妄想(イメージ)よ、風を起こせ1-1
島の裏手、停泊地点。
この場所ならば、そこまで霧が濃くなく、ある程度の周辺の状況が見える。アンカーを下ろし、魔導船を安定させると、まどか達は小舟に降りる。太陽の方角を頼りに、名も無き島を探して漕ぎ出した。
ハンスはやる気十分で舟を漕いでいる。昨日からこの男の頭の中は、まどかのご褒美の妄想でいっぱいであった。今のハンスには、疲れという言葉は無かった。
しかしGPSも無いこの世界で、素人が舟を出すとは、聞く人によっては無謀という答えが返って来るだろう。まどか達がどのようにして現在地を確認しているのか……それは、上空に待機するジョーカーであった。
念話をリンクし、魔導船の見える位置から、魔眼でまどか達のマナを認識しているのだ。流石に姿形は見えないので、島の有無までは分からないようだ。しかし現在地さえ把握出来れば、ジョーカーの誘導で魔導船に戻れる。最低限の安全は確保出来ていた。
「さて、実験してみるか。」
まどかがまだ辰巳だった頃、トラックの運転中にも、霧に悩まされた事があった。その時に思ったのは、巨大な掃除機で霧を吸い込んだら晴れるかな?という事だった。
霧の正体は水蒸気である。纏めて水滴にしてしまえば、霧は晴れるのでは?という妄想であった。
元の世界では、ただのおっさんには無理な話だったが、ある意味なんでもアリのこの世界ならば可能かも?と思ったのだ。
まどかはまず、風魔術で竜巻を起こす。霧を巻き込み、ある程度まとめたら、氷雪魔術で冷やすのだ。冷やされた水蒸気は水滴となり、霙になって降ってきた。
「成功……と言えるのかな……」
局所的には霧を晴らす事が出来たが、またすぐに霧が流入して来る。時間にして10分というところか……
「マナ対効果は、あまり良くないか……風で吹き飛ばした方がマシかもな。」
それから、火魔術を使ったり風魔術のみで吹き飛ばしたり、色々試すが、決定打が無かった。
『まどかお嬢様、よろしいでしょうか。』
『ジョーカーか。どうした?』
『はい。霧が戻ります時に、一瞬ではございますが、マナの反応がございます。何者かが意図的に霧を発生させているのではないでしょうか?』
『場所はわかる?』
『今一度、霧を消して下さいませ。特定致します。』
まどかはもう一度風魔術を使い、霧を吹き飛ばす。すると、
『南西約1.2km、反応がございました。』
『よし。ハンス、頑張って。』
『承知!』
力を込め、舟を漕ぐハンス。だがジョーカーが示した地点に近付くにつれ、海流が安定しない。波に翻弄されながらも必死に漕ぐと、島影が見えた。
『あったよ。チェリー、コバルト、先行して。』
メイド二人は舟に付けられたロープを持ち、曳きながら島へ向かう。ハンスがそれを見て、
「最初から曳いてくれたら良かったんじゃないっすか?」
と、何やら愚痴を言っていたが、
「あの二人には、この後やってもらわなきゃならない事があるんだよ。ハンス、漕いでる姿、男らしかったよ。」
まどかの言葉で態度が一変した。この男、チョロい。
島に舟を寄せ、岩の突起にロープを縛ると、全員で上陸した。硬質な岩肌の、丸みのある海岸線。ここが名も無き島なのだろうか?ジョーカーも合流し、島の探索を開始するのだった。




