I1-4
いよいよ名も無き島の探索が始まった。
ジョーカーは一度魔導船に戻り、必要な物資と武王配下の兵士達を島へ誘導する。魔導船はそのまま引き返し、武王への報告をする手筈だ。手の空いている魔導師を集め、名も無き島に誘導し、全員で風の結界を張れないか?と打診したのだ。
まどか達は返事が返ってくる間、島の海岸線の調査を始めた。MJ2それぞれに兵士を振り分け、上陸の痕跡などを探す。同時に島の地図を作成していくのだ。大まかな見取り図を描き、砂地や岩場などの情報を書き込んでいく。二日かけて全ての海岸線を回り、一枚の地図を仕上げた。地道な作業である。
三日目の朝、島に渡ってくる舟があった。乗ってきたのはリンドーだ。
「ふむふむ、興味深い。本当に島じゃな。」
「リンドー!結界の祠はどうした?」
「とっくに配置済じゃわい。しっかり機能しとる。そして……」
リンドーは地図を覗き込む。大まかな距離を聞き、ブツブツとお馴染みのつぶやきを始めると、
「ふむ。三つじゃな。」
と言って、ローブの下から三十センチ四方の箱を取り出した。
「まどか君、風の結界を張るのに、なぜ魔導師を集めるのじゃ?よもや私を忘れていた訳ではあるまいな?ん?」
「リンドーは忙しいだろうと思ったんだよ。やっぱり天才だな。」
「今頃気付いたのか。ほれ、ここじゃ。」
そう言ってリンドーは、地図に印を付けた。
「置いてこい。」
メイド二人を見て、頷く。まどかも同じく頷くので、
「「かしこまりました。」」
と、箱を抱え飛び出して行った。
「そろそろかの。」
リンドーは残る箱にマナを込めた。すると、島を囲むようにドーム型の膜が出来る。表面に霧が触れる度に、膜が薄く光っている。
「やはりの。まどか君の報告に、霧の正体が貝の魔物が出すもの……と聞いたので、微弱なマナを含んでおると思ったのじゃ。
この結界は、周囲のマナを吸収する。霧がある限り、結界は維持される……というわけじゃ。結界の内側の霧も、やがて全部吸収されるじゃろ。」
餅は餅屋……というべきか、この世界の最上位の科学者とも言える錬金術師の技術は、素晴らしかった。次第に薄れていく霧を見つめながら、まどかは思った。だが次の瞬間、
「ヤバいな。」
視界が良くなって林の樹上を見る。そこには、島全体に張り巡らされた糸が……正しくそれは蜘蛛の巣である。それはつまり、この島に司祭が潜む証であり、まどか達の侵入を察知された可能性が高いという事である。
「みんな!この先いつ襲撃があってもおかしくない。気を付けて!」
上陸メンバーに緊張が走る。ただ一人を除いて。
「ふむふむ、なるほどの。霧のマナが海水に溶け込んで、魚が活性化しておるのか……良い漁場じゃな。」
自分の好奇心が最優先のリンドー。まどかの警戒など気にしていない様子であった。
「まどか君、この辺りの魚は上手いぞ!」
「それは食べたいね。その前に私達が魔物に喰われ無ければね。」
「ほう。魔物か。さっさと片付けて魚を食おうぞ。」
微かに聞こえる耳障りな笛の音。ジョーカーのマナがざわついている。
「来たか。チェリー、コバルト、歌って!リンドー、魔笛があるよ!」
林の中に夥しい数の魔物の気配。それが今、這い出て来ようとしていた。




