I2-4
爆散したキメラの欠片は、子蜘蛛に姿を変える。
もはや林は見るかげもなく、木々はなぎ倒され、荒地になっていた。
「まどか君、ここまでやったんじゃ、火を放つぞ。」
返事も待たず、リンドーはファイヤーボールを放つ。子蜘蛛の数が尋常ではないので、一匹ずつの掃討は難しい。まどかも承知するしか無かった。
「では、じっと再生を待つわけにもいきませんね。お前達!」
「「はい。ジョーカー様。」」
「「「三位一体、複合魔術。地獄の業火!」」」
まだ再生しきれていない身体を起こし、無事な方の手を三人重ね、ベノムバーストを三重詠唱する。広範囲に広がる大火球は、その炎に包まれた者を焼き尽くすまで消えない。跡には灰しか残らぬ凶悪な炎だ。
「今はこれが限度でございます。」
「ジョーカーさん、下がって!」
メグミは矢を空に向け放つ。天に届くほどの矢は、千本の光の雨となり、地上に降り注ぐ。
「豊穣の雨!」
光の雨に打たれた子蜘蛛は、その背から発芽する。リュウジュにヒントを得て、虫に寄生する菌を雨にして降らせたのだ。漢方薬に冬虫夏草という物があるが、これはそれを戦術的に応用したものだった。
武王の兵士達も活躍し、まどか達は子蜘蛛の殲滅を完了した。魔物の気配も無くなり、ようやく名も無き島の戦いは終わった。焦土と化した島に、鬨の声が上がった。
-魔導船に乗り、皆はコクシン島へと帰還する。
疲れ果てた皆は、到着までの間、泥のように眠った。まどかは一人、甲板に出て風に吹かれている。
(これで良かったのか?)
まどかは、言いえぬ感情の中にいた。何か達成感の無い、曖昧な感情。今回の討伐が、人々の為になった事は間違いない。だが何か納得が行かないと言うか、腑に落ちないというか、モヤモヤした気持ちが消えない。
(元の世界なら、酒でも飲んで寝たんだろうな……)
「まどかお嬢様、眠れないのですか?」
ジョーカーが甲板に出て来た。再生は終わっているようだ。
「スッキリしないんだよ。魔物の討伐は、冒険者ならば当然の事だろう。だが今回に限っては、何か後味が悪い……」
「左様でございましたか。やはりお嬢様は、命を奪うという行為が、あまりお好きでは無いのですね。」
「そうなのかもな……食べるため、我が身を守るために、今までもそういうことはしてきた筈なのにな。」
「心……でございましょうか。」
ジョーカーの言葉は的を得ていた。今まで数多くの、心の汚れた人間を見てきた。ジョーカー達のように、悪意無き魔物とも出会い、人と魔物という線引きにも違和感を覚える。
「私なりのやり方でやれればいいのに……」
「失礼ですがお嬢様、何を今更……これまでもそうではありませんか。」
「な!……それもそうか……そうだよな。うん、ジョーカー、武王への報告は任せる。私は急用があると伝えて。」
それだけ言うとまどかは、転移で飛んで行った。
(そうだよな。冒険者だからって、魔物は皆殺しって事じゃない。時には人間の犯罪者の捕縛だって、輩をぶっ飛ばす事だってある。問題は、その時の相手の心だ。魂を見極めればいいじゃないか!)
「やっといつものお嬢様にお戻りですね。」
ジョーカーはまどかがいた場所に一礼すると、船室に戻るのだった。




