。こうすることが正しい、これしか道は無いと思い込んでいた。愚かな事だ……」
「サキュバス、もう一度生きてみろよ。輪廻の輪に戻る前に、この世界で償いをするんだ。戻るのは、それからでいい。」
「私は数百年人を騙して来たのだぞ?その償いとなれば、さらに数百年かかってしまう。」
「いいじゃないか。何百年かかっても。私はお前に、やってもらいたい事があるんだよ。」
「やってもらいたい事?それは、私の償いになる事なのか?」
「あぁ。そしてこれは、痛みを知るお前にしか出来ない事だと思うんだ。」
そう言うとまどかは、地面に両手を翳す。
(そうだな……屋敷をそっくり真似てみるか。)
まどかは土魔術を最大限発揮し、巨大な秘密基地を作り上げた。エミリオに譲った屋敷そっくりの。ただ一つ違うのは、一角だけは教会に作り替えてあった。
「なんだこの魔術は!」
「いいから入れよ。」
まどかは教会部分にサキュバスを案内し、自分の思いを語った。
「なぁサキュバス、人間の世界になぜ教会があるのか、知ってるよね?」
「心の救いを求めて……って事だろ。」
「あぁ。感情を持つってことは、悩むってことなんだ。これは人間も魔物も同じだろう。だったら、魔物用の教会があってもいいと思わないか?魔物にだって、強者も弱者も居る。
騙すヤツ、騙されるヤツ、暴れるヤツ、不当に狩り殺されるヤツ……必ず泣いている者はいるはずだろ?弱肉強食とはいえ、常に怯えて暮らす者には、心の救いがあっても、いいと思わないか?特に、抑圧された弱者が、ある日突然暴走するのを 食い止める事が出来るかもしれない。」
「私のような者を、二度と出さぬように……という事か……」
「そうだ。そしてもう一つ、理不尽に暴れている者が居たら、私に言ってくれ。そいつが魔物であれ人間であれ、調べて討伐しようじゃないか。私は種族で差別はしない。そいつの魂で判断する。」
「……さすがは聖女、いや、亜神だったな。私にまた司祭の真似事をしろと言うのか……」
「そんな堅苦しく考えるなよ。悩んでる、困ってるヤツの相談に乗ってやれよ。それで手に負えないヤツは、私に振ってくれ。どうだ?」
「確かに、私にうってつけの仕事だろうな……分かった、いや、分かりました。是非やらせて頂きます。」
サキュバスは深々と頭を下げる。
「よし。んじゃお前にも名前付けないとな……そうだなぁ、マリア……うん。今日からお前の名は、マリアだ!まぁココは私達の秘密基地にするつもりだから、ついでに留守番頼むよ、マリア。」
まどかが名を付けた瞬間、サキュバスに力が漲る。しかしそれは、キメラの時のような荒れ狂うチカラでは無く、優しく温かい力だった。
「私はマリア。まどか様に忠誠を誓う者。魔物達の教会にて、救いを与える者なり。」




