I1-2
島の奥は、さながら原生林だった。木々に遮られ、霧に視界を奪われて、探索は思うように進まなかった。
「仕方ない。今日はこの辺りで……」
と、まどかが土魔術で基地を作ろうとするが、なぜが上手く発動しなかった。
「おかしいなぁ……」
「どうしたのまどか?調子悪いの?まぁ、せっかくだし、今日は私に任せてよ。」
そう言うとメグミは、木の間に蔦を這わせ、隙間を葉で覆ってテントのような部屋を作った。少し開けた場所を中心に、囲むように全員分の個室を作る。薪を集め、中央で火を炊くと、ジョーカー達が食材を準備した。
「このような場ですので、本日はBBQにいたしましょう。」
「そうだね。悩んでもしょうがない。この状況を楽しむか!」
最初は魔術阻害系の結界でもあるのか?と思ったが、メグミの樹木魔術は難なく発動した。まどかも火魔術は問題ない。しばらく考えていたが、途中でやめる。
(ご飯は楽しく食べないとね。)
まどかはBBQに専念する事にした。
-見知らぬ屋敷。まどかがハンスに手招きをする。
「ハンス、待たせたな。ご褒美の事なんだけど……」
「まどか様〜」
ハンスは浮かれて、まどかが手招きする方へ向かう。両手を広げ、微笑むまどか。ハンスはまどかの胸に飛び込んだ。ハンスの頬に雫が落ちる……
涙?まどか様が泣いている?ハンスが顔を上げると……
「ハンス!伏せろ!」
「へ?」
我に返り、即座に伏せるハンス。
「エクスキュージョンアロー!」
ハンスの頭上をメグミの放った矢が通り過ぎる!
「グギョァーッ!!」
辺りは原生林になり、ハンスの目の前には、矢に貫かれた魔物がいた。二足歩行のワニのような姿、身体は毛で被われている。
「な!まど……」
「しっかりしろ!ハンス!」
メグミの横でハンスに伏せろ!と言ったのは、目の前に居たはずのまどかだ。
「え?まどか様?」
「惚けてるんじゃないよ!離れろ!」
ハンスが飛び退いた瞬間、コバルトの鉄球が魔物を打ち、チェリーの大鎌が首をはねた。
「なにやってんだよ!食われるとこだったんだぞ?」
どうやらハンスの頬を伝った雫は、魔物の涎だったらしい。
「ハンスさん呼んでも返事しないし、魔物にフラフラ寄って行って抱きつくんだもの。」
「だって、ご褒美が……」
「……お前まさか、魔物を私だと思って抱きついたのか?それ、いろんな意味で最低だぞ。」
「またいやらしい事考えてたの?助けなきゃよかったかしら?」
「そんなぁ……でも本当にまどか様に見えたっす。周りもどこかのお屋敷だったし……」
「幻でも見たのか?だからって、抱きつくのは違うだろ。」
「すいません……」
まどかがハンスに説教をしていた時、ジョーカーは魔物を調べていた。
「まどかお嬢様、よろしいでしょうか。」
「あ、うん。どうした?」
「この魔物、不自然でございます。これに似た魔獣が居ないではないのですが、通常の魔物では無いように思われます。」
「と言うと?」
「この島の固有種……というのは、些か考え難うございます。残る可能性は、造られた魔物……キメラでは無いかと、思われます。」
(何者かが意図的に魔物を造り出す……なんのために?この一体が特殊なだけではないのか?)




